Recharge
□間章
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事件の導入場面で忘れていたところは度々あったけれど、事件の内容はちゃんと覚えていたので「あれれー?あのお姉さん達忘れ物していたみたい!届けにいくね!」なんて言って待合室から離れ、事件が起こる前に部屋に割り込んでいった。
そして無邪気〜な感じで、「わわっ!お姉さん達芸能人だよね!ライブハウスに連れて行ってもらった時に見たことあるよ!!あれれー、でもお歌の上手なお姉さんはどこにいるのー?」なんて、今回の事件の根底にあったボーカルの朱音さんの話を無理やり呼び起こさせた。
そのまま成り行きを見守っていると事故だ自殺だと話をしはじめたので、きっとこのまま誤解は解けるだろうと静かに部屋を出た。
待合室に戻れば安室さんがニコニコしながら「遅かったね、迷子になっちゃったのかな。僕も着いていけばよかったよ。」なんて言ってくるものだから、私が何かしにいったのはお見通しのようだった。
「お待たせしました、予定より早く開きましたのでご案内します。」
そう言って案内されたのは先程彼女達が使っていた部屋だった。
廊下にはぐすぐすと泣きながらお互い謝り合う萩江さんと留海さんがいたが二人は抱きしめあっていたので、多分和解したのだろう。
それを見てホッとしながら部屋の中へと入っていくと、もうれそれぞれ楽器を準備しはじめていた。
零さんも貸出のギターのチューニングをしながらソファに座っている。
「ハム子ちゃん、おいで。」
そう言われたので、以前薫くんからベースを教えてもらった時と同じように零さんの膝の上に座れば、ピクリと膝が動いた。
「…へぇ、前にも誰かにこうやって教えてもらったんだ?」
「うん、ちょっとだけ。その時はベースだったけどね。」
あの時の事を伝えれば、誰のことだかピンと来たようで苦笑いしていた。
「そうかそれなら……いや、でもわざわざ膝に座らせる必要はないだろう…。僕としては役得だが……。」
何かが引っかかっているようでボソボソと呟いている姿に、心配して見上げる。
角度的に彼の胸板に頭を預けるような形になったので、その重みで気付いたのだろう。パチリと目があった。
「…さ、練習をしましょうか。
それじゃあ、まずココの5弦3フレットを押さえて……ド。」
「え、あ、えっと…こう?」
突然練習をはじめたので慌てて目線をそちらに向け、話を聞きながら真似をしていたので、彼の目元が赤く染まっていたのに気付くことはなかった。
(頭を預けて上目遣い……反則級だろっ……!)
なんて悶えているのも、当然気付かずに練習は続いた。
ーーー
その頃、世良は…。
自分の膝にハム子ちゃんを乗せてギターを教える安室さんが嫌でも目についてしまう。
「うん、上手。次は………、」
普段の安室さんの笑顔が人工的だと勘繰ってしまうくらいの穏やかな笑みに、鈴木さんは興奮気味だ。
「ねぇねぇ、安室さんってばイケメンな上に子供好きだなんて優良物件すぎじゃない?!」
あまりにも大きな声で話すものだから、それが事実だとしてもなんとなく肯定するのが癪になった。
ハム子ちゃんを膝に乗せ抱き抱えている(実際はギターを教えているだけ)のがめちゃくちゃ気に食わないのもあって、彼の株を下げるような言葉を態と選んで口にする。
「………どうだろうね、あの歳でアルバイターだろ?よく欠勤するみたいだし、ボクだったら無しかな。」
29歳でアルバイトなことも、欠勤癖があることも、ボクとしては無しなのも、全部事実で悪口なんかじゃない。
自分の言葉を正当化させ悪意を込めながら、そして、きちんと本人にも聞こえるように返答したけれど、我関せずと機嫌良さそうにギターは鳴いていた。
(安室さんいつもより機嫌良さそうだし、今ならバンドに入ってくれないかしら…?!)
(年下にこれだけ言われても気にしないなんて安室さんメンタル強すぎだろ…。)
(ボクだってベースなら少しはできるし!っていつか、ボクもハム子ちゃんを膝に乗せたい…!)
(零さん教えるの上手いし優しい…スパルタだと勘違いして申し訳なかったなぁ。)
(ふっ……安室透の悪口を言われたって僕<降谷零>には関係ないですから。)
其々思うところがありながらも、穏やかにガールズバンド編は完結した。