惜別の涙

□惜別の涙/ep2
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桜は少年の言葉に混乱し理解できなかった。
(あんきゅう?あんきゅうって、なに?えど?えどって?ほんのうじ?)
呆れた顔の少年は、桜の不抜けた顔を見て、またため息をついた。
「おねーちゃん、どこか頭でも打ったのかもしれないね」
「・・・そう、なのかな?」
いや、そうじゃない。桜は額から冷たい汗が流れた。
(私が行きたかった現代から、ずっと先の未来・・・しかも1000年後に来てしまったんだ)
佐助が分析した通り、現代に帰れるようなワームホールを選んできたはずだ。佐助が言うにはワームホールは常にどこかで発生していて、条件が揃った場所であれば行きたい場所へ行けるはずと教えてくれた。研究段階であったはずの仮説は既に確証に変わっていて、今回必ず現代へ帰れると確証がとれたから信玄の屋敷まで来たのだ。それなのに飛んできた時代が1000年後。何がどうしてこうなったのかは、佐助にすらわからないのではないかと桜は思った。頭を巡らせたくても巡らず呆然とした顔をする桜に「頭を打ったんじゃあ、しょうがないな」と、少年はうーんと背中を伸ばして、少し考えたあと頷いた。
「とりあえず、俺んち来なよ」
「・・・君の家に?」
「とーちゃんもいるし、頭の打ちどころが悪かったんだったら、直してくれるかもしれないからさ」
(頭の打ちどころが悪いって思ってるんだな・・・)
それもしょうがないか、と桜は脱力した。ほんとうに頭を打ったのかもしれない、なんとなしに後頭部を触ると少し腫れている気がした。ワームホールできた時に打ったのかもしれない。今は少年の提案に乗るしか、この先どうするかの思考は働きそうになかった。
「な?そうしろよ、ねーちゃん」
「うん・・・わかった。それじゃあお願い、しようかな・・・」そう言うと少年はニッと笑ってみせた。
「そうと決まれば、行こうぜ。日も暮れるし早いところな」
少年はまだ足元のおぼつかない桜を気遣いながら、彼女を家へと案内した。
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