企画

□turn out fruitless
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3月14日、学校を終えてデートをしよう、と誘って来た仗助。昨日のうちに明日の放課後暇か?なんて聞いてきたから予想はしていたので、つい笑ってしまった。


「…なんだよ」
「んーん!なんでもない!早く行きましょっ」


照れくさそうに頬を掻いた仗助にそう言って腕を引くと、「あー、待って」と腕を解かれた。え、なんで。


「今日は俺がリードすんの」


ぽかん、と固まった私の頭をぽんぽんと撫で、ニッと渡井ながら今度は仗助が私の手を取った。いつも思うんだけど、その笑顔、ずるい。
手をつないだまま、校門を出る。ほんの少し後ろから眺める仗助の背中はたくましくって、覗き見た横顔は整っていて、今は先ほどの笑顔とは違って真面目そうな、というか、しっかりと前を見据えていて…。


「なぁ、ちょっと見すぎじゃね?」
「えっ、そうかな」


不意に仗助の顔がこちらを向いて、ちょっと不満そうな顔を見せた。いや、頬が赤いからこれはきっと照れているのだ。そんなつもりはなかったけど、言われてみればそうかもしれない。だって、表情が豊かで見ていて飽きないんだもの。仕方ないじゃない?


「ね、今日はどこに連れて行ってくれるの?」
「ついてからのお楽しみー」



そう言っていたずらに笑った仗助が連れて来てくれたのはイタリアンのお店だった。どうやら店主のトニオさんと仗助が知り合いらしくて、「サービスです」と席までエスコートされ、笑いかけられて思わずどきりとしてしまった。仕方ないよね。
夕飯には早いのでケーキとコーヒーをいただいた。ケーキはもちろんのこと、コーヒーまで物凄く美味しくて、早々に平らげてしまった。杜王町にこんなお店があったなんて知らなかった。


「ホント、うまそうに食うよなー」
「だって美味しいんだもの。ふふっ、素敵なお返しありがとう」


また食べに来よう、と笑うと仗助も笑みを返してくれる。かと思いきやなんだかソワソワとしはじめた。どうしたのだろう、と首を傾げていると意を決したようにさ迷わせていた視線をこちらに、まっすぐ向ける。


「あのさ、お返しこれだけじゃなくてよ、重いって思われるかもしれねーけど…」
「なに?」


そう言って仗助がカバンから取り出したのは小さな箱。お菓子、にしては小さ過ぎるし、なんなら今ケーキを食べたのだから食べ物の類ではなさそうだ。照れ臭そうに一度首の後ろをかいた仗助は、その箱をゆっくりと開ける。


「わぁ…!」


そこには指輪があった。小さなハートのあしらわれたゴールドの指輪が、ちょこんと顔を出している。可愛らしいそれに、思わず声を漏らすと目の前の彼は口元を綻ばせた。


「まだ高校生だから安物だけど、その…そのうちちゃんとしたの渡してぇと思ってる。ナマエのことはそんくらい好きだ。ナマエはどうかわかんねぇけど、俺にはお前以外考えられねぇ…だから…」


なにそれ、なにそれ、何それ。
ほんのり頬を赤らめながらもしっかりとこちらを真剣な眼差しで捉える。がっしりと心臓を鷲掴みにされたみたいに息が苦しくなって、それでも心地よくて、彼の言葉をほんの数秒遅れで理解した。


「そ、んなの、まるでプロポーズじゃない…」


みるみる自分の顔が赤くなっていくのがわかって、慌てて俯いた。こんな恥ずかしいこと平気で言えちゃう仗助が憎らしくも羨ましい。


「言うなよな!俺だって恥ずかしいんだからよ〜…でも、それくらい本気で、そのー、あーーまぁ好きなわけ」


一度いつものおちゃらけた様子が戻ってきてホッとしたのもつかの間、再び真剣な声音で言われると胸の鼓動が高まる。受け取ってほしいと言わんばかりに少しこちらに寄せられた指輪。答えなんて決まりきっている。


「私も、私も仗助が好き…他の誰かなんて考えたことないよ」


そろそろと視線をあげて告げれば、顔を赤くしてわなわなと震える仗助の姿があった。普段なら笑ってしまうのだろうけど、そんな雰囲気でないことくらいわかる。込み上げてくるのは緊張だけだ。

ゆっくりと左手を差し出すと、仗助はその意図を汲み取ったらしく、箱から指輪を取り出す。仗助の左手が私の手を取り、彼の右手の指にちんまりとつままれた指輪がゆっくりと私の左手の薬指に差し込まれていく…。


「げっ!」
「あっ…」


声をあげたのはほぼ同時だった。指に嵌められたはずの指輪は、嵌められたと言うよりもひっかけられた、と言う方が正しいくらいにぶかぶかでサイズが合っていない。試しに親指に嵌めてみても、それでも大きかった。


「嘘だろ、女の子ってそんなに細ぇのかよ…!」
「…ふ、ふふっ」
「笑うなよな!くっそー…!」


カッコつけたかったのに、とテーブルに突っ伏して頭を抱える仗助。笑うなと言われても、それは無理な話で。バレンタインの時は私がやらかしたけど、今度は仗助がだなんて、全く面白い話だ。


「ごめんごめん、でも嬉しいよ。これもらう」
「えっ!?」
「私のこと考えて選んでくれたんでしょ。チェーン通せばネックレスにできるじゃない」


貰う、と言うと仗助がガバッと顔を上げて驚いた表情を見せる。どうしてと言わんばかりに見開かれた目。仗助がバレンタインの日楽しみにしていたように、私もこの日を楽しみに待っていたのだ。それがこんな素敵なプレゼントだなんて思いもしなかった。
にこりと笑えば、仗助の顔も自然とほころんでいく。


「!いつかちゃんとしたやつ買うからな!」
「うん、待ってる」



トニオさんにお礼を言って、その日は手を繋いで帰った。その途中で指輪を通すチェーンを買って…。


次の日、私の胸元には光るリングネックレスがあった。




end
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