Recharge
□間章
11ページ/13ページ
ー灰原視点
少年探偵団の子供たちを連れて釣りにきた私たち。
平和な時間を過ごしていたはずなのに、ひとりの男によって緊張の糸が張り詰める事態となった。
(こ、れは………。)
船に乗ってやってきた男から感じる組織の匂い。
身体が震え、思わず公子の腕を掴んだ。
「どうしたの?」
「………いえ。」
勘違いでありたい。
そう思うけれど嫌な鼓動は治る気配がなく、思わず公子に縋るように隠れた。
焼け付くような圧に震えていると……公子が私の手を握ってくれた。
じんわりと伝わる公子の体温。
その包み込むような温かさに張り詰めすぎた糸が緩む(それでも警戒心は残しているが)が、それを許さないと言わんばかりに男からの視線が鋭くなる。
今までも組織の匂いを感じた事はあったがここまでハッキリと相手から敵意を向けられたのは初めてだ。
最悪の事態を想定し青ざめていると、隣にいる公子が私と繋がっていない方の手を上げた。
「昴さーん!こんにちはー!!」
公子が声を掛けると、男はそれまでの鋭い視線を包み隠すかのように纏う空気を変えた。
(公子はこの男と知り合い…?)
公子が親しげに挨拶をしている。
ファーストネームで呼ぶくらいの関係らしいが、この男の薄寒い笑顔の奥から漏れるプレッシャーに彼女は気付いていないのだろうか…?
いや、公子だって"万能"じゃない。
何重にも被った猫に誤魔化されることだってあるだろうし、本来ならば"信頼できる根拠"が何かしらのイレギュラーにより覆されている可能性だってある。
「……あの人、」
「昴さんがどうしたの…?」
けれど公子に伝えないといけない。あの男の最悪の可能性を。
「この感じ…、獲物を射止めるような視線……、腸まで抉り取られるようなプレッシャー……。感じるのよ、あなたの言う"組織の匂い"っていうヤツをね。
あの、昴っていう人、何者なの…?」
そう伝えた瞬間、公子から何か変な間があいた。
「あー………そっか、まだ話してなかったっけ。
彼は沖矢昴さん、東都大の大学院生。
パパの知り合いの人でうちを貸す事になったみたいなの。」
「"あの"パパが身元の保証をしてるから絶対に大丈夫。心配しないで。」
どこか相手を庇うような言い方に疑問が渦巻いたけれど、どの道これ以上は聞いても教えてもらえないだろうと口を閉ざす。
だからと言ってあの男に気を許すつもりはない。
あれだけの敵意を向けるには、それなりの理由があるはずなのだから。