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「……嫌です。」
「けど聞いてもらわないと困るんだよ……。露伴先生からの直々の指名なんだ。
“今の担当は、いない方がましだ。君の所で有名な頭のキレる女ってやつに変えてくれ。”
って……。もし断ったら、連載誌を変えられるかもしれないんだ!」
編集長がそういう顔は、とても必死で。
これ以上逆らえば、ブチ切れるかもしれない。
「……君の気持ちはわかる。けど……仕方ないんだ。時期を見て、元に戻す。彼には俺から説明する。……明日、露伴先生に挨拶に行ってくれ。いいな。」
私はそれに黙ってうなずくしかなかった。
                                                            💘
その日の仕事は憂鬱で。
彼に伝えられた時のことが気が気でなかった。
電車の中で携帯を開く。
待ち受け画面には、彼の描いている漫画の主人公と仲間の笑っている絵があった。
……どうして。
退院できるからと聞いて、喜んでしまったからか?
少し、希望を見出してしまったからか?
……どうしてなんだろう。
心に風穴があいたようになって、このまま帰りたくなかった。
築けば降りる駅を二つ、過ぎていた。

私の自宅は、S市のベットタウンと呼ばれている杜王町にある小汚いマンションだ。
そこそこ駅が近いし、車も使う私にとって、無料の駐車場があるのがありがたかった。
……そういえば岸辺露伴……いや、岸辺先生の自宅も、杜王町にあるとか言っていたな。
編集長からもらった、岸辺先生の家までの地図を見る。
頑張れば、歩いていける距離だ。
けれど車を止められる場所なんてないだろうから、やっぱり歩いていくか。
私は煙草を出し、煙草を吸う。
……あぁ、明日が来なければいいのに。
明日が来るまであと四時間。
あと四時間で朝が来る。
どうあがいても止められない時を、止められたらいいな、なんて思うのは、おかしいだろうか。
私は、パソコンを取り出し、岸辺先生についていろいろと調べる。
……私より、三つ年下なんだ。意外だなぁ。
その後も岸辺先生について、色々と調べる。
私は週刊少年ジャンプを読んでいる。
その中でも岸辺露伴先生のピンクダークの少年は、絵は好きだが、内容があまり好きではないので
“単行本は買わないで、ジャンプで読めばいいか”
ぐらいの位置である。
けど、明日、岸辺先生の担当になってしまうのだから、話の内容ぐらいは分かっておかないといけない。
私はネットショッピングで、最新刊をためらわず新品で買う。
時間は……明日の19時ぐらいでいいか。
色々と手続きをして、3本目の煙草に手を出す。
明日が来るまであと2時間。
煙草の箱に残っているのはあと1本。
明日が来るまでに、無くなっているのだろうか。
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