薄桜鬼

□さあ、もう一度僕を生きようか
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「どうしたもんかなあ…」

松本先生に告げられた、病のこと。
千鶴ちゃんに知られてしまったのは、正直誤算だったけど、まあ、あの子なら大丈夫だろう。


それよりも、だ。
死病ってことは、これから剣を握って戦場に立つことが出来なくなるわけで。
それは、すなわち、一番組組長沖田総司の死を意味する。
どうしようか、どうしよう。

どうしたら、ここに残れるだろうか。
どうしたら、近藤さんの役に立てるだろうか。
僕はこれからどうしたら…。


幸いまだ剣は握れるし、戦う体力もある。
咳は時折出るけど、隠し通せないほどではないし。

ただ、近い将来、この体が動かなくなることは、避けられない。
その時、僕は…。

「…近藤さ、ん」

知らず知らず、震える自分の身体を、自分で抱きしめ、僕はその場に座り込んだ。


僕には政の知識もなければ、別段炊事が出来るわけでもない。
偵察が出来るわけでもないし、他に秀でているものも、ない。
僕には戦うことしか、剣でしかなかったのに。
それが僕の総てだったのに。


ごめんなさい。近藤さん。
小さい頃から厄介になった挙句、せっかく僕にここまで剣を教えてくれたのに。
僕に唯一、生きる意味を教えてくれた人だったのに。
これじゃあ、僕は、本当にただの役立たずだ。


「ははっ…」
思わず自傷的な笑みが零れる。







それでも、

それでも、諦めちゃ駄目だ。
バレちゃ駄目だ。
まだ、まだ、戦える。

とにかく調子の良い時は、なるべく敵と思しき者はたくさん、たくさん斬って。
少しでも新選組の、近藤さんの敵を殺して。



たとえ、最後に新選組が、近藤さんが、頂点に立つ姿が僕には見えなくても。


それでも、いい。
近藤さんがのし上がれるなら。
そんな日が来るのなら。
悔しいけど、後のことは土方さんに任せよう。
一君だって、平助だって、左之さんだって、新八さんだって、山南さんだって、山崎君だって、源さんだっている。
みんなともに鍛え上げた腕利きの武士だ。
僕がいなくなっても、大丈夫。
それに、みんなを癒してくれる、あの子だって。

絶対に、みんなが近藤さんを守ってくれる。







それなら、僕はこの運命を喜んで受け入れよう。

病如きで諦めるなんて、沖田総司らしくないじゃないか。










そして、最期には、誰かの盾くらいにはなれるだろうか。




そうすれば、僕にも、ほんの少しのだけ、生きた理由ができるだろうか。










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