戦ヴァル2、蒼き革命_短編

□possessive
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「ゼリ!」

「あぁ、ユリアナか。どうした?」

「前に貸してもらった本だが……」

ゼリ?ユリアナ?いつ名前で呼び合うようになったのか。急に隣で繰り広げられる会話。この会話は、ゼリと付き合い始めてから、もう数十回も聞いている。彼女が隣にいるというのに、この二人は私のことなど眼中にはないようだ。

『ゼリ、早く行かないと食堂の席埋まっちゃうよ?』

ぐいっと袖を引っ張るが、ゼリからの反応は薄い。もういっそのこと置いていってしまおうか。そう思った矢先に、偶然にも近くをアバンが通りかかった。

『アバン!』

「どわっ!びっくりしたぜ」

ゼリから少し離れた所で、追いかけたアバンの腕に抱きつく。この驚いたかんじがこれまた可愛い。アバンの魅力だ。

『ご飯食べるんだよね?一緒に食べない?』

「おう!いいぜ!!」

『やったぁ!いこういこう!』

さっと腕を引き、アバンと食堂へ向かう。ゼリなんか知らない。散々我慢はしてきたが、もう堪忍袋の尾が切れるというものだ。

混んできた食堂で、ギリギリ二人席を確保できた。アバンは量多めのご飯を美味しそうに頬張っている。そんな姿を見て、お腹いっぱいだなぁと呟く。するとしばらくして、私の横にゼリがやってきた。思った通り、不機嫌だ。

「なぜアバンと一緒に食べているんだ?」

ゼリが不機嫌になる意味が分からない。怒りたいのはこっちだ。ムッとしながら、悪い?と答えると、あぁ悪い、と低めの声で返ってくる。

『ゼリはユリアナさんと食べればいいんじゃない?まぁ席はないと思うけどね』

なんだか険悪な雰囲気を察知し、わたわたとし始めたアバンに、ごめんねと呟き食堂を出ようとしたが、ゼリに腕を掴まれ、阻止されてしまった。

「何を怒っているんだ?話はまだ終わってないぞ」

『自分の頭で考えてみたら?』

「なんだその言い方は。…そうか、ユリアナと話していた時に適当に返事をしたことか。ふん、そんなくだらないことで怒ったのか」

ゼリの見下すような言い方に心がズキズキと痛む。喧嘩なんかしたくないけど、自分は悪くなんかないとどんどんムキになってしまう。ゼリはいつもそうだ。私と自分の間で優劣をつくる。

『最低…』

「その子供染みた性格、直したらどうだ?」

『…わかった。そんなに嫌なんだったら別れる。ゼリなんかもう嫌い』

「は?」

『大っ嫌い!!』

バチーンとゼリの頬を思い切り平手打ち。綺麗に入った手の痕がほおに残っている。悲しさと悔しさと心の痛みが合わさって、泣きたくないのに涙がボロボロ出る。

ぐいっと袖で涙を拭いながらゼリの腕を払い、今度こそ食堂を飛び出た。アバンがゼリに何かを言っているみたいだが、そんなのはどうでもいい。とりあえず寮に帰ろうと足を前に進ませる。

いつもは我慢していたはずなのに、今日はなぜか我慢出来なかった。ゼリに言われた通り、子供みたいなのは自覚してるけど、嫉妬というのは、みっともないことなのだろうか。大好きな人を取られそうになって、平気な人はいないはず。

息を切らしながら自室に入り、パタリとベッドに倒れこむ。残りの授業なんか出たくない。ゼリになんか会いたくない。止まらない涙を拭わずに枕に顔を押し付ける。しばらくグズグズとしていたら、トントンと扉がノックされた。

ゼリだろうか。ゼリだったら絶対に出ない。数秒間だけ警戒して黙っていると、微かに自分を呼ぶ声が聞こえた。この声は、コゼットだ。ゼリに何かを言われてきたのか。そうなると、出るかどうか悩んでしまう。しかし、そんな心配をよそに、コゼットが叫んだ言葉を聞きガバリと起き上がる。ユベール先生からの招集命令だそうだ。これは無視出来ない。結局よそよそと起き上がりコゼットとともに教室へ向かった。


全員が招集された教室はピリピリとしていてなんだか心地が悪い。そんな中のユベール先生からの通達。演習中の他のクラスが突然何者かに襲撃され、犠牲者が出ている…そうだ。そこで一躍有名になったG組が駆り出されることに決まったそう。

すぐに救出準備が整い、G組は襲われた場所へと向かった。その場所は、酷い有様だった。血の匂いと硝煙の匂い。むせ返りそうなくらいの砂埃が巻き上がり苦しそうに横たわる同級たち。彼等の救助作戦が始まろうとしていた。

