本編編
□冷血漢の恋
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どうして?
あの少女はここまでするのか?
私は愛しい人を止められなかった。
そして、救えなかった。
酷く傷つけてしまった。
その罪を背負い続けることこそが、私に課せられた罰。逃げること、死ぬことすら許されない。
この暗闇の中で永遠に時を止めたままで居ようと思っていた。
ある時、私の眠る棺桶を開ける不届き者が居た。どうやらルクレツィアの生んだ子供、セフィロスを追っていると聞き、私はより罪に苛まれることになった。
しかし、それはあの者たちの責任ではない。これこそは、私の責任。これは私が背負うべき運命だ。だから旅について行くことにした。
そんな私には、ここのパーティの連中も一線を引いて居た。当然だ。汚れた獣なのだから。戦闘時の獣の姿を見たら、誰だって当然のことだ。
なのに何故だろう。あの少女は?
私を見て最初の言葉は「暗い」だった。だが、その後は悪態をつきながらも、何故かこちらに気を遣ってくれるのだ。
「ちょっと!ねえ、アンタさお風呂くらい入ったら?
その間に服も埃だらけだし、洗濯しといてやるから。30年もあんな所で寝てるから…」
早口にまくし立ててユフィが言うからヴィンセントは驚いた。信じられなかった。
「私に構うな。」
「だって、仲間じゃん。暗い〜とは思ったけど、悪い人じゃなさそうだし。」
「いや、私は罪人だ。何よりこの身体には野獣が住んでいる。」
「え〜超カッコイイ!
うちの親父も変身は出来るけど、ダッサイし、他の人もセンスないんだよー。野獣のがカッコイイ!」
若い少女を私に関わらせてはいけない。そう思って怖がらせようと思ったがどうしてだか、私の予想外の反応をされてしまう。
この少女はまだ16才。世間を知らないだけなのだろう。これがジェネレーションギャップなのだろうか?
「バカなことを言うな。私の中に居るのは、恐ろしい野獣だ。ひとつ間違えば、お前を殺すかもしれない。」
「はーい、はい。オッサンてシツコイね。だからフラれるんだよー。いい歳してバッカじゃないの?それに、バケモノだって飼い慣らしてやるよ。ほら〜ジャーキーだよ。取ってこーい!って」
「馴れ馴れしくするな。
私には仲間意識などない。私はルクレツィアのために…やるべき事があるから、ついて来ただけだ」
「バカじゃないの?説得力ないよ。だったらとっくにやっときなさいよ!
30年間も逃げてただけじゃん。その間に動いてたら、何か変わっていたかもよ?
それなのに、今更!
結局アンタは誰かに背中押してほしかったんでしょう?」
ユフィは痛いところをズバッと突いてきた。こんな歳下の少女に私の本当の所を見透かされている?
いや、そんなハズはない。こんなにも年下の少女がわかるハズない。きっと思いつきで言ってるだけだ。
その夜、同じ部屋のクラウドにヴィンセントはユフィのことを尋ね。しかしクラウドにも扱い方は困っていたようだ。
「あの娘はなんなのだ?」
「あれは、ユフィだよ。正直俺もわからん。」
そして横からバレットが口を挟む。
「ありゃー躾のなってないガキだ。口も悪いしマリンの教育にも悪いな。親の顔が見て見たいぜー。」
翌日からの旅ではクラウドは戦闘能力からユフィ、ヴィンセントをよくパーティに組んだ。
ユフィはヴィンセントの予想以上に攻撃力は高く、遠隔攻撃でも、威力は落ちない。
どのような気色の悪い魔物が出てきてもけしてユフィは怯える様子もなかった。
そしてヴィンセント自身がリミットブレイクで野獣を解き放した時、クラウドやレッドさえ、冷や汗をかきゾッとするが、ユフィだけは違った。
戦闘後に度々野獣の姿から戻るのに時間がかかる時があるのだが、その時は先を急ぐ仲間のために仲間たちには先に街へ行ってもらった。しかし、ユフィはヴィンセントが元に戻るまで付き添った。
「おーい、大丈夫?早く治らないとアタシと二人っきりで野宿だよー。」
「私のことなら構うことない。先にみんなの所に行ってくれ。」
「そしたら、アンタ一人ぼっちじゃん。」
「いや、私は元来独りの身だ。
それに、ユフィが危険だ。」
「何が?」
「この獣の体を見ればわかるだろう?」
「えー、レッドと大差ないよ。むしろケットシーのデブモーグリの方が、意味不明じゃん」
「訳のわからないことばかり言わないでくれ。」
「えー、訳わかるよ。アンタが頭が悪いんだよ。」
「お前には言われたくない」
「ひっどいなあー。せっかく待ってあげてるのに、行っちゃうからね!」
「ああ。そうしてくれ。」
「ほんとに、本当に行っちゃうからな!」
「だから、行ってくれ」
「アンタ本当にバカだろ。
人の優しさもわからない冷血漢か?」
「れ、冷血漢?
ふ。まあそれもそうだな…。」
「いちいち悪口肯定しないでよ。面倒いオッサン。アンタ本当にバカだね。ちょっとは否定したら?
