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ぐぐぐっよいう風にゆっくりと起き上がり、私の方をやさしそうな目で見てくれている彼は、山田福吉という。歳は19。
週刊少年ジャンプで漫画を連載している。
二年前、17歳の時に、漫画大賞を受賞してジャンプでの連載権を勝ち取り、今日まで連載を続けている。
彼は重い病気で幼少期からこの病院に入院している。
私はそんな体で連載ができるのか心配になったが、彼は
「俺の生きがいは漫画しかないんです。この体じゃあどうせ、一生外に出られないし。……まぁ、入院費の稼ぎになればいいかなー。なぁんて……。」
と恥ずかしそうに言っていた。
そこから私は心配せず、彼を見ている。
彼は連載を始めて、原稿を落としたことは一度もないし、一度も休載をしたことがない。
私は素直にすごいと思っている。
そして最近は人気が出始めてきて、読者アンケートでも、ベスト5までにはいるぐらいになってきた。
このことを言うと彼は、泣きじゃくって喜んだ。
彼は重い病気と闘いながらだけれど、この“漫画家”という職業を楽しんでいる。
それが私にとって嬉しいし、初めてもたせてもらった漫画家だったから、このまま連載が終わるのを見届けられたらいいな、なんて思う。
私が勝手に思っているだけだが。
「……これ、今週分の原稿です。あと、来週の下書きです」
「早いな。早いのはいいが無理しないようにしろよ。」
「分かってますよ」
私は出来上がっている原稿をカバンにしまい、ネームを見る。
彼の描いている漫画は、ファンタジー系に入る。
少年少女が自分たちの世界を守るために、魔物を率いている魔王を倒しに行く……。
という、どこにでもあるような内容だが、三大原則の「友情」「努力」「勝利」の3つをすべて守っている。
そして、主人公やや仲間の葛藤や悩みを描くのがとても丁寧でうまく、とても広い年齢からの支持を受けている。
「……ここのコマ、見せ場だからもう少し思いっきり描いてもいいと思うぞ。」
「でも次のページで……あぁでもそうか……。そうします、その方がいい気がしてきました。」
「あぁ、あと最後の主人公と仲間が別れてしまうシーン、もう少しページを使って描けばいいんじゃないか?……この部分を削れば違和感ないし、いいと思うが。」
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