ゼリは突撃兵科で、私は偵察兵科。前線を押し上げるゼリとは違うルートで、私は索敵しながら倒れた人の場所を支援兵科の人たちに通達する。不安が無いわけじゃない。もしかしたら、死んでしまうかもしれない。訓練なんかじゃない。そんな現実を、目の前で生涯を終えてしまったかつての同級の身体が波のように押し付けてくる。

実戦経験などない、だからこそ、いつ失うか分からない命に怯え身体が震える。しかしそんな不安を拭うように、後ろからくしゃりと髪を撫でられる。優しい手つきで分かる、大好きなゼリ。

「なにかあったら、必ず下がってアバンを頼れ」

振り向いた私にゼリはそっと微笑む。散々酷いことを言って別れるだなんて叩いて、ゼリだって不安になっているはずなのに、それなのに…私は自分のことばかりだった。ユリアナさんとのことも、ちゃんと言葉にしてゼリに言うべきだったんだ。馬鹿だなぁ、私。

『ゼリっ…ごめんなさい…』

「俺もキツく言って傷付けた…悪かった。もう一度やり直したい。だがまずは、ここ打破してからだ。シキ、絶対に生きて帰れ」

『うん…!ゼリも…気をつけて…』

アバンから全員への無線がかかる。的確な指示のもと、突撃兵科の人たちが次々に前線を押し上げていく。それとは別のルートから、負傷者の位置を無線で伝えて行く。

やがて突撃兵科が敵本拠点を占拠したと通達が来た。勝った。救えたんだ。生きて帰れるんだ。そう思っていたところで、突然後ろから頭を殴打され、意識が遠のく。

倒れた先、少し遠い敵本拠点で、ゼリやアバンが笑い合っているのが見える。…しまった。私の周りには偵察兵科の人おろか支援兵科の人誰一人もいない。ゼリ…ごめんなさい…。持ち堪えることが出来なかった意識を飛ばした。




「やったな!さすがゼリだぜ!」

「あぁ。俺がこんな奴らに負けるわけがない」

「負傷者の位置も的確に教えてくれた偵察兵科の人たちもお手柄だったよ!」

敵本拠点を確保し、あらかたのG組のメンバーがちらほらと合流する。突撃兵科に、支援兵科。偵察兵科も集まってきた。…シキはどこだ、とアバンとコゼットから離れ愛しきシキを探す。しかし、どこにも見当たらない。G組のメンバーはもうほぼ集まっている。だが、シキだけがいない。

「アバン!シキがいない!」

「っ!偵察の奴らに聞いてくる!」

アバンが偵察兵科に聞きに行ったのを見届けた後、シキが通ったであろうルートに戻る。反対側を担当していたはずだ。なら、道中なにかあったのかもしれない。

「くそっ…!!無事でいてくれ…」

地理も把握できてないルートを走る。焦りとシキへの不安で冷や汗が溢れ出る。名前を叫び、微かな声も音も逃がすつもりもない…風の音に紛れて男の声が聞こえる。

「そこから動くな。こいつがどうなっても良いのか?」

前方の岩陰から、敵兵士が現れる。疲弊しているようで、顔からは焦りの表情が出ている。しかし、敵兵士が引っ張ってきたのは、気を失って、髪を握られているシキ。その姿を見て、頭が真っ白になる。

「…なにが目的だ」

「目的?本拠点は取られた。大抵のやつは退却したが、こっちも命がけなんだ…。捕虜の1人でも連れて行けば、俺は助かる」

「ふざけるな!俺を怒らせるな…」

「はっ…怒らせるなって…餓鬼が粋がってんじゃねぇぞ!」

持っていた銃をシキに向ける。捕虜と言っていた以上、奴は殺さない。ただの脅しだ。だが、万が一捕虜を諦め、シキを殺してしまう可能性もある。そうさせないためには…。

「…俺と交換しろ」

「あぁ?」

「その子と俺を、交換しろと言っているんだ。捕虜なら、生きていれば誰でもいいはずだ」

「…悪いが男は趣味じゃねぇんでな。この女を狙ったのは捕虜として連れて行く前に…ぐっ…!」

言葉を続けようとした兵士の肩に的確に銃弾を撃ち込む。言おうとしていた事は嫌でも想像がつく。それを想像しただけで、怒りを呼び起こすには充分だった。肩を撃たれ、シキの髪を掴んでいた手を離す。次に腕を撃ち抜く。銃を落とし、慌てて屈む兵士に近寄る。

