Recharge
□間章
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ガールズバンド
「バンドだよ、バンド!!」
放課後園子ちゃんが世良さんと葵くん、そして私を喫茶ポアロに呼び出した。その時の園子ちゃんの顔はニマニマしていて、きっと何か楽しい事を思いついたんだろうなぁと察しながら席に着く。
そして席につくなり本題を切り出した。
「ウチら3人でガールズバンドやろ!」
成る程、ガールズバンド編か。と、今回の事件について把握した。
この事件は誤解があって起きてしまったので何とか話し合いで解決できればいいのだけれど…なんて思いながら三人の様子を眺める。
「へぇ、何で急に…?」
「どうせ映画かなんかの影響だろ。」
何処となく興味あり気な世良さんと呆れた顔をする葵くん。
園子ちゃんは葵くんをスルーし世良さんにロックオンした。
「昨夜やってた映画に出てくる女子高生バンドがヤバカワでさー♡ね、世良さんもやろうよ!」
「あぁ、いいよ。ベースなら昔兄貴の友人に少し教わったことがあるし…。」
「じゃあ世良ちゃんはベースね!
私はドラム、そんでおチビはキーボードをヨロシク!」
「え?あ、私?葵お兄ちゃんじゃなくて?!」
「違うわよ!"ガールズ"って言ったじゃない!」
すっかり葵くんが誘われているものだと思っていたのでビックリしたが、そういえば確かに園子ちゃんは最初に"ガールズ"と言っていたのを思い出した。
「うーん、でも私弾けないから…。葵お兄ちゃんの方が適任なんじゃないかな。」
まだ小さい頃、私がバイオリンを習いはじめると葵くんも同じ音楽教室でピアノを習いはじめ一緒に通っていた。音楽教室の発表会ではピアノとバイオリンのデュオで発表したのも懐かしい思い出だ。
「あー、そういえば公子の後を追ってピアノやってたわね。おチビよく知ってるじゃん!」
園子ちゃんからの指摘にギクリとしながら、言い訳を考える。
「…あははー、公子お姉ちゃんに発表会のビデオ見せてもらったんだ♡」
「葵お兄ちゃんも公子お姉ちゃんもすごく綺麗なお洋服着てたんだよ!」なんて、子供らしく演奏以外の感想を言ってみれば「おチビは公子と違ってあーゆーフリフリ好きそうだもんね。」と園子ちゃんは笑った。
「しかし懐かしいわ〜、私も発表会を見に行ったのよね。」
「羨ましい!ボクも見てみたかったな…。」
「毛利君の家にビデオあるんじゃない?優作おじさまが毛利君の家とか阿笠博士に配ってた記憶があるんだけど。」
「え、そうなの?!」
毛利家はわかるとして何故博士の家にまで…。
今更知った事実に頭を抱えたくなるが、それはまだ序の口だった。
「あー…うん。優作さんがダビングして焼いてくれたのと、アルバム…というか写真集みたいなのもあるよ。」
「あれは結構ガチの写真集だったわよね!舞台袖とかの写真まで載ってたし凄かったわよ。折角だし今度おチビも見せてもらいな。」
(アルバムに演奏会の写真はあるけど、それとは別に写真集、だと……?)
