企画

□turn out fruitless
1ページ/2ページ



2月14日、バレンタインデー。男子は女子からチョコを貰えないかと朝からソワソワしている。
俺、東方仗助は今朝からいろんな女の子からチョコを貰って億泰にぐちぐち言われたわけだが、正直このイベントは数の勝負なんかじゃあないだろう。好きな女の子から貰えなきゃなんの意味もねぇよな。

だというのに、これは一体どういうことだ。




「はよー、ナマエ〜」
「あ、おはよう仗助」
「なー、今日ってなんの日?」
「今日?え、私の誕生日?」
「はぁ!?そうだっけ?」
「いや、嘘だけど……あー、私日直だから先行くね。じゃ!」
「あっ、おい!」


授業の合間
「あっ、仗助。今日はよく会うね?」
「まだ朝と今しか会ってねぇけど」
「あれ、そうだっけ」
「そうだぜ、それでさ〜、朝言ったことだけどよ……」
「あ、私これから体育だから話なら後でね!」
「あっ、ちょ…!」


また別の授業の合間
「ナマエよぉー、今度こそ話…」
「これから教室移動だわ、ごめん!係だから急がないといけないの!」
「はぁ〜!?」


昼休み
「ミョウジさん?さぁ?教室にはいないけど…」
「まじか…どこ行ったか知らねぇ?」
「わからないわ。あっ、そうだ仗助くん、あの…これ、貰って?」
「あ、あぁ、サンキュ」



「……というわけでよぉ〜、あいつさ、俺のこと避けてるんじゃあねぇよなぁ〜」
「それは考えすぎ、なんじゃあないかな〜」
「タイミングがちょーっと悪かっただけだろー、ちくしょー!行くたびにチョコ貰ってきやがって、それで十分じゃあねぇかー!」
「そーじゃあねーんだよ億泰よぉ〜」


昼休みの屋上。康一と億泰に今日これまでの流れを軽く説明して頭を抱える。俺の好きな相手はナマエっていう少し離れたクラスの幼馴染だ。今年の夏休み明けにようやく付き合うことができたっていうのに、会いに行くとやたら用事があると言って走り去ってしまう。いつもはそんなことないのに。
あいつだって俺が言いたいことわかるはずだ。なのに…そんなに渡したくないってことかよ。ちこっと…いや、だいぶヘコむ。


「ま、まだ放課後会うチャンスあるじゃあないか、諦めるのは早いよ!仗助くん!」
「今までだって貰ってんだろ〜、今年用意してないわけないぜ〜」
「そうだけどよ…」


毎年貰ってはいたけど今年は特別だろ…!付き合ってるんだぜ、俺たち…!
結局また放課後、と康一に諭されて、昼飯を食べることになった。億泰は再三チョコが貰えねぇって嘆いてた。



放課後
「はぁ?もう帰った?」
「えぇ、ミョウジさん用事があるからって言ってさっさと帰って行ったわよ」
「え、あいつ日直って…」
「日直?それ私だけど……」
「………」


絶句だ。やっぱ避けられてんじゃね、これ。嘘までつかれてるとか、そうとしか思えない。俺何かしたか?最近、なにか…。
いや、何もしてないはずだ。思い当たる節がない、全くと言っていいほどない。だからこそわけがわからない。
…それなら直接本人に確かめに行こう、ここまできたら諦めてたまるか。


「ありがとな、俺も帰るわ」


教えてくれた女子生徒にお礼を言って、ナマエの教室から立ち去る。帰ったとわかっただけいいだろう。幼馴染なだけあってナマエの家は近所だ。


ナマエの家の前に立って、インターホンを押す。バタバタと階段を降りる音が外まで聞こえてきて、あっあいつだ、いつもそうだよなーなんて思う。
はーい、と間延びした返事とともにガチャリとドアが開かれて、やっぱりナマエが顔を出した。


「うわっ、仗助…!」
「おい待て、閉めんなっ!」


よぉ、と片手を上げて挨拶しようとしたらナマエは俺の顔を見るなりドアを閉めようとしてきた。しかもうわっ、てなんだよ。慌ててドアを掴んで閉められるのをふせぐ。


「今日は何なんだよ、俺なにかしたか!?」
「し、してない!むしろ、あの、ごめん…私が……」
「……まさか?」


力ではかなわないと判断したナマエが大人しくドアを閉めようとしていた力を弱め、ドアを開けてくれた。バツの悪そうな顔をして、語尾が小さくなって行くのに対し、俺が不安に煽られる。
まさかバレンタイン、用意してない、とか?
言おうか言わまいか迷って俯きがちにモゴモゴと口を動かしているのがかわ…いや、今はそうじゃねぇだろ。俺から話を促すこともできずに相手が話すのを待っていると、意を決したように俺を見上げたナマエの顔は少し赤らんでいた。


「あっ、あの…チョコね、家に忘れてたの!言えるわけないでしょ…そんな、恥ずかしいこと…!」
「えっ、じゃあ用意は…?」
「してあるに決まってるじゃない」
「何だよ〜焦ったぜぇ〜」


がっくりとその場で頭を垂れる。やっぱりきてよかった。そんなことで怒るわけでもないのに、本当に可愛いやつだ。


「そんなことで俺怒らねぇぜ?」
「そうだけど…だって、その、今まで今年じゃ意味合い違うし、由花子が仗助が先週から楽しみにしてたって聞いてたから申し訳なくて…それに意味合い違うからこそ学校いる間本当に上手にできたか不安になってきて…なのに仗助ったらやたらソワソワした顔して会いに来るんだもん…!」
「わ、わりぃ!それは、でも本当に楽しみだったしよ…」


話を聞いていたらこっちの方が悪い気がしてきた。いや、でも仕方なくね?これは男のサガってもんだろ、たぶん。
顔を赤くしたまま、また俯き始めたのがまた可愛らしくて、そんなに俺のこと考えてくれたんだと思うと胸がいっぱいになった。思わずナマエの頭を撫でる。


「ちょっと…!」
「いーじゃねぇかよー今日1日避けられたんだぜー?俺」
「うっ……」


撫でるのを止めようとして来るナマエをほんのちょびっとからかいながら止める。そうすると大人しく止めようとするのをやめるので思わず口元が緩んだ。


「それで?俺はナマエちゃんからバレンタイン貰えるのかなー?」
「ちゃ、ちゃんとあげるよ!先に帰ってきたのだって仗助の家に直接渡そうと思ったからなんだからねっ」


待ってて!と言うので頭を撫でるのをやめて、玄関で待つ。お預けを食らったぶん余計に楽しみで仕方がない。ナマエがチョコを取りにここへ戻って来るまでの時間がやたら長く感じられて、追いかけに行きたくなるのを必死に耐えた。
お待たせ、と戻ってきたナマエの手には可愛らしいラッピングがされた箱。俺の目線はそこに釘付けだ。やっと貰える…!


「仗助、手を出して、ちょっと屈んで」
「お、おう?」


言われた通り、ほんの少し屈んで、手を前に出す。渡すだけにこんな格好する必要あるのかと思っていたら、ナマエの顔が近づいて来て、頬にふにっとした感触…。


「…は!?」
「お返し!楽しみにしてるから!」


バタン!と今度こそドアが閉められた。ガチャリと音がしたからご丁寧に鍵まで閉めやがったらしい。


「グレート……」


キスをされた頬に右手を当てる。左手にはしっかりとチョコの入った箱。去り際の真っ赤なナマエの顔が焼き付いて離れない。

あぁ、これは、お返し相当頑張らねぇと。




⇒3月14日
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