「それ以上の言葉を続けていたら、こんなものでは済まさなかった」

兵士がシキを掴もうとするが、その手を撃つ。

「その汚い手で俺のシキに触れるな」

絶対に逃さない。シキをこんな目に合わせたこいつは、地獄に落とさない限りは、怒りはおさまらない。

「消えろ」

怯え始めた兵士の頭を撃とうと銃口を向ける。しかし後ろから両肩を掴まれ、尻から床に落ちる。

「ゼリ!やめろ!殺したらダメだ!」

追いついてきたアバンとコゼット。それを見た兵士は慌てて立ち上がると、バタバタと走り去った。

「なぜ止めるアバン!あいつはシキを!!」

「ゼリくん!大丈夫、シキさんは気を失っているだけだよ!頭を殴打されてるけど、他に外傷はないから、もう少し安静にしたらちゃんと目を覚ますから」

「だから落ち着け!」

力が弱まったアバンから抜け出し、シキを診てくれたコゼットに礼を言いシキを抱き上げる。

シキのことになると、怒りを抑えきれなくなる。それほど大切で愛しい存在なのに、俺はいつもシキを、傷付けてばかりだ。

引っ張られてくしゃくしゃになった髪に指を通して整える。早く、目覚めてくれ。その瞳に俺を映してくれ。そして俺の名前を呼んで、笑ってくれ。

砂埃が付いて汚れた頬を指で拭う。それに反応するように、シキは小さく畝りながら目を覚ました。

『んぅ…頭痛い……あれ…ゼリ?』

「あぁ。大丈夫か?」

『私…たしか…後ろから突然殴られて…』

「捕虜にしかけられた。俺が気付かなかったら、お前は今頃敵兵士にいいようにされていた」

『…ゼリが助けてくれたんだ……ありがとう…本当に…』

「心配、かけさせるな」

ふぅ、と眼鏡の奥で目を細めるゼリ。後ろでは微笑んでるアバンとコゼット。私、迷惑かけちゃったな、と落ち込むと、ゼリは小さく笑って頭を撫でてくる。

「…無事で本当に良かった」

ぶっきらぼうでプライドも人一倍高いけど、優しくて誰よりも想いが強い。だからこそ、言葉で伝えないといけなかったんだ。分かっていたはずなのに、たったそれだけのことが出来ずに、傷付けていたのは私のほうだ。

3人に連れられて拠点まで戻ると、ユベール先生や他の生徒たちに囲まれて心配され、やがて学校まで戻ってきたところで、解散となった。

念のため治療院に行ってほしいとゼリから頼まれ、手を引かれるまま目的地までの道のりを2人きりで歩く。

治療院で隅々まで診察され、結果的には頭は切れたりしておらず、軽いたんこぶくらいだと言われた。それを聞いたゼリはホッとしたようで、再び手を引かれると、ゼリの部屋まで向かう。

「シキ。痛むか?」

『ん、ちょっと痛いけど、大丈夫』

小さく微笑むゼリに付いて、部屋のベッドに座る。そっと殴られた箇所を撫でるようにゼリが手を添える。痛いけど、不思議と治ってしまうんじゃないかと思うくらいに心地が良い。

「…ユリアナとはなにもない。あの時、本の話に夢中になってな…シキを1人にして悪かった」

『ううん…私、ゼリと本の話…出来ないから、さ。夢中になっちゃうのは、仕方ないって思うよ。でも…ユリアナさんだから…』

ユリアナさんと比べると、私なんか可愛くもないし賢くもない。良いところなんてひとつもないから、余計に嫉妬心に塗れてしまう。

「お前がアバンと一緒にいるだけで嫉妬して頭に血が上るくらいだぞ。それでも、俺がユリアナを好きだと思えるのか?」

『それは…』

「俺は、お前のためなら命だって惜しくはない」

『…っ…ゼリ…。分かった。ゼリを信じる。だけど…命を投げ出すようなことはやめて?』

「分かってる。それに、俺はそんな簡単にくたばったりはしない」

『ふふ…うん、そのほうがゼリらしいや』

コツン、とゼリの肩に頭を預ける。ゼリは分かってないな。私だって、ゼリのためなら命なんて惜しくない。でも、ゼリといるだけで、なんだか自分もそんな簡単にくたばったりしないな、なんて思う。

そんなことを思い微笑むと、なんだ?と顔を伺ってくるゼリ。そんなゼリの頬にそっとキスをすると、驚いて目を見開いたが、次の瞬間私の視点が上を向いていた。目の前にはニタリと悪い顔をしたゼリ。

やってしまった、と思う前にゼリからキスの嵐。この独占欲の強いゼリの傍には、やっぱり私しかいないな、なんて。


前が見えなくなって、信じる心も失って。それでも私の手は大好きな貴方の手に引かれ、貴方の後ろ姿をみつめる

(なにも見えない暗闇の中で愛しき君を探す。見つけた手は酷く冷たくて。それでも俺は君の手を引き歩き続ける)


Happy End

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