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ガタンゴトン、ガタンゴトン
通勤電車に揺られながら、私は週刊少年ジャンプを読む。大きなあくびをして外を見る。空を見るとぎらぎらと太陽が照り付けていた。
私の名前は紅桜。幼い時に捨てられて、施設に入れられていた。誰にも引き取られずに、ずうっと施設で育ったから、苗字らしい苗字はない。あるにはあるが、普段は使わない。自分でも変だとは思うが仕方がない。
“次は〜○○駅〜、○○駅〜、お降りの際は、お足元にご注意ください。”
車内のアナウンスが入ったので、私は読んでいたジャンプを閉じ、通学中の学生や、通勤中のサラリーマンと一緒にホームへと降りる。
車内はクーラーがかかって涼しかったが外に出るとムワッとした熱気で、少し汗ばんでしまう。駅の改札口を出、タクシーをつかまえS市内にある大学病院へと向かう。
「お嬢さん、今日もかい。漫画家の担当ってのも、大変だねぇ。」
運転手の人の名前を見ると、ここ最近よく乗るタクシーの運転手だった。
「ええ。まぁ、仕事、ですから。」
「ははは。若いってのはいいねぇ。」
運転手の方は笑いながら運転する。
……私の職業は漫画家の担当、である。
元々漫画や本が好きで、将来はそれに関係する仕事に就けたらいいと思って、勉強もそれなりに頑張って、仕事も、2年、もう2年4ヶ月になるが、それなりに頑張っているつもりでいる。
「ほら、着いたよ。2050円ね。」
「……ありがとうございます。」
私は2050円をきっちりと払い、大学病院の中に入る。一応看護師の人を捕まえて面会したい人がいるということを伝え、案内してもらう。
ここへ来るのは初めてじゃあない。
もう2年ほど通っている。
しかしまだこの“病院”という場所になれない。病院の臭いや、ここで働いている人に付いた臭い、とにかく臭いが嫌いなのだ。
「ここです。いつも来てくださってありがとうございます。とても喜んでいるので」
「そうですか。」
私は看護師の人にお礼を言い、病室へと入る。
一般的な病室とは違い、少し暗くて、ベットはひとつしか置かれていない。
壁にはいろいろな薬品、そしてベットに横たわっている彼の、彼の描いている漫画の資料がきれいに貼られていた。
「あ、紅桜さん、原稿、ですか?」
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