短編
□愛しの殺人女王
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"あの女"との出会いが、結末を変えたとは思わない。私は結局、こうなる運命だったのだろうと、何故だか今はそう思う。
あの出会いのあと、数日間は会社帰りをあの女の要求を飲んで一緒に過ごしてやった。幸運を招くというあの猫《スタンド》は、確かに有効に働いた。食事するたびにキラークイーンを一目見たいとアホなことを抜かしてきたが、結局他のスタンド使いに見られ、見つかる様なことはなかったのだ。
私といるあの女は常に笑顔でいた。私がキラークイーンを見せればその笑顔はよりいっそう輝いた。せめて幸いだったのはあの女の手が綺麗だったことだ。あの女が同じ会社の女でなければ、すぐにでも彼女にしてやっていたのに。そう思えるくらいには、綺麗だった。私の視線に気づいた女は、「等価交換です、どうぞ好きな様にしていいですよ」と言ったので触れるくらいはした。そう、ただ触れるだけ…。
結局ボタンを靴屋だからとたかをくくって、油断していたのだろう。そこで直して貰っていたのを、空条承太郎に発見され、川尻という男になりすまさざるを得なくなったため、あの女に会うこともできなくなった。
あの女の忠告通りにしておけば良かったと思った。そうすればあの緩やかな時間が……。
あぁ、なぜ今になって、あの女のことを思い出すのか。
東方仗助に追い詰められたその時、視界を、黒猫が横切った。一目でわかった。彼女のスタンドだ。
東方仗助たちの視界にも、それは映ったのだろう。何故と振り返る仗助の視線の先には、あぁ、彼女がいる。
「ごめんなさい…」
それは誰に向けた言葉だろう……。
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吉良吉影は死んだ。
私はもう彼、いや彼らには会えない。
最後の私のスタンド能力は、結局吉良さんに不幸を与えた。同時に私にも。
「話を聞かせてもらえるか」
吉良さんの死の直後、力の抜けた私の体を支えた承太郎さんは言った。私は頷くことしかできなかった。
結局私に対しての処遇は何もなかった。吉良さんのことを黙っていたとはいえ、殺しに加担していたわけでは無いとわかったからだ。最後の行動に対して、これだけは仗助くんたちに謝罪した。あわよくば吉良さんが助かればいいと思ったのは本当のことだから。
あぁ、さよなら、私の好きな方。
私の初恋。
そしてごめんなさい。
結局これは、あなたに向けた言葉だわ。
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