smbr男主長編
□みっつ。
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いよいよ、明日は運命の日です。僕の頑張りに、全てがかかる日。とても、とても緊張しますが、僕自身の感情はとりあえず置いておくとして。
僕は今日この日まで約三年間、マスターさんにも、カービィにも、マルスさんにも、ほかの誰にも話すことなく、このとても大きな秘密を、ずっと守り通してきました。
一人の時でも、口に出すことはしませんでした。ただの一欠片も。それが、僕なりのケジメというか、決意と覚悟だったのです。
それは、実をいえばすごく、本当にすっごく、苦しかったけれど。でも、誰かに話して、そうして未来が変わってしまうかもしれない危険を犯すよりは、ずっとマシでした。だって、キミが明日、助かることは分かっていたから。だから、僕は何にも怖くなんてなかったんだよ。
……それでも。やっぱり、いよいよ前日になると、その重さに耐え切れそうになくて。さっき少しだけ、初めて彼に話しました。
きっと、彼には僕の言った支離滅裂な言葉の羅列の意味は分からないだろうけど。ただ不安に押し潰されそうな僕の自己満足でしかないけれど、それでも。僕をずっと支えてくれて、そばにいてくれて、そして明日、一時的にとはいえたった一人になる彼には、どうしても言わなきゃいけないと思ったのです。
思った通り、彼はただ優しく、泣いてしまった僕の話を聞いてくれました。髪を撫でてくれて、抱え込んだらダメだと、叱ってくれました。
それは本当に、温かくて。だからこそ、彼の言葉を裏切ってしまった事が辛いです。ごめんね、カービィ。僕が、もう少し勇気があれば、言えたのかもしれないけれど。僕はやっぱりどこまでも、臆病でしかなかった。
彼に話したのは、的をえない言葉ばかりでした。でもそれ以外は全部全部、この日記帳の中だけです。
僕の秘密も、恐怖も、葛藤も、全部。この日記の中にだけ、それがあります。それで、いいのです。
明日。僕は、あの場所に向かう皆を、ここで見送ります。見送って、そうして、1人で準備をします。
あれの、キーラのヒカリから逃れるには、凄く凄く、想像すらできないくらい速いスピードで、移動し続けなきゃいけないのです。とても難しい事だし、今でもずっと不安です。出来なければ、そこで僕は終わってしまいます。まさに命懸けです。
記憶が戻った今の僕でも、あのヒカリを避ける術は、本来は無いのです。でも、僕はこの戦いで、僕の全てを賭けます。僕という生命の、全てを。
……僕の1番の目的は、父さんを救うこと。
今の父さんの様な状態を「暴走」というのだと、遠い昔に僕は父さんその人から聞いていました。そうならないように、いつでも心を落ち着けている必要があるのだとも。……ですが、万が一にも、そうなってしまったのなら。出来ることは、1つしかないという事も聞いたのです。
暴走した僕ら一族は、同じ力を込めた武器での攻撃しか、その身に受け付けないのです。
いえ、他の武器でも攻撃は出来るのですが……端的に言えば、それらではトドメを刺すことが出来ないのです。傷はつくし弱りますが、そこまで。
でも、だからこそ僕なら……いえ、父さんと同じ血を持ち、同じ力を宿した武器を持つ僕にしか、父さんを救うことは出来ないのです。
そして、その段階に行く前に……父さんを救うにはまず、あのヒカリをどうにかしなきゃいけないのです。きっと世界全部を覆ってしまうだろうそのヒカリから逃れる術を、考える必要があったのです。
僕はとても考えました。考えて考えて、そうして、これしかないと思いました。
……きっと、キミはすごく怒るだろうね。でも、本当にこれしか、今の僕には方法が無いのです。僕が、父さんのように強くはないばかりに。弱いばかりに。だから、ごめんね。
謝って済むことじゃないけど、全部終わった後、僕はキミと、あの人に伝える術を持たないと思うから。
キミは、この選択をした僕を、許してくれるかな。……あの人はきっと、許さないと思うけど。
もしかしたらキミも、許してはくれないかもね。
でも、許してほしいとは言いません。僕の事は一生、許さないままでいいから。馬鹿だって、そう言ってくれていいから。
僕は、父さんを「救う」と言っているけれど。それはつまり、どういう事なのか。きっとこれを読んでいるであろうキミは、もう気づいているよね。
僕は罪を犯すのです。本当はやりたくないけど、やらなきゃいけないから。
もう、父さんが苦しまなくていいように。そして同時に、キミや皆さんの住むこの世界が、もう二度と僕ら一族のせいで脅かされることのないように。僕は父さんを殺し、自らの罪も清算します。
……長くなってしまったけれど。明日が来る前に、キミと話せて嬉しかったです。キミの掛けてくれた言葉を思い出して、今もこれを書きながら思わず笑顔になってしまうほどに。
─では、また明日。
何もかも、全てが上手くいくことを、心から祈っています。
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(ふうとひとつため息を吐いて、古ぼけた表紙を閉じる。)
(柔らかいはずの月明かり。それがどうしてか今日は、目の奥をちくちくと刺すように思えて。)
「……やっぱり…少し、寂しいなぁ…」
(もう見ることも無いだろう満月の光を焼き付けようと窓の外を眺める目から、煌めくものが、一粒落ちた。)
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