月白風清

□一日会わねば千秋
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一日逢わねば千秋













「サッカー部、遠征で一週間いないんだってー」

「うそー、つらい。つらすぎる」

「私、一週間、学校休むわ」







サッカー部がいないと寂しい、というよりも

サッカー部所属の椎名君がいないと寂しい、
という意味だということは暗黙の了解。


彼がいるだけで、華があるので
彼がいなくなってしまったこの教室は
言わば花の生けられていない花瓶のようだった。
















「あれ?かがみ。今帰り?」

「しししし椎名君!」





「いくら一週間登校してなかったからって驚きすぎじゃない?」

「あ、うん、ごめんごめん!」





椎名君とは同じクラスだけどそんなに多く話したことはない。

私というか、女子と話すことは少ない。




「椎名君は練習試合?遠征だったんだよね!お疲れさま!」

「うん、いろいろ気づかされたことが多かったよ」






少し遠くを見て話す椎名君は、

女の私なんかよりずっと綺麗だ。




珍しく椎名君の目が少しうつろなのは、
さすがに一週間もの遠征に疲れてしまったからだろうか。







「まあサッカーのことだけじゃなくて…、
 いろいろ自分の気持ちに気づかされたからね。」

「へ、へー。」






椎名君の言葉は簡潔だけど、端正というか無駄がない。

言葉はその言葉を話す主に似るのだろう。







「The eye will be where the love is.」

「え?」








流暢な英語を椎名君が呟く。

彼の流暢ぶりは日々の英語の授業でも
聞き慣れたものであった。

あまりにも流暢で実は彼は帰国子女だとか、
実は外国籍だとか本当か嘘かわからない噂が飛び交うのであった。






「えっと…、あはは私リスニング苦手だから、

 よく聞き取れなかったよ〜。椎名君発音良すぎ」




大して難しい単語を並べたのではないことはわかったけど、
英文の意味までは理解できなかった。






「ねえ、一日会わねば千里って、

 先人はうまいこと言ってると思わない?」



「あぁ、そうだね。うん!」





わかったふりをしたけれど、
本当は意味なんてよくわかっていなかった。


強気な椎名君の言葉に流されたようなところもあるし、
これ以上椎名君に馬鹿な自分を露呈させるのを

避けたようなところもある。







「じゃあさっきの英文の答え合わせ、
 明日するからちゃんと予習しておけよ?」

「うん、わかった…」






じゃあな、と片手で手を振り椎名君は
サッカー部の部室がある方へ歩いて行った。


夕日が、輝いていた。








「えっと、なんだっけ…

 The eye will where love is…だっけ?」








私は家に着くまで、

椎名君の言った言葉を忘れないよう、

一人でぶつぶつ呟きながら帰るのであった。










一日逢わねば千秋

意味:一日会わないと千年もあっていないぐらいに
   長く感じる。男女間における思慕の情の切なるさまをいう。

類義英文:The eye will be where the love is.







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