smbr男主長編
□いつかのどこか。
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…… …、……。
…………おや? これはこれは…
大変失礼しました。
…いえ、何分この場所に来訪者があるなど、それはそれは久方振りの事でしたので……
……いえ、この言い方は正しくありませんね。
ええ、そうですとも。何故なら私は、貴方様がこの『旅路』を歩んでここへ来るまでを、ずっと待っていたのですから。
……こほん。それでは、改めて。
苦難と悲嘆の声を抜け、ここまで辿り着いた貴方へ。
W彼Wの旅路は、如何でしたでしょうか? 長かった、短かった……それは、様々だとは思いますが。
彼のした、大きな決断。その優劣は、彼にしか分かりません。
ですが、あの星の戦士の子と共に歩み続けた彼は、この結末に辿り着くしかなかったのでしょう。
──守り続けた秘密。隠しながら、取り繕いながら…自らを欺きながら歩み続けた、彼にとっての『運命の日』からの三年間。
そうして戦い抜く中で知った、自分自身の運命。あまりにも呆気なく目の前に示された、『死』という末路。
……今回の運命の彼は、自分に降り掛かる理不尽も、謂れのない贖罪も全てを受け入れて、自分という存在が歩むべきと定めた運命に殉じました。
自分の意志を、我儘の全てを押し殺して。「生きたい」という生物の本能的欲求すら、小さな我儘なのだと心の奥底へ閉じ込めて。
そうして運命に抗うことなく従い続けた彼の精神は、原型をなくしていきました。
彼は残酷なまでに純粋に、『運命』というものの信徒となってしまったのです。
──長く、長く語ってしまいましたが。この物語は、これでおしまいです。
ええ、おしまいです。本当に。
……『この運命における彼の物語』は、確かにここで終わりです。
では、次は?……それは、もちろん。
新しい運命は、もうすぐそこに。両手を広げて、貴方を今か今かと待っています。
……往くのですか? では、お忘れ物など無いように。
あちらの運命の彼が幸せなのか、それともこちらが幸せなのか、はたまたどちらもまったく違うのか……それは存じ上げませんが。
きっと、どの運命も、彼にとっての真実になるのでしょう。
……おっと、少しお待ちを。
私が忘れ物をする所でした。危ない危ない。
『英雄王の鍵』は、こちらに。…はい。
……それでは。どうか、お気をつけて。
──はい? 私は誰なのか、ですか?
……ふふ。それは今はまだ、言わぬが花というものです。
貴方様が歩み続けていれば。いずれ、どこかの運命でまた、ばったりお会いできることでしょう。
あと、2回…いえ、もしかしたらそれ以上かもしれませんが。
沢山の運命を、旅路を歩んで来た貴方様に相応しい、最も困難な運命を開いて、貴方様をお待ちしております。
──はい。ですから、私のことはその時に。
それでは──ここまで、本当に有難う御座いました。
ひとりすべてを見続け、歩み続ける貴方様の運命に、どうか幸あれ。
*
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