smbr男主長編

□にねんまえ。
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 今日は、マルスさんと2人きりで、少し哲学的なお話をしました。

 マルスさんは、少しのきっかけで日常的に戦が起こってしまうような、そういう世界から来たらしいのです。なので、だからこそ今、少しあの人から話を聞きたいと思いました。

 僕はマルスさんに、二つ質問をしました。
 一つ。『大きな失敗をしてしまったことはあるか』。
 二つ。『後悔していることはあるか』。

 今にして思えば、とてもくだらないというか、あまり人に聞かれたくはないような事だったと思います。だってこれは、自分の弱さを見せることになるのですから。

 それに、その質問は今の僕自身が抱えている悩みそのものなのだから、人に聞いてどうにかなる質問でもなかったです。……でも、確かにそれを口にしたあの時の僕は、答えをあの人の口から聞きたくて仕方がなかったのです。僕の憧れである、誰よりも英雄らしいあの人の答えを。


 結果的に、マルスさんはこんな質問でも、ちゃんと答えてくれました。でも、その答えをここに書いて残しておくのは何だか、良心が咎めるというか…率直に言えば、あの人に申し訳ないです。なので、僕の心の中にそっと収めておくことにします。


 僕の生きてきた、ほんの十数年間。まだ成人の齢も迎えていない、きっとヒトが充分に生きたというには、短すぎる期間。

 僕には、この短い僕の生の中で、一体何を間違えたのか、どこで失敗してしまったのか、何を後悔しているのかが。今の状況に至ってしまったのはもう、何が原因なのかも分かりません。それを考えるには、僕はあまりに無知に過ごしてきてしまったと、今になってそう思います。

 でもきっと、この運命を変えるための切っ掛けは──抜け出す為の鍵は。僕が幼い頃の、ほんの些細な事なのだと。そう、漠然とした予感があります。何かまでは分かりませんが、きっとそうなのです。僕は僕が知らないうちに、何かを決定的に間違えてしまった。

 でも、でも。だからといって過去には戻れません。少なくとも、今の僕の力では、過去に遡ることは出来ません。それを成すには、少し先の未来へ飛ぶよりも、遥かに沢山のエネルギーを使います。僕にはそんな力はありませんし、もう、つけるための時間も無いのです。……僕には、何もかもが足りない。分かっていても少し、情けなくなります。


 …少し、話が逸れました。僕がすぐに話を脱線させてしまうのは、きっと現実逃避みたいなものです。この、どうしようもない運命から、少しでも逃れた気になりたいだけで。
 でも、僕は本当に、そうすることでしか平静を保てないのです。今この状況にあって、僕が貴方のような英雄であったならと、叶わない事を思わずにはいられません。僕はきっと、強く在りたかった。貴方のように。


 話を戻して。他に、今日はマルスさんと色々なお話をしました。例えば、また今度、次は一緒に水族館へイルカでも見に行こうだとか。例えば、カービィと何年か前に一緒に行ったパフェのお店に、そろそろまた三人で行こうだとか。そんな、取り留めもない話ばかりです。

 でも、マルスさんは少し微笑みながら、ずっと僕の拙い話を聞いていてくれました。それが、僕にはすごく嬉しくて。そんな風に彼が僕と接してくれる度に、やっぱりこの人の事が大好きで、憧れなのだと、再認識するのです。


 ──運命の日は、まだ先です。

 一年前。あの夢を…忘れていた記憶を見た、雨の夜。
 突然目の前に立ちはだかる、どうしようもないその未来は本当に怖くて。世界が、この先見るもの全てが恐ろしくて、仕方がなかった。もう、いっそのこと何もかもを放棄して死んでしまおうかと。そんな事を考えてしまったのも、一度や二度じゃないけど。

 でも、今こうして僕はここにいます。それは、マルスさんやカービィが、僕の傍に居てくれるからです。
 僕は、ひとりでは息をすることだってきっと出来ないけれど。でも僕は独りでは無いのだと、貴方達と一緒にいる間は、そう思えるから。貴方やカービィの存在は、僕にとってはもう、生きる為に無くてはならないものになってしまいました。…重いし、こんなの困りますね、きっと。ごめんなさい。

 僕はやっぱり、どこかがおかしいのです。もういつからかも分からないけれど、きっと僕は貴方達と出会ったその時には既に、壊れていたのです。

 僕の世界には、父さんしかいなかった。…否、父さんだけが、僕の世界だった。だから父さんが居なくなったというのは、僕にとっての世界が丸ごと消えてしまったのと同じことでした。

 此処へ来て。貴方やカービィや、皆さんと出逢って。僕は、父さん以外の世界を知った。こんなにもきらきらしていて、鮮やかな世界があったことを、知ったのです。
 でも、どれだけ新しい世界が素敵で楽しくても、やっぱり僕の中から父さんという世界が消えてしまった事実が、あまりにも大きすぎて。こんなになるまで自分でだって気づかなかったけれど、僕は思った以上に幼い頃の記憶に依存していたのです。あの日まで思い出す事もなかった筈の、幼い僕の曖昧な記憶なんてものに。

 そんなものに縋って、依存して、漸く息ができる。とんだ恩知らずだと罵られても仕方がないです。皆さんから貰ったものは、僕が生きる為には不十分だと、そう言っているも同じですから。

 …思えば、マルスさんが此処へ来た年。僕が、皆に沢山迷惑を掛けてしまったあの日。

 二度目の、誰かに凄く心配されるという経験をした、あの日。

 僕が自分を突き刺す痛みに耐えられなくなって、痛いだけのヒカリを避け、閉館した後の暗い水族館の中に逃げ込んで、小さく蹲っていたその時から。

 僕は本能で、僕自身のことを──

 父さんのようにも、母さんのようにも……どちらにもなれない、半端者の運命を、分かっていたのでした。



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