断固拒否!

□衝撃の
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正直暇すぎるといっても過言ではない病院のベッド上生活から早4時間ほど。まぁ軽食をとってから医師に頭の怪我についての話があったのだが、それも軽い脳震盪だから心配いらないみたいなことを言われるだけで終わり、様子見に一晩だけ入院しましょうとだけ言われた。それだってたいした時間を要したわけではないので、病室に戻ってからはやることもなく暇そのもの。
ベッドの上でただひたすらゴロゴロして、うとうとしている間に時間になり、約束通り承太郎が迎えにきた。

ノックの後に声をかけられ、うとうとしていた矢先のことだったので、慌てて飛び起きた。行こう、と声をかけてきた承太郎に返事をしながら頷いて、歩き出す彼の後ろをついて行く。用意されていた病院のスリッパがパタパタと音を立てる。
これから他のキャラクター達にも会うのかと思うと、緊張してしまう。もっとちゃんと心の準備をしておけばよかったと今更後悔した。今でさえ承太郎の後ろを歩くだけでもど緊張していて、心臓が飛び出そうなほどなのに。あの時は驚くばかりで緊張どころではなかったのだが、特に好きなキャラクターが目の前に現れたら、いったいどうなってしまうのだろう…。


「(私どこか変じゃないかな…あー鏡見てくれば…っていうかなんで化粧してないときに会わなきゃいけないんだろう…!)」


そうして考え始めてしまえばあれもこれも、と次々自分の見直したいところが現れてくる。準備不足甚だしい。猛烈に病室に帰りたくなってきた。今からやっぱり無理ですとか、やはり無理か、無理だよね、行くしかないよね、と考えつつも足取りが重くなる。


「…おそらく先に俺の親戚とその友人も岸辺露伴の元を訪れているだろう。この先の角を曲がってすぐの扉が、岸辺露伴の病室だ」


帰りたい、そんな思いも虚しく。承太郎と杏子は露伴の病室のすぐそばまでやって来ていた。指定した通り、承太郎が廊下角を曲がるので、杏子もそれに続く。気の重さにつられて落ちていた視線を、あぁ来てしまった…とげんなりしながらもあげたその時、目の前に承太郎以外の人影を発見した。


「「あっ…」」


2人の声が重なる。誰のかと言えば1人は杏子のものだ。もう1人は、承太郎のその先にいた人影、その3人のうちの1人…東方仗助のものだった。遅れて他2人が同じようにあっと声を重ねる。
5人は露伴の病室前で鉢合わせた。先に行っているだろうと聞いていた矢先のことで、目をパチクリさせる。それは相手方も同じようで、まさかばったり会うなどと思っていなかったであろう3人改め、東方仗助、広瀬康一、虹村億泰も目を瞬かせた。空条承太郎だけがこの場で唯一、特段驚いた様子もなく今来たところか、と声をかけていた。
それにはいと答えたのは康一。億泰もそれに続いてウスと軽く挨拶をしたのだが、仗助だけがじっと杏子を見て、なぜだか小さく震えていた。


「どうした仗助、病室に…」
「すんませんっした…!!!」
「!!?」


わなわな震えていた仗助は、承太郎の声を遮って、あろうことか、露伴の病室前で盛大に土下座をかまし、大声で謝罪の言葉を述べた。もちろん、謝罪対象は杏子である。あまりに突然のことで言葉が出てこなかった杏子だが、なんだ何事だと周囲の看護師や入院患者やら見舞いに来たらしい人が足を止め、こちに注目し始めたために焦りはじめる。とにかくこれは恥ずかしい!やめさせなきゃ!と思い立ったまでは良かったが、仗助は彼女にその言葉を発せさせるよりも前に、言葉を続けた。


「俺、ホンットに頭に血が上ってて周り見えてなかったせいで、あんたに思いっきり瓦礫投げつけて怪我させて、すみませんっ…!下手したら痕が残るかもしれないって聞いて、本当にすみません!!何かあったら、俺…!!」
「やっ、え、えぇー…あの、大丈夫で…」


一息いれるタイミングでなんとか制止の言葉を紡ぎ出せた杏子。どっかの誰かさんには女としてどうなんだとか言われそうだが痕が残ったって気にしない。いや目立つならするだろうが、生え際のところに1センチにも満たないような傷らしいのだ。頭だからちょっと大げさに血が出ただけで…。