他の行事に比べて演奏会の写真は比較的抑えめだったので不思議に思った記憶はあったが、まさか別の手法で記録に収められていたとは思いもよらなかったし、正直知らないままでいたかった。
「へぇー…そうなんだぁ……今度見せてもらおーっと。そんなことより、バンドはどうしよっかねー?」
白目を剥きそうになるのを耐えながら話題を元に戻せば、園子ちゃんはそうだった!と手を叩いた。
「よし、それじゃあ毛利くんは女装してキーボードで決定ね。そしたらおチビは残りのギターかしら?」
園子ちゃんの決定に大きく反論したのは葵くんだった。
「いや、ちょっとまて!なんでそうなるんだよ?!」
「心配しなくてもこの前テレビの特番でおチビくらいの子がギターやってたしラクショーでしょ〜。
「違う、そっちじゃない!!」
園子ちゃんはわざとスルーしているような気もしなくもないが、葵くんは流されてはたまるかと突っかかる。
思いの外賑やかになってしまい一旦落ちつかせようとすると、隣の席に座っていたおじさん達が私達の席前にやってきた。
「そうだぜお嬢ちゃん。ギターが楽勝だなんて聞き捨てならねぇな…。」
「そんなら弾いてみろよ、俺のギター貸してやるからよ。」
騒ぎを注意されるかと思いきや、ギターについて悪く言われた事が癇に障ったらしい。無理やり園子ちゃんにギターを握らせては、弾けずに戸惑う姿をみてニタニタと笑いだした。
こちらの失言だったとはいえ悪趣味なやり方に少しだけムッとする。
居られなくなり席を立つが、私が受け取るよりも早く、零さんがギターを取り上げた。
「いいよ、貸して…。」
そして聞き惚れるほどのギターの腕前を披露した。
「ま、こんな風に。」
あんぐりと口を開けたままの彼らにギターを返してから、私達の方に顔を向けた。
「園子さんもビッグマウスはほどほどに。」
「はーい……。」
コッソリと助けてくれたお礼を伝えると、零さんはウインクで返事をする。
こんな姿も様になるのは彼くらいだろうなぁと思っていると、園子ちゃんが突然零さんの手を握った。
「そうだ!それならおチビの代わりに安室さんがバンドに入ってよ!JK+イケメンバンドってのもありなんじゃない?」
「俺はJKじゃない!」とすかさずツッコミをいれているが、園子ちゃんの耳には全く入っていない様子だ。
「それはちょっと……目立つのはあまり。」
零さんは園子ちゃんの提案に苦笑いしながら断った。そりゃそうだ。潜入中の公安が態々目立つような事をする必要なんてない。
しかしそんな理由を知らない園子ちゃんはまだ諦めていない様子だったので、すかさずフォローに入る。
「園子お姉ちゃん!ギターは私がやるからダメ〜!」
「えー…おチビそんなにやってみたかったの?」
幼児ムーブを出してみるも園子ちゃんは怪訝そうな表情をしてきた。幼児のおねだりとバンドのクオリティを天秤にかけているのだろう。
「うん!さっきの安室お兄さんのカッコいいの聞いたらやってみたくなっちゃった♡」
こうなったら幼児ムーブを突き通していくしかないとやる気アピールをすれば、後押しするように零さんも加わった。
「練習くらいなら僕もみましょうか?
ハム子ちゃんもやる気のようだしね。」
「うーん、じゃあそれなら。
おチビ、やるからには本気でやるのよ!」
「はーい!」
元気にそう返事をしたが、内心は冷や汗が垂れていた。
(零さんといえば妥協しないイメージしかないんだよなぁ…。)
どことなくウキウキとしているのはこれからはじまる練習の事を思い描いているからだろう。どれだけスパルタな特訓を考えているのか恐怖した。
「あの…安室さん。お手柔らかに宜しくお願いします。」
「大丈夫、僕に任せてください。
さ、早速練習をしに貸しスタジオに行きましょう!」
善は急げとばかりに準備をしだす安室さんに倣って、園子ちゃんもやる気満々で席を立った。
「…ってかバンドはまだしも女装は絶対に嫌だからな!」
「なんでそんなに嫌がるのよ?
ロングとかにしたら結構イケてると思うわよ。おチビもそう思うでしょ?」
園子ちゃんに言われて葵くんのロングヘアを想像してみたら、少し凛々しくはあるがほぼ蘭ちゃんな葵くんが仕上がった。
「…うん、間違いなく可愛い。」
「ちょっとハム子ちゃん?!」
こうしてガールズバンド編が始まったのであった。