smbr男主長編

□ほんとうの、さいご。
1ページ/2ページ





 いやだ。

 怖い、怖くて、こわくてたまらない。しぬのなんて、いやだよ。


 ぼくはどうなるの? ねえ、誰か、だれでもいいんだ。教えて。

 たった一人で、このまま一人ぼっちで、死ななきゃいけないの?
 誰にも、ぼくがこんなになるまで苦しんだことを、知ってもらえないまま。

 嫌だ。そんなの、本当はいやだよ。

 死ぬのは怖い、すごく怖い。死んだ後は、誰にも分からないから。どんな本を読んでも、誰に聞いたって、知ることが出来ないから。だから、死ぬのは怖いことだ。


 ねえ、死んだら本当に、次の僕に生まれ変わることは出来るの?

 それとも、僕は嘘つきだから。地獄ってところに行くのかな。

 それでもいいんだ。分からないのは嫌だ。なんでもいいから、死んだ後はどうなるのか、教えてよ。


 ……ううん。そんな事、無理だってわかってるんだ。カービィも、マルスさんも、皆も、マスターさんも。誰も、知らないのだから。

 それに。これは、このどうしようも無い気持ちは、全部。僕の、単なるわがままなんだ。
 1人で抱えるのも。1人で悩むのも。1人で、死ぬのも。全部、僕が自分で決めたこと。だから本当は、こんな風に嫌だと駄々をこねるのは悪い事だと、わかってる。わかってるけど。
 でも、いざ自分が死ぬのを目前にして、どうしても心が竦み上がってしまうのは、どうか許して貰えないでしょうか。だって僕は、いつでも死ぬ覚悟なんて出来てはいないのです。ただの、臆病な生き物だから。


 カービィ。マルスさん。ぼくは、僕の中に眠っていた記憶が戻った、あの15歳になった雨の夜からの三年間、生きることがとても怖かったのです。

 誰にも決して言えない秘密を貫き通すことが、本当に恐ろしかった。でも、二人が居てくれたから。だから、僕はここまで来れました。今日という日を、迎えることが出来た。

 怖くてどうしようもなかったけど、でも。いよいよ明日で終わります。この長かった戦いも、僕らの罪の清算も、ぜんぶ。


 カービィ。僕は、キミに会えて本当に良かったと思うよ。

 キミと過ごした毎日が、星くずみたいにきらきらしていて、夢みたいに温かかった。

 あの、いつかの日のパフェ。また食べようって言ったのに、約束守れなくてごめん。
 それから、アレはキミが食べたいと言ったからじゃなくて、僕がいつかの父さんとの約束を果たしたくて誘ったんだっていうのも、思い出したよ。その事だけじゃなくて、他にもたくさん、同じような事があったことも。きっとキミには、悲しい思いを沢山させた。本当に、ごめん。

 それと、マルスさんとキミと僕の三人でどこかへ遊びに行くのも、守れなくなるな。ごめんね。


 キミには、言うつもりが無かった事でも、つい話してしまって。それで僕はいつも、1番肝心なことの一歩手前までを話していた気がする。
 なのにキミは、多分、何となく僕が何か隠している事には気づいているだろうに、何でもないような振りをしてくれていたよね。

 僕には、それが嬉しかった。嬉しくて、同時に、すごく苦しかった。

 僕は、こんな優しい友人に、本当の最期まで、抱えていた秘密をすっかり話してしまうことが出来なかった。

 それが、今となっては心残りです。……だから、ここに残すのは、そのせめてもの気持ち。

 ああでもきっと、これを読むキミはもう、僕のことを覚えていないんだろうな。悲しまなくても、いいよ。だってそれは、僕が自分で決めたことだ。だからキミは、何も悪くないんだよ。

 カービィ。僕は、残り少なくなっている生命力のうち、まだ使える最後のひとかけらを使って、僕自身の中と、キミと他の皆さんにも同様に、ある術式を組みました。それは僕の命が終わると同時に発動します。

 ここまで、色々なことをやっておいて。沢山迷惑もかけたのに、とても、とても勝手だけれど。

 僕は、これが一番だと思いました。僕にとっても、皆さんにとっても、そして、キミにとっても。



 ……ああ、朝が来たみたいです。最後の朝なのに、ろくに寝ずに過ごしてしまいました。

 僕といういのちの迎える、最後の朝。すべての終わりの朝が来ました。

 こんこんと、終末がドアを叩いているようです……なんて。ちょっと、恥ずかしいかな。でも最後なので、ちょっとくらい変なことを書くのだって許して欲しいです。


 それでは、今まで有難う。

 またいつか、何処かの誰かとして、キミに逢えたら嬉しいです。



 ──では、また明日。……僕のいない、明日からの未来へ。

 永遠に続く平和への祈りを込めて、これを僕の幕引きと致します。





(次の頁をめくる。何も無い、空白の頁だった。)


(ぺらり、頁をめくる。何かを書いたのか、上からぐちゃぐちゃに塗り潰された頁だった。)


(ぺら、ぺらり、頁をめくる。足踏みをするように、迷うように、空白と、何かを書いて塗り潰した頁が、いくらか続いて。)


(ぱらり。そうして、もう残りがほとんどなくなった頃。どこか、乾いた感触の頁に辿り着いて。)


(何頁分もの葛藤を挟んだ末に、それは、書き遺されていた。)

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