smbr男主長編

□さいご。
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 明日はいよいよ、運命の日です。

 ……あれ? この書き出し、いつかやったような気がするけど…まあいいか。

 今はすっかり真夜中で、もう今は、僕以外に起きている人はいません。辺りはとても静かですが、時々ドンキーさんやガオガエンさん、クルールさんの鼾が聞こえてきます。近くで寝ていたカービィは、大丈夫かな。どうか彼がゆっくり眠れるように、祈っておきます。


 今日、僕達は闇側の世界の攻略を終えて、奴等に…キーラとダーズに、再び会いました。僕らが傍に来るまで、奴等はお互いに無数に攻撃を繰り返していて──その足元に僕らが来た事でようやく、その存在を認識したようでした。まるで自分達はオマケみたいだなと、ウルフさんやリドリーさんが怒っていました。



 そして今日。僕は、自分の運命を──その、本当の末路を知ったのです。結末は、最初から考えていたものと変わる事はないけれど。

 でも、少しだけかなしいです。だってもう、僕はその時を迎えてしまえば、彼に会うことも、あの人にお礼を言うことも、何もかもが、出来なくなってしまうから。それがやっぱり、少し、心残りです。


 それにしても、まさか父さんだけでなく、母さんまでもが倒すべき敵として立ちはだかる事になるだなんて、今日の今日まで、僕は想像もしてませんでした。だって、母さんは僕が産まれたそのたった一年後に、難しい病気で死んだと父さんから聞いていたのだから。

 でも、今日目にしたアレは、あの優しかった僕の母さんじゃなかった。気配や響いた声の奥底は母さんによく似ていても、その中身は、何か別の、もっとどろどろとしたおぞましいものでした。

 今日母さんを見て、その声を聞いて、目が覚めるようにやっと思い出すことが出来た、僕の本当に幼い時──多分幼い僕が無意識に力の一端を使って記憶してしまったんだろう、僕の視界を通した記憶の中。
 決して立派とは言えないけど、丁寧に文字の彫られた白い大きな石。それが、乱暴に倒されていて。そうしてその下の、母さんの眠るはずの地面に、大穴が空いているのを見ました。ぐちゃぐちゃにされていた冷たい土の中。ある筈の物が、なかったのです。

 それを映した後、幼い僕の視界は、がくんと下に下がりました。恐らくだけど、僕を抱いてくれていた父さんが膝を折ったのです。もうほとんど感覚も残っていないけれど、僕の顔に滴る雫があったのを、微かに覚えています。

 父さんは、僕の前では一度だって泣くことがありませんでした。その父さんが、泣いていた。だからきっと、母さんの亡骸は、誰かに奪われてしまったのだと、思います。
 母さんの血族…『宵闇の一族』に僕達同様に特別な力があると知っていた、何処かのばかな誰かが、母さんを掘り起こしてしまったのでしょう。まったく。だから、ニンゲンっていうものを父さんは嫌っていたのだと、今更ながらに理解しました。

 だいぶ、昔話になってしまいましたが。
 つまり、何が言いたいのかと言うと。ダーズという化け物はきっと、母さんの亡骸を利用して作られたんだろうという事です。

 母さんの一族も、僕らの一族も魂が共鳴するから、会えばわかる……そんなことを、父さんは昔話してくれていました。だから、キーラも、ダーズも。確かに、元は僕の父さんと母さんだったものなのでしょう。

 父さんは、母さんが大好きだって、ずっと僕に話していた。そしてきっと母さんも、父さんの事が大好きだったのだと思う。だって父さんと母さんの血族は、決してひとつになる事を許されてはいなかったのだから。
 その縛りさえ破って、二人は愛し合って、そうしてその間に僕という子どもを授かった。それは確かに禁忌だったのかもしれないけれど、でも。二人はただ、穏やかに暮らしたかったはずだった。母さんのことは分からないけど、少なくとも、父さんはそうだった。

 ……本当に。どうして僕達は、『普通』に生きることが許されないんだろう。それそのものが罪であるみたいに、世界は僕らを嫌うんだ。


 もう、この話はやめよう。どうせもう、全部にカタがつくんだから、今更何を言うことも無い。


 この話の前は、何を書いていたっけ……ああそうだ。僕の知った、本当の僕の末路について。

 僕は元々、キーラのヒカリから逃れるための力を賄う方法として、僕自身の生命力を変換する方法を選びました。

 生命力。即ち、僕の命そのものです。
 ……自分でも、本当に最後まで、悩んで悩んで、多分一生分悩みました。僕はキミや皆さんのような英雄(ヒーロー)ではないから、世界を救う為に自分の命を犠牲にするなんてことは、簡単には決められなかったのです。できれば、痛みや辛さとは無縁に生きていたいし、そう在りたかった。
 でも最後には、本当に、これしか残らなかったのです。類まれな魔力も、才能も持っていなかった僕には、僕らの一族の血に根付いた、この方法しか。

 あのヒカリから逃れる為に必要な速度は、最早時間跳躍と同等でした。少し先の未来へと駆ける事で、世界があのヒカリに呑まれ、そうして何もかもめちゃくちゃになった後の世界に出ることができるのです。

 僕はこの方法を使う事はできても、余裕を持って行使できるほどの力は持っていませんでした。思い出したのが3年前だから、当たり前なのだけれど……
 だから、この初期段階の行動で生命力の大半を消費するであろう僕の命は、この戦いが終わるまでか…長くても、それから一年保つか保たないか。そのくらいだと、考えていました。

 でも。今日僕は、僕の本当の命の終わりを知りました。

 あの二人を倒すには、その中心──核を、僕の持つ剣…僕の残り滓のような精一杯の力を込めた剣で、貫く必要があります。
 そうして、貫いた後──二人は、その身体に今まで収めていた膨大なスピリットを放出して、消えるのです。これを書く前に、ふと視てしまったあの光景は、崖上での崩壊を視てしまった時と同じ感覚でした。いわゆる、「未来視」というものの一つなんでしょう。その二回以外、見れたことはないのですが。

 ともかく…あの膨大な量のスピリットが、元の形へ還ろうとする時。その中心にある核では、僕なんかには想像できないくらい物凄い、エネルギーの流れが発生します。そしてそんなものに触れれば、例え何であろうとも、無事では済まされないということは、僕でも分かります。

 でも、倒すには。二人の核に迫って、貫く必要がある。

 ──だから、僕の命の終わりは、まさにその時なのです。

 父さんと母さんを止めたその時、僕は命の終わりを迎えます。

 解放されたエネルギーの激流に揉まれて、押し流されて。きっと僕は、スピリットの一端にすら、なれないだろうけど。

 それでもいい。いいのです。命の終わりは、ずっと予感していたことだから。

 それに……父さんも母さんも、もう僕の世界から、いなくなってしまうのならば。僕も、一緒に消えてしまいたい。
 何もかもを知らなかったあの時と違って、すべてを思い出した今の僕が、大切な存在を一度に失ってしまって、また何でもないように過ごせるとは、到底思えないから。



 

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