「いやダメっす!あんたが良くても俺の気がおさまんないんで!ちゃんと落とし前つけねぇと…!だから俺…!」
「いい加減にしねぇか、病院だぞ!」


静止の言葉も虚しく、ガバッと顔を上げて、それこそ杏子よりもいっそ泣きそうな表情で、懇願するように言われてうっと押し黙ってしまう。だからと言ってこれ以上注目されるのも、あと忘れていたが露伴の病室の前なので病室に入ったあとネチネチ言われそうなのも心配だ。そんなことを考えながらあわあわしていた矢先に、承太郎が一喝する。ハッとして承太郎を見ると、周りの様子に気付いた仗助がすんませんと小さく謝りながら立ち上がる。さすがに周りの状況に周知を覚えたらしい仗助の頬はほんのり赤くなっていて、頭をかきながら会釈して、再度杏子にすみませんと申し訳なさそうに謝った。


「あ、いや…だいじょぶ、です…」


そんな表情を見てつい、目線を下の方へと逸らしてしまう。ばつが悪そうに、しかも顔赤くなっていて、それが可愛くて思えて仕方ない。思わずにやけそうになるので顔も見られまいとうつむかせてしまう。先ほどはばったり会って驚いたこともあり、気にならなかったが、ここにきて緊張までしてきた。間近で顔が見えた、声がする、とても心臓に悪い。


「……」
「……」


微妙な沈黙がその場を包む。やれやれと言いたげに帽子のつばを下げた承太郎の「病室へ入ろう」という鶴の一声でようやく杏子は顔を上げ、返事をしながらこくこくと頷いた。



病室の中へと入れば、そこにはやはりというか、当然だが露伴がいた。包帯だらけだが起き上がって雑誌を読んでいたようで、怪我自体は大したことないのかもしれない。ただ不機嫌そうにこちらを睨みつける表情はいつにも増して怖い。


「人の病室の前で騒ぎ立てないでくれないか」
「すみませ…」
「君じゃなくてそっちの東方仗助に言っているんだ」


語尾にバカが付きそうなくらいの言い方をされてイラっとしたがあ、はいとコミュ症よろしく返事をする。露伴が僕にも謝ってほしいくらいだね、とパタンと雑誌を閉じ、サイドテーブルに放りながら続けた。先ほどの盛大な謝罪のことを言っているのだろう。その声を上げているのが仗助で、謝罪対象が杏子であることが苛立ちを助長させたとしか思えない。自分のせいでないにしろうるさくしてしまったのは悪いと思う。比重は露伴より隣の病室や周りにいた人たちに対しての方が大きいが。
これには仗助も何も言い返せないようで、小さくちぇっ、と舌打ちが聞こえて、謝罪にしては誠意は足りていないだろうが「すんませんでした」と謝る。顔は見ていないが相当複雑な表情で言っているであろう声音だ。


「すまない、仗助には俺からも後で注意しておこう。それよりも話を進めたい。みんな、早く奥へ」


それに対して付け足された承太郎の詫びの言葉にふんと鼻を鳴らした露伴。そこにはそれなりに納得しているようだ。そして承太郎から指示が降れば高校生組は三者三様に返事をしてぞろぞろと露伴のベッドの方へと向かって行った。


「飛世さん、君はこちらに」
「あ、はい(あれ…?)」


3人が杏子の横を通り、奥へ行ったその後に、承太郎から声を掛けられる。杏子には丸椅子が用意されていたようで、そこに座るように促されたので返事をしてそちらに向かう。3人の後をほんの少しついて行くようになって、そして違和感に気付く。


「……(康一くんって、あれ…?私より背が高い…!?)」


前を歩く大きい2人に小さい1人…のはずなのだが、自分はその小さいはずの1人もほんの少し見上げて見ていないだろうか。ついつい凝視してしまうが、後ろを向く彼にはわからないだろう。


「(すごいデフォルメされてたんだな…)」


実は康一に身長勝てるんじゃないか、なんて思っていた時期があった。つい先ほどまでの話だ。
この差がより一層この世界を現実的にしていて、思わず目を覆いたくなった。椅子に座ると自分の位置がそのぶん低くなって、それでいて緊張するので縮こまってしまう。余計にちんまりしてしまう自分の不甲斐なさに頭を抱えそうになったが、ここでそんなことをしたら仗助がまた騒ぎ出しそうなので思いとどまる。


「さて、はじめよう」


承太郎が号令をかける。凛としたその声に、杏子はたまらずしゃきっと背筋を伸ばした。



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