断固拒否!

□ゼロからはじまる
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2016年11月某日。飛世杏子、21歳、S大学文学部歴史学科の大学4年生。就活から帰って、メイクを落とし、楽なジャージに着替えていたら届いていたメール。
スマホの画面を開けば、そこには先週受けた面接結果の通知。
あぁ、結果は不合格だ。

どんなに丁寧に書かれていても結果は変わらない。私はまたダメだったのだ。
また今日も頑張ってきたのに、一気に無気力感に襲われてばたんとベッドに倒れこんだ。

しかし、私がいけないのだ。
十分な準備ができず曖昧な回答になる。しかも心の中ではそれを卒論やら実習やらのせいにして。本当はあの会社に対してだって本気でなかったし、なんて思ったりして。
このままの私を受け入れてくれる、そんな場所はないのだ。
変わらなければいけない。でも、それができない。

クズでグズな私は、それでも一丁前に悔しくて泣くのだ。そしてそのうち自分が酷く醜い心を持った人間であることにまた涙する。こんな自分大嫌いだ。


いっそ、私なんか消えて無くなってしまえばいいのに。
いっそのこと死んで、来世に期待したらいいのに。

死ぬ勇気もない私はそんなこともできないけれど、そう思わずにはいられない。



不甲斐ない自分に、涙がたまって、溢れた。
顔を枕に押し付ける。弱い自分は誰かに見られてはいけない。私は強くならなくてはいけない。
誰にもこの傷ついた心はさらけ出さない。私は私でこの問題を解決しなければならないのだから。


目の前に転がった、真っ白でふかふかな白クマのぬいぐるみを引き寄せる。
布団をかぶり、涙を隠す。そうしているとやがて布団はぬくぬくと温まり、その日私はそのまま眠ってしまった。









もぞり、と寝返りを打ったその時だった。いつもと違う感覚に、自分でも眉間に皺が寄ったことがわかって、意識が浮上した。
カーテンから日差しが覗いていないのがわかると、こんな夜中に起こされたことに余計腹が立つ。薄っすらと開けた瞳がとらえたのは自分以外の何者かによってむっくりと膨らんだ布団だった。
さて、戸締りでも忘れたのかどこぞから入ってきた恐らく野良猫だかなんだかが暖をとるために布団に潜り込んだのだろう、その正体をさっさと暴いてつまみ出してやる。この岸辺露伴の眠りを妨げたことを後悔させてやろう。

ないはずの膨らみがある布団をバサッとめくって、その中身に驚愕した。そこにいたのは猫なんて生易しいものではなかった。
人間だ。小柄な、それも女。わけがわからずに、思わず本当にどこか戸締りを忘れたのかと、二階であるにもかかわらずベッド向こう側の窓を確認してしまったくらいには困惑した。なぜ、見知らぬ女がここに?
昨夜酒を飲んで酔っ払ったでもない。寝巻きだってしっかり着込んでいるしいわゆる致した後の気だるさだとか、そういった感覚もない。何より顔は分からないがどう見ても小さい体…年下に見受けられるその様子から手を出していたならそれこそ自分が死にたいくらいには趣味を疑う。
とどのつまりあり得ないのだ。この女がこの家にいるのは。《ヘブンズ・ドアー》で女の記憶を読もうにも、彼女が起きて自分の原稿を見なければ無理だ。

もう一度布団を女にかぶせて、今度は玄関、一階の窓、裏口、すべて鍵が閉まっているか確認をした。混乱から生まれた行動であったが、すべて鍵が閉まっていたことを確認すると、露伴は興奮を覚えた。
密室だ。密室だったのだ、あの部屋は。どの扉も、窓も、鍵が掛かっていた。
相手が相手なら殺人だって起きていたかもしれない、それを体験したのだ自分は。


「いいネタが思いついたぞ…!描かなければ…!!」


はたから見れば頭がおかしいことこの上ない。しかしこの場にそれを告げるものはいない。いたとしてもいつの間にかベッドで寝ていたあの女なのだが、温かい布団を掛けられた女は寒さに起きることはないだろう。

露伴はまだ外が暗いにも関わらず机へと向かい、そしてペンを走らせた。
漫画にはリアリティが必要だ。そう、今体験したことはそのままの状態で、今、書き留めなければ。湧き上がるインスピレーションが筆を軽くし、新しいページがどんどん作られていく。久々だ。まるで筆が踊るようだ。
フフフフ、と不気味な笑い声と共に作品に夢中になる彼はそのまま朝を迎えのであった。


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