断固拒否!

□空条承太郎
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「っ…!」


ハッと、目が覚める。恐ろしい夢、闇から解放されたその目の前には、真っ白な空間が現れ、眩しさに思わず目を細める。頭が、痛い。
自分が眠っていて、目が覚めたのだとその時やっと理解して、ほぅっと安堵のため息をつく。ゆるゆると起き上がると清潔感のある真っ白なベッドに寝かされていたことがわかった。ふと腕に違和感を感じて、その方向に視線をやると、腕には管が刺さっている。その先を辿ればゆっくりと雫が落ちていく…そこには点滴があった。


「……(あぁ、そうか…)」


露伴邸であったことを思い出す。一瞬の出来事であったが、そこには確かに鬼のような形相の……。
思い出して、ぶるりと体が震えた。正直怖かった。それが自分に対しての怒りでなかったにせよ、確かに一瞬、その矛先が自分へと向いたのだ。
そっと、痛む箇所に触れてみる。そこには包帯があって、少しカサついた指が繊維に引っかかった。露伴の共犯者、とでも彼らの目にはうつったのだろうか。わからないが、傷が治っていない、ということはきっと、たぶん、そうなのだろう。なんだか少し落ち込む。

遅かれ早かれ彼らには会うだろうと思っていたが、まさかこんなにも早いとは。しかも原作の真っ只中ときた。もう吉良とかなんとかしていると思っていたのに、その事件にすらまだたどり着いていなかったとは…。いや、むしろ何故すでに事件が解決していると思っていたのか。我ながら能天気が過ぎる。
これには思わず大きなため息がこぼれた。



コンコン



杏子がため息をついたとほぼ同時、病室の扉をノックする音が聞こえた。この世界に知り合いなどいるはずのない杏子は、不思議に思って首をかしげる。そうして返事をしなかったせいか、まだ眠っていると思われたのだろう。ガラリと扉は開かれ、扉を見つめていた杏子はその先にいた人物とばっちり目があった。



「あっ…」
「ん?」


2人の声が無意味に揃う。目を丸くして黙り込んでしまう杏子とは対照的に、扉を開けて廊下に佇む男は表情を変えず「目が覚めたようだな」と声をかけた。
低い声が鼓膜をゆるりと震わせ、凛とした雰囲気をその場に作り出す。


「…(わっ、うわ…っ、承太郎さんだ…!)」


作り出す、のだが、この男、空条承太郎の登場に割とテンションの上がった杏子の脳内は感動の一言でいっぱいだった。言うなればいっそ涙でさえ出てきそうなほどである。


「突然、知らない男がやってきて驚いただろうが、少し聞きたいことがあってな」


構わないかと尋ねられ、はい!と答える代わりにピンと背筋を伸ばして姿勢を正す。それを了承と受け取ったらしい承太郎は一つ頷いた。そしてすぐに彼は後ろを振り返り、何やら声をかけている。看護師だろうか、話し終えると扉を閉め、承太郎は杏子の方へ歩み寄る。
近くで見るとより迫力を感じる大きな体躯と凛々しく端整な顔立ちに、感動を覚えつつも緊張感がより心をしめるようになってくる。緊張にきゅっと口を引き結んだ。


「俺の名は空条承太郎。君の名前は?」
「えと、飛世杏子です」
「ふむ、では飛世さんでかまわないかな?まずは俺の…親戚が君に怪我をさせてしまったことを謝ろう。すまなかった」
「えっ、いや、そんな…」


頭を下げられ、思ってもみない相手の行動に杏子は焦る。ついでに苗字にさん付けで呼ばれたあたりも新鮮で一瞬呆然とした。慌てて頭をあげてくださいときょどりながら伝えると、頭をあげた承太郎の双眼と再び目が合い、またドギマギしてしまう。均整のとれた顔と近くで、向き合っているのは心臓に悪い。
勝手にやたらと緊張して気まずそうに視線を落としてから、落ち着かない様子で布団のシワをなぞったり伸ばしたりしながらなんとか言葉を紡ぎ出す。


「あの、私も、飛び出し…えーっと、何が起きてるのかも、わからずに、覗き込んだりだとか、声かけたりしたの、まずかった、のかな…と思うので」
「…いや、君は何も悪くない。仗助…俺の親戚と、君のいたあの家の家主である岸辺露伴による、これは言ったら怒られるだろうが、本当にくだらないことのための喧嘩に、君は巻き込まれたに過ぎないからな」
「はぁ……(圧倒的に悪いの露伴先生だろうけど…)」


言ってはみたものの、承太郎の言い分には納得せざるを得ない。物語をいくら知っていたとは言ってもその真っ只中だなんて誰が思おうか。これからどうなるのだろう。よくある展開はここから物語にどんどん巻き込まれていくわけだが、いかんせん自分はスタンド使いではない。あの≪スタンド使いは引かれ合う≫みたいなジンクスは自分には適用されないのだから、キャラに出会うのもこれで最後か。


「…(それはそれで残念だな…)」
「そう深く考えることはない。あんたは被害者だ、間違いなくな」
「はい」


承太郎のその言葉に今度は素直に頷くと、彼もうんと声に出さず頷き、近くにあった木の丸椅子にストンと腰を下ろした。たったのそれだけでこの男の大きな体から見下ろされていた威圧感がほんの少し和らいだように思えて肩の力がちょっとだけ抜けた。


「本題に入るが、君は起きたばかりなので話を長引かせてしまうのも悪いからな。率直に聞こう」


思わずゴクリと喉が鳴る。されたことはないが、警察官にされる尋問だとか、事情聴取をされている気分になった。何を聞かれるか、なんとなく予想はできるが、あくまでも予想であって、ドギマギしてしまう。じっとこちらを見つめる目を、杏子もじっと見つめ返した。


「君は、なぜ岸辺露伴の家にいたのかわかるか?」
「…それ、は、すみません。わかりません。気付いたら、露伴先生のお家にいました…」
「…ふむ、なるほど。やはり俺は君は被害者と見るが…その点に関しては岸辺露伴とも話の照合をはかりたいと思っている。君さえ良ければなんだが、夕方頃俺の親戚とその友人がこの病院へ来る。その時に岸辺露伴も含めた全員で話をしたいんだが、構わないだろうか」
「それは、構いませんけど…」
「あまり会いたくないだろうことは重々承知の上だが、協力してもらえるとありがたい」
「それはもちろん、私も何が何だかわからないことはありますし、それがなんか、こう、解決?できるなら…」


わかった、と承太郎は頷く。杏子はあぁは言ったものの、解決はしないだろうな、と思っていた。露伴宅に突如現れたのは露伴の能力によるものではないし、そもそも自分はなんの力もない一般人なのである。ただ彼らの今現在の境遇として、スタンド使いについては警戒しなければならない立場だから、その協力のため、無駄に手間をかけさせては申し訳ないからだ。あとついでにキャラに会えるのが楽しみという単純明快な下心も、ほんの少しあった。


「では、また夕方頃ここへ呼びに来る。君は昨日から今まで眠っていたので、体力的に少し辛いだろうから何か食べておくか、ゆっくり休んでいるといい。では、またあとで」
「はい、またあとで」


そう言って立ち去る承太郎に一礼して見送る。承太郎が出て行ったあと、交代するように入ってきたナースさんに具合はどうか聞かれたり、頭の包帯を取り替えてもらったりしつつして過ごした。
そのあと軽い食事をとったりもしながら、杏子は初入院で、ゆっくりとすぎて行く時間をのんびり過ごしていた。これから会う、漫画のキャラクターたちのことを思い浮かべて、ほんの少しわくわくした気持ちを持ちながら。



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