戦ヴァル1_短篇
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『にゃー?』
「「………」」
『にゃ?』
「……え!?」
「……?」
『反応遅いなー…てか猫が脱走したの。助けて。』
ウェルキンの部屋に来ていたファルディオは突然窓から現れたシキに訝しげな表情をあらわにした。
「びっくりした…一瞬シキが猫になったのかと…」
本気で驚いたのだろう、胸に手を当てて落ち着こうとするウェルキンを一瞥し、シキは歩みを中央に進める。
『それはありえないよウェルキンさん。ちょっと協力してほしいんだけど…ファルディオに。』
「…なぜ俺が指名されたのかは分からないが猫を捜せばいいのか?」
『物分かりがよくて助かる。ウェルキンはちょっとこの部屋にいてね。』
「いや、僕も手伝うよ。人数が多いほうが早いんじゃ…。」
『ん、ま、そうなんだけどね…ウェルキンは動かなくていいよ、うん。てか黙ってここにいてくださいおねがいします。』
どうしても聞かないウェルキンにシキは土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。
「…うーん…まぁそこまで言うのなら…」
『助かる!じゃあ一歩も外に出ないでね!』
肩をがしりと掴みウェルキンを椅子に座らせると、ファルディオの腕を掴みウェルキンの部屋を出るシキ。
とても険悪な表情を浮かべるシキにファルディオはため息混じりにシキに呟いた。
「…はぁ…またやったのか、あいつ。」
『まったくあいつはなんでいっつもあればっかり持っていくのかな、もう!』
あいつ=猫。
あれ=学生時代のウェルキンとファルディオが写った写真。ラクガキ付き。
もちろん、これはファルディオから密かにもらったもので、ウェルキンにはばれたくない…というかラクガキがやばいのだ。
ウェルキンが好きで告白もできない私が出来るのは写真を見てニヤニヤすることで…。気持ち悪いやつだって自覚してるけど!でも…あれを持っていると知られた時点で私の世界は崩壊する…!
だからなんとしても見つけなくてはならない!あれをくわえたあいつを!
『それにしても…なんであの写真ばっかり…。』
「はははっ。ま、猫も早く告白しろって急かしてるんじゃないか?」
『猫にまで人生心配されたくない…!』
「ご愁傷様だな。んじゃ俺はこっち捜すから、シキはそっちな。」
『はーい。頼んだよファルディオ』
ファルディオは私のことを一番理解してくれているから、どんな時も協力してくれる。
前も同じ脱走事件があって、捕まえたのはファルディオだったような。
ひらひらと手を挙げながら歩いていくファルディオに微笑むと、反対の廊下に歩みを進めた。
捜すこと1時間。
『どこ行ったんだあいつーー!!』
二往復くらいしたあと、第1小隊の隊舎前にやってきた。
いっこうに見つからない猫。
本当に本気でマジで捜さないとそろそろバーロット中尉に射撃される!
そんなことを思いながら中を捜しに入ったがもぬけの殻で気配すらない。
どうしたものかと思案していると、ラマールが一人こちらに向かってきていたのでついでに聞いてみる。
『ラマール!』
「猫ですか?」
『早っ、いや、用件はそれだけど早かったね今の…』
「隊長が捜していたので。でもついさっきですけど、ギュンター少尉の部屋の近くで…」
『なに!?それはやばい!』
シキはラマールの言葉を最後まで聞かずありがとう、と叫びウェルキンの部屋へ走り出した。
残されたラマールはひとつため息をつくと、何事もなかったように隊舎へ入った。