断固拒否!

□世界は動き出していた
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バグォオンッ


「っ!?」


次の朝、家をも揺らすほどの轟音で目が覚めた。文字通り飛び起きて何事かと辺りを見回したが、自分の部屋の中には何も異常がない。あるとしたらサイドテーブルに乗っていたぬいぐるみが、おそらく振動で落ちてしまっていたくらいだ。ともすれば他の部屋な訳だが…これほどの騒音をたてられるものが、この家に存在しただろうか。いや、部屋が揺れたから地震なのかもしれないが、だからといって地鳴りにしては大きな音すぎる。
それにまだドガッだとか、バゴッという音がするしその度に床が揺れる気がするので、やはりこの家の中で何かが起こっている。


「え、こわ……」


強盗にしては派手すぎるし、よほどひどい癇癪でも起こしているのか。部屋の外の様子を伺うのは正直怖いが、ここにいて何が起きているのか全くわからない状態もまた恐ろしいので、ひとまず様子を伺いに行くことにした。
ガチャリと、いつもなら無遠慮に露伴に開けられるドアを自分で開けて、そこからそっと廊下を覗く。露伴の仕事部屋の扉が開いていて、何やらホコリが舞っている。
話し声もかすかに聞こえるので、そこに誰かしらいるのは間違いないのだが、ではなぜ物が破壊されていくような音が聞こえるのか。癇癪でここまでする人ではなさそうなので、どっかの誰かさんが他の誰かさんをたいそう怒らせたとしか思えない。


「(嫌だけど、一応生存確認とかなんか、した方がいいよね…?) あのー…せ、せんせーぇ…?」


恐る恐る近付き、そして同じく恐る恐る部屋を覗き込む。杏子は飛び込んできた目の前の光景に絶句した。ぐちゃぐちゃになってしまっている仕事部屋に、見覚えのある、大きな男の子と小さな男の子、暴れるリーゼント頭の男の子の3人がそこにはいた。そして、その姿を杏子が捉えたと同時にどっかの誰かさん、いわゆる露伴が怒らせた相手、リーゼント頭の男の子が勢いよく振り向き、こちらを捉えた。


「そこかぁ!漫画家ッ!コラアッ!!」
「…っ、えっ…えっ!?」
「ちょ、ちょっと待って!!」


いや、捉えていない。正確には。露伴が怒らせた相手は頭に血が上って杏子の姿を捉えていない。物音がしたからそちらを振り返ったらなんか知り合い以外の人影が見えたから、それを露伴と判断しただけだ。激怒している相手は、その辺に転がっていた瓦礫を掴み上げたかと思えば、振りかぶって…。


「待って仗助くん!!!」
「ひっ…(そんな、嘘でしょ…!)」


小さな男の子、もとい広瀬康一の止める声も虚しく、頭に血の登ったリーゼント頭、東方仗助によって投擲された瓦礫は杏子の頭に見事ヒットしたのであった。


「(まだこれ、数話しか経ってないんじゃないの…)」


目の前がちかちかして、視界がぐらつく。ぐわんぐわんと頭の揺れる感覚を覚え、意識が遠のくのを感じながらも、見ていたアニメのワンシーンが思い出される。記憶があいまいなために確かではないが、まだ序盤じゃないか…。終わっているどころか、始まったばかり。まさか原作に関わることになろうとは…そんな絶望感に苛まれながらも、脳の揺さぶられる感覚に意識は保てず杏子の体は傾いてき、バタンッと音を立てて倒れた。
康一が悲鳴にも似た叫び声をあげ、そこでようやく仗助がハッと我にかえる。倒れたのが露伴でなく、そもそも男ですらないことに気付いた。ヤバいと慌てて倒れた杏子に駆け寄り、康一も慌ててそれに続く。


「そこまで見えていなかったとは…!ふ、ふふふ、いいぞ、初めての経験だ…!」
「おめーはいい加減にしろよな!!」


そんな中瓦礫の下敷きにされた露伴はボロボロになりながらも仗助の動向をメモしていたのだが、それを聞いた億泰に殴られてあっけなく気を失った。


「ま、まずいよ仗助くん!いくら頭に血が上ってたからって、間違えて女の人傷付けるなんてさぁ〜」
「そ、それは悪かったと思うけどよ…ほ、ほら、あれ…ちゃんと治すし、さ……」


あわあわときょどる康一の言葉に、表情を焦りにひくつかせながら仗助は、気を失った杏子の怪我の様子を見ようと覗き込む。瓦礫が当たったのは額。パックリと切れて血も流れ出ていた。それをみた康一と億泰はさすがにこれは…と仗助に責めるような視線を送るが、仗助はこの傷を跡も残さずきれいさっぱり治すことができる。早くしろよ、と急かしたところで、仗助は《クレイジー・ダイヤモンド》を発現させ、杏子の額にその手を当てた。


「よっし…これでだい……」


大丈夫、と続くはずだった言葉は、そこで途切れた。


「ど、どういうことだ、こりゃあ!?」
「なっ、なんで…!?」
「治せてねぇ…だと…!?」


3人に衝撃が走る。
杏子の額の傷は塞がっていなかった。パックリと切れたまま、血を流し続けている。
仗助のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドは死人以外であればどのような怪我でも治せる。だというのに、治っていなかった。
慌てて杏子の脈をはかる仗助たちだが、とくんとくんと、血管が脈打っていること、口元に手を当ててみれば浅くとも呼吸をしていることがわかる。つまり、彼女は死んでいないのだ。
それならばなぜ、どうして傷が治せないのだろう。たとえ露伴にスタンド攻撃を受けて"他のスタンドによる影響を受けない"などと命令を書き込まれていたしても、先ほど億泰や康一に切り離されたページが戻っていったことから推測するに、奴のスタンド能力の影響はすでに消えているはずなのだ。彼らが考え、慌てている間に杏子の額からは血が溢れ、彼女の顔色もどんどん悪くなっていくように思える。
ひとまず彼女の怪我がどうして治らないのかを考えるのは置いといて、3人は知識を振り絞って額の傷の止血作業に勤しみ、露伴宅の電話を勝手に拝借して、電話をかけた。あの人なら何かわかるかもしれない、と…。



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