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ピッ、ピッ、ピッ、ピッ
という、静かで、規則正しい機械音が鳴る。
その中で俺は、カリカリとペンを走らせる。
あの人が来なくなって、もう2週間。
俺はただ、暗い部屋で絵を描くだけになった。
「山田君、薬の時間だよ」
「はい」
俺は絵を描く手を止めて、看護師さんの方を見る。
看護師さんは部屋の電気を明るくして、
「暗い中で描いちゃあだめって、昨日も言ったよ?」
と言った。
俺は、
「すみません」
と小さく謝り、差し出された薬を飲む。
まずい薬だ。
けど、もうずっと飲んでるから、慣れた。
「そう言えば、最近元気ないね」
「そうですか?」
「うん。……なんか、元気がないっていうのが、漫画にも出てるっていうか。ここ2週間、ずっと塞ぎ込んでるし。……悩み事でもあるの?」
「……悩み事、ですか」
看護師さんは、俺が飲み終わった薬のごみを片付けながら、こう話し始めた。
「最近、あの綺麗な紅い髪の毛の女の人来なくなったでしょ?それでかなーとか思ってるんだけど、どう?」
……よく見てる、正解だ。
けどそれは言わずに
「違いますよ。俺はそんなことで悩みません。……あ、もうすぐ担当の人が来るんで」
と言って、はぐらかす。
もうこの話題を、続けたくなかった。
「……そっか。あんまり無理しちゃあだめだよ。あともう少しで退院できるかもしれないのに」
看護師さんは笑ってそう言い、部屋から出て言った。
その入れ違いで、担当の女の人が入ってきた。
……前の担当の人じゃない。
紅桜さんじゃない、別の人。
「何?その顔。とっととカラー絵出してくれない?」
「……わかりました」
俺はファイルから、カラー絵を出す。
俺の描いている漫画の主人公とヒロインが、2人で笑いあっている絵だ。
担当の人はそれを見ようともせず、俺の方を見て、
「次は書店に置く限定単行本の表紙。適当にいくつかアイディア書いたら連絡して?」
と言い、ばさりと茶封筒を置いた。
「先週のアンケート、最悪だったわよ?もっと頑張ってくれない?」
担当の人はそう言って、俺から少し離れ、
「あぁ、そう言えばあんたの前の担当だった紅桜って奴、露伴センセと仲良いらしいわよぉ〜?何回も呼び出しくらってたしねぇ。あんたより、露伴センセの方がよかったってことじゃあなぁい?
あの女も、尻軽そうだしねぇ。担当と先生の禁断の恋、とか?してそぉよねーっ!」
と言い放った。
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