丸赤

□赤髪ヒーロー
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「テメェ、2年のくせしてレギュラー入りなんて、ふざけんなよ!」

突然のことだった。
レギュラー陣ではない3年の部員に、部室に突然呼び出されたのは。

そしていきなりこの怒声だ。
どうやら自分のレギュラー入りに怒っている、ということは理解できる。
所謂八つ当たりというものだろうが。

相手は6人。
鍵を閉められ、もう19時を回ったところだ。
練習もとっくに終わり、レギュラー陣もとうに帰ってしまったであろう。

(まじ面倒くせぇ)

本来なら帰ってゲームを楽しむ予定だったのに。それが目の前の奴らによって邪魔された。というか、レギュラー入り出来ないのはお前らが弱いせいだろうと腹が立ってきた。

「そんなの、センパイらが弱いからじゃないッスか?」
「んだと…」
「そりゃあ実力が全ての立海大ッスからね。アンタらが、俺より弱かった、それだけのことッスよ」
「黙って聞いてりゃ、生意気言いやがって…!」

赤也は部員の1人に胸ぐらを掴まれた。
周りにいる者も、怒りの表情で赤也ににじり寄ってくる。
しかし、赤也はテニススタイル同様、感情面のコントロール不足もあり、喧嘩っ早かった。例え相手が3年だろうが、多勢だろうが、不利な状況であろうが、決して屈しるタイプではない。

「本当、八つ当たりとか迷惑なんスけど。負け犬の遠吠えってやつッスよ」

赤也はこの状況でもさらに相手を煽り、挙句、笑ってみせた。

「っ、テメェ、先輩なめてんじゃねぇぞ!」

ガタンッと激しい音が、部室の中に響き渡る。

激しい怒声と同時に、赤也は左頬を殴られた。それも、グーで思い切り。
赤也は殴られた衝撃で壁に背中をぶつけ、その場に座り込む。口内が切れたようで、口からは血が流れていた。

「…っ、テメェ…」
赤也は口から流れ出る血を手で拭いながら、目の前の部員を鋭く睨みつけた。

その気迫に、相手の部員は一瞬怯んだような表情を見せたが、またすぐに赤也を睨みつけた。

「お前が悪いんだからな!生意気な2年のくせに、先輩を馬鹿にしやがって!」
周りの部員もそうだそうだと、赤也を責め立てる。

「しかもお前のテニススタイルなんて、相手の体にボールぶつけて、徹底的に痛めつけて勝つっていう卑怯なやり方じゃねぇか!
そんな奴にレギュラー取られてたまるかよ!」

その言葉に赤也の体が一瞬だけ、ぴくりと反応した。
そんなの、そんなことは…














「おーい、もういいだろぃ」

突然、聞きなれた声が部室に響いた。

「丸、井センパイ…?」
「おーおー、酷くやられてんなあ」

突然の丸井の登場に、3年の部員も焦りを隠せなかった。

「な、何で…もう帰ったんじゃ…」
「今日はたまたま用があってな。んで、帰ろうとしたら部室の電気が点いてたから」

鍵借りてきた、と丸井は鍵を指でクルクルと回してみせた。

「お前らさあ、寄ってたかってこんなチビ虐めて、楽しいわけ?そんなに悔しいなら、テニスで返せばいいだろぃ」

丸井の的確な言葉に、部員達は言葉も出ないで、ただ固まって下を向いている。

「それにな、こいつの言う通り立海は勝つのが掟。要は、勝てば何でもアリってこと。…プレイスタイルなんか、関係ねぇよ」

赤也はその言葉に、不覚にも涙が出そうになった。それは、やはり赤也にも思うところがあったせいかも知れない。


部員達はレギュラーである丸井の言葉に納得したのか、そそくさとその場を去っていった。



「おーい、大丈夫かぁ?」
「…別に大したことないッス」
「お前もさあ、負けん気強いのはいいけど、ああいう奴らの喧嘩まで買うんじゃねぇぞ」
「……」

赤也の不服そうな顔と、下を向く仕草に、丸井は苦笑した。
納得できないと、顔に書いてあるかのようで、本当に分かりやすい。
なんだかんだ言って、こいつはまだ2年になったばかりだ。それに、その気の強さこそが、赤也のテニスの強みでもある。


「あーかや」
丸井は赤也の頭を撫でるかのように、ポンポンと軽く叩いた。
そこで初めて赤也は顔をあげ、丸井の顔を見た。
その表情が、思いの外優しいもので。
赤也はぼんやりと丸井を眺めていた。

「…丸井先輩」
「あ?」
「…ありがとう、ございました」

赤也のいっぱいいっぱいの言葉に、丸井は喉をくつくつと鳴らし、小さく微笑んだ。


「お菓子奢りで、チャラな」


やけにキラキラした丸井の瞳や、派手な赤い髪が、今日の赤也には何だか眩しく見えて、お菓子を奢ることなんて、何ともないことのように思えた。










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