月白風清

□悪縁契り深し
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悪縁契り深し















「だからぁ!私は期間限定のカボチャと紫芋のジェラートが食べたいの!」

「だからぁ!食べればいいだろ!」






ここは駅前の某イタリアンジェラートのお店。






「でもでも!抹茶も食べたいの!」


雑誌に取り上げられるくらい人気のあるお店だ。





「だから、翼が抹茶にして少しちょうだい!」

「あのねぇ、何度も言ってるけど
 僕はミルクと白桃って決めてるの」





翼はゆるがない。いつだってそうだ。







「僕はいつでもミルクと白桃って決まってるんだよ」

「いつも同じ物食べたら飽きるでしょ?
 たまにはいいじゃん」






「きょーこに指図される覚えはないんだけど」



こんなことは日常茶飯事だ。

翼とは正直合わない。



コンビニで買い物をする時だって、

おにぎりはツナマヨと梅、

飲み物はジンジャエールとお茶、

お菓子は買わないとチョコレート、

猫派と犬派、

勉強が得意と不得意、

運動が得意と不得意…

言わば真逆の人間なのである。





私が翼のことを理解できないように、

きっと翼も私の言動は理解できないだろう。




そもそも違う人間なのだから仕方のないことだ、
と言ってしまえばそれまでなのだが、
それにしても私たちは相違がありすぎる。






「はあ〜、明日も来るしかないか…」

「昨日ダイエットするって言ってなかった?」






ほら、また見つけた。

有言実行と有言不実行。




世の中にはあらゆる誘惑と挫折に満ちている。

それでも自分の目指すものに脇目もふらずに突き進んでいく、

それが椎名翼だ。




私は挫折の連続で、何度ダイエットに失敗したことか…。







「カボチャと紫芋のダブルください」

そうわかっていても目の前の誘惑に勝てない私は
なんて弱い人間なんだろう。












「ミルクと抹茶で」






「へ?」














椎名翼という人は、こういう人だ。













「あの、翼…?」



「その間抜け面が見たくなったんだよ」






翼が私の鼻を摘まむ。






「いったぁ…」



翼が、笑う。









「カボチャと紫芋、ミルクと抹茶でございます」




ありがとうございます、とお礼を言ってジェラートを受け取る







「ちょっと、何勝手に一口貰おうとしてるのさ」

「えー!私のために抹茶にしたんじゃないの?!」





また、翼が笑う。







「欲しいなら、ちゃんとお願いしなよ」


優越感いっぱいのこの顔である。







「本当に根性悪いんだからっ!!」

「それ、褒め言葉」








私と翼は合わない。


考えてることが全く違う。





だけど全く違うからこそ、

私だったらこんなことしないな、っていうことを

想像すると何となく翼の考えていることや

行動を予測できるから不思議だ。









悪縁契り深し

意味:よくない縁に限って、
   不思議と結びつきが強く離れがたいということ





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