丸赤
□赤髪ヒーロー
1ページ/1ページ
「テメェ、2年のくせしてレギュラー入りなんて、ふざけんなよ!」
突然のことだった。
レギュラー陣ではない3年の部員に、部室に突然呼び出されたのは。
そしていきなりこの怒声だ。
どうやら自分のレギュラー入りに怒っている、ということは理解できる。
所謂八つ当たりというものだろうが。
相手は6人。
鍵を閉められ、もう19時を回ったところだ。
練習もとっくに終わり、レギュラー陣もとうに帰ってしまったであろう。
(まじ面倒くせぇ)
本来なら帰ってゲームを楽しむ予定だったのに。それが目の前の奴らによって邪魔された。というか、レギュラー入り出来ないのはお前らが弱いせいだろうと腹が立ってきた。
「そんなの、センパイらが弱いからじゃないッスか?」
「んだと…」
「そりゃあ実力が全ての立海大ッスからね。アンタらが、俺より弱かった、それだけのことッスよ」
「黙って聞いてりゃ、生意気言いやがって…!」
赤也は部員の1人に胸ぐらを掴まれた。
周りにいる者も、怒りの表情で赤也ににじり寄ってくる。
しかし、赤也はテニススタイル同様、感情面のコントロール不足もあり、喧嘩っ早かった。例え相手が3年だろうが、多勢だろうが、不利な状況であろうが、決して屈しるタイプではない。
「本当、八つ当たりとか迷惑なんスけど。負け犬の遠吠えってやつッスよ」
赤也はこの状況でもさらに相手を煽り、挙句、笑ってみせた。
「っ、テメェ、先輩なめてんじゃねぇぞ!」
ガタンッと激しい音が、部室の中に響き渡る。
激しい怒声と同時に、赤也は左頬を殴られた。それも、グーで思い切り。
赤也は殴られた衝撃で壁に背中をぶつけ、その場に座り込む。口内が切れたようで、口からは血が流れていた。
「…っ、テメェ…」
赤也は口から流れ出る血を手で拭いながら、目の前の部員を鋭く睨みつけた。
その気迫に、相手の部員は一瞬怯んだような表情を見せたが、またすぐに赤也を睨みつけた。
「お前が悪いんだからな!生意気な2年のくせに、先輩を馬鹿にしやがって!」
周りの部員もそうだそうだと、赤也を責め立てる。
「しかもお前のテニススタイルなんて、相手の体にボールぶつけて、徹底的に痛めつけて勝つっていう卑怯なやり方じゃねぇか!
そんな奴にレギュラー取られてたまるかよ!」
その言葉に赤也の体が一瞬だけ、ぴくりと反応した。
そんなの、そんなことは…
「おーい、もういいだろぃ」
突然、聞きなれた声が部室に響いた。
「丸、井センパイ…?」
「おーおー、酷くやられてんなあ」
突然の丸井の登場に、3年の部員も焦りを隠せなかった。
「な、何で…もう帰ったんじゃ…」
「今日はたまたま用があってな。んで、帰ろうとしたら部室の電気が点いてたから」
鍵借りてきた、と丸井は鍵を指でクルクルと回してみせた。
「お前らさあ、寄ってたかってこんなチビ虐めて、楽しいわけ?そんなに悔しいなら、テニスで返せばいいだろぃ」
丸井の的確な言葉に、部員達は言葉も出ないで、ただ固まって下を向いている。
「それにな、こいつの言う通り立海は勝つのが掟。要は、勝てば何でもアリってこと。…プレイスタイルなんか、関係ねぇよ」
赤也はその言葉に、不覚にも涙が出そうになった。それは、やはり赤也にも思うところがあったせいかも知れない。
部員達はレギュラーである丸井の言葉に納得したのか、そそくさとその場を去っていった。
「おーい、大丈夫かぁ?」
「…別に大したことないッス」
「お前もさあ、負けん気強いのはいいけど、ああいう奴らの喧嘩まで買うんじゃねぇぞ」
「……」
赤也の不服そうな顔と、下を向く仕草に、丸井は苦笑した。
納得できないと、顔に書いてあるかのようで、本当に分かりやすい。
なんだかんだ言って、こいつはまだ2年になったばかりだ。それに、その気の強さこそが、赤也のテニスの強みでもある。
「あーかや」
丸井は赤也の頭を撫でるかのように、ポンポンと軽く叩いた。
そこで初めて赤也は顔をあげ、丸井の顔を見た。
その表情が、思いの外優しいもので。
赤也はぼんやりと丸井を眺めていた。
「…丸井先輩」
「あ?」
「…ありがとう、ございました」
赤也のいっぱいいっぱいの言葉に、丸井は喉をくつくつと鳴らし、小さく微笑んだ。
「お菓子奢りで、チャラな」
やけにキラキラした丸井の瞳や、派手な赤い髪が、今日の赤也には何だか眩しく見えて、お菓子を奢ることなんて、何ともないことのように思えた。