Recharge
□【四章】浪花の物語
2ページ/3ページ
「なんや?何もないやんけ……。」
「おかしいなァ…さっきはこの跳び箱に寄りかかってた筈やのに…。」
体育館倉庫には跳び箱やマットなどの備品が置いてあるだけで、人や血痕は一切ない。
何かおかしな所がないかとあたりを見渡すと、人の形をしたモノが見えた。
「ん?なんやこの人形?」
「レスキューの授業用の人形とちゃうか?」
「ああ…人工呼吸の訓練とかに使てる…。」
「まさかこの人形と見間違うたんとちゃうやろな…?」
「んなアホな!」
これだけ薄暗い場所。臆病そうなこの男性ならばあり得なくはないと冗談混じりに聞いてみたが流石に否定された。
改めてこの倉庫の中を念入りに調べていこうと思っていると、こちらに向かってくる足音が複数聞こえてきた。
「おーい!警察連れてきたぞ!!」
彼らのチームメイトだろう。
後ろから警察官もやってきているが肝心の被害者がいない。
そんな状況に戸惑っていると、受付の人がオレ達に声を掛けてきた。
「あ、あの…新内大学の方ですか?」
「ああ…そうやけど……。」
「ついさっき会場の受付に変な声の男の人から電話があったんです…。
『今、体育館倉庫にいてる新内大学の連中にプール横の更衣室にこいと伝えてくれ』って…。」
「た、垂見や…。」
「アイツ舐めくさって…!」
騙されて怒り心頭と言った様子の彼ら。
冗談なら冗談で乱闘騒ぎになりかねないので一緒についていくと…………そこには、シャワーに打たれたままピクリとも動かない男性が座り込んでいた。
「た、垂見?!」
「おい、嘘やろ…垂見?」
垂見と呼ばれた男性に近付き、脈を確認する。
「アカン、ほんまに死んでるで…。」
そこからは警察に任せ、死体が移動した謎を解く事に専念した。
現場の状況と体育倉庫から更衣室への道のりをメモにまとめながら同じルートを辿っていると、和葉がやってきた。
「あっ、平次ィ〜!!何してんの?弁当食べんとこんなトコで…。
準決勝まであと一時間もないよ!」
「うるさいなァ、事件や事件!そこの更衣室で人が殺されたんや!」
「えぇ、ホンマに?!」
「けどわからん事があって試合どころやないんや…。」
「ほんなら毛利さんに相談したらええんちゃう?ここに来るんやろ?」
(せや工藤がここに来るんやった…、決勝が始まるまでに解かな…!)
「和葉、アイツらに伝言頼むわ。
準決勝は頼んだ、決勝までには絶対戻るってな!」
「へ、平次?!
いや、試合に出たいんならそれこそ毛利さんに頼んだらええやん!」
「ドアホ!アイツが現場にいてオレの試合見られへんかったらそれこそ意味ないやろ!」
「さ、さよか…。(平次そんなに毛利さんに試合見て欲しかったん…?)」
「ほな、頼んだで!」
現場に戻りひたすら聞き込み。
トリックもわかり、犯人をお縄につけて事件解決!
「ほんならな!
後はよろし頼んまっせ大滝ハン♡」
無事解決できた事にホクホクとしながら会場へ向かうと、入り口で和葉と工藤達が立っていた。
「平次が来ぃひんから…!」
沖田にやられたのかチームメイトがぐったりとした様子で会場から出てきた。
(あぁ…間に合わんかったか……。)
和葉の言葉とチームメイトの様子で、既に試合が終わってしまったことは想像がついた。
工藤の言っていた『主将不在で敗退』をやってしまいバツが悪くなり、謝らなければと少し離れたところに工藤を連れ出した。
「その、オレが現場に行っとったから…言う通りになってもうた。態々東京から応援に来たのにいいとこ見せられへんし…、ホンマにすまん。」
工藤の顔をまともに見れないでいると、小さな手がオレの手を優しく掴んだ。
「事件があっていてもたってもいられなかったんでしょ。その正義感、平次にぃの良い所だよね。」
「は、はぁ…?!」
『だから言ったでしょ!』なんて怒られるかと思いきや、思わぬ褒め言葉に顔が赤くなる。
「試合結果は残念だったと思うけど、それは私じゃなくてチームのみんなに謝ってあげて。それで来年は絶対に優勝しよ!
また私も応援に行くから!」
「…わかった!頼んだでハム子!」
次は必ず優勝杯を手に入れると約束をし、大会の幕は閉じた。