今のは傷ついたでしょ?」
「いや、別に」
「もう気が変わった!無茶苦茶ムカついたから、特別に嫌って言う程最後まで居てやるから。特別だから、感謝しろよ!」
「無茶苦茶ムカつくのなら、逆じゃないのか?」
どうして、この少女はこの様に、私に粘着するのだ?これも、罰なのだろうか?
バカだの冷血漢だの酷い言い様だ。そんな風に思っているのなら、何故こんなにも構うのか?さっぱり訳がわからない。
その数分後、ヴィンセントの身体は元に戻り、クラウドたちと町で合流した。
「遅かったじゃない!心配したわよ。」
村の入り口では、ティファが心配そうに2人を出迎えてくれた。そして宿の食堂で皆と合流した。
他のメンバー達は先に宿つき、夕食を取っていた。
「ユフィ大丈夫?お腹すいたでしょう?」
「ユフィさん、ここ座って下さい!」
レッドとケットシーがユフィを出迎える。
「ありがとう。でもごめんね。
アタシは疲れたから、いい。先に寝るね。ヴィンセントのことは後よろしくクラウド?」
「へっ?」
クラウドもいきなり言われてびっくりしていたが、その隙にもユフィは疲れた表情で部屋に戻っていった。
「あら、ユフィ大丈夫かしら。
後で、何か持っていってあげましょう。」
「ったく、手の掛かるメンバーばかりだぜ。」
エアリスはユフィの分の食事を確保する。そして、バレットはあきれ顔。
「…すまない。」
私はただ皆にユフィのことを心配させてしまった事、ユフィにも酷く疲れさせてしまったことを後悔した。
あれでいて、ユフィは16歳の少女だ。やはり、私と居て無理をしたのだろう。強がってはいたが……
いや、私と居たせいで、私のことなど嫌になったに違いない。それならば、むしろ良かったのだ彼女のためにも…。
翌朝、外から陽気な笑い声が聞こえて来た。ヴィンセントはその声に目が覚めた。
窓の外を見ると木陰の下にユフィが居た。ユフィとケットシーが何やら楽しそうに戯れていた。
「お嬢さん、占いましょうか?」
「うん。占って占って!」
「えーと、金運、恋愛運は絶好調だと出ています。そう、特に年上の紳士が吉。」
「コスタ・デル・ソルの時よりは、運気アップしてるかな?
所で、紳士ってどんな奴?」
「それは、まあ…
しっかりと会社勤めしてるサラリーマンとか、そういう感じすかねー。」
「会社勤め?ンな人周りに居ないよー。」
「いえ、気付いてないだけで、
きっともう近くにおります。その人がオススメです。」
「へー、素敵な人だといいなー♪」
「ですです!わいはユフィさんを応援してまっせ!」
16歳の少女は昨日とはうって変わった笑顔をしていた。こんな短期間で変わるものなのか?
ヴィンセントが朝食に顔を出すと
「おっはよーヴィンセント!」
少女は飛び切りの笑顔でヴィンセントを迎えた。
「おいでよー!一緒に食べようよ。」
強引にユフィはヴィンセントを引っ張り隣の席に座らせる。
「ヴィンセントはあまり食べないけどさ、ユフィちゃんがコーヒー淹れてやったから、飲めよ!」
ヴィンセントは呆気にとられていたが、みんなの手前素直にユフィからコーヒーを受け取る。
「ああ。ありがとう。それよりユフィは私のせいで疲れただろう?大丈夫か?」
「あれ?心配してくれるの?
嬉しいな♪
へへ、正直疲れたけどさ、もう大丈夫だよー♪」
少し離れた席では、エアリスが小声でティファと話し始める。
「ユフィってば、昨日の夜ヴィンセントの話ばかりしてたわよね。」
「そうね。ちょっと心配になるくらい。」
「あら、そうかしら。
私はユフィ可愛いし、お似合いだと思うの♪応援してあげたいな。」
「確かに、可愛い顔してるわね。あの押しの強さは悔しいけど負けるわ。」
「あら、ティファも負けてられないんだからね!」
「おー、朝から何話してんだ?ティファとエアリスでコイバナか?俺も混ぜまろよ。」
「ちょっとバレット!」
「コイバナって何?おいしいの?」
「あー、レッドさんにはちと早いんですかいのー。(っても、こう言う展開は、面白いですがね。ポチっとな。)」
そして、その日はロケット村に向かったが、また、ロケット村に着く途中でヴィンセントはリミットブレイクした姿から戻れなくなってしまった。
そのため、またユフィは着いていてくれたのだ。今回はヴィンセントはあまりユフィを拒まず、ユフィの優しさに甘えた。
「ユフィ悪いな。」
「気にすんなって!」
ユフィは笑顔で言い返した。
ユフィはガリアンビーストの姿のヴィンセントに対してもいつもと同じ口調だった。
「いい?ヴィンセント少し呼吸を落ち着けてみてよ!」
そう言いながら隣に座った。
「どうしたらいいのかな。こんなときは…」
ユフィはガリアンビーストのヴィンセントの唇にキスをしようとした。
ヴィンセントもそれに気づいて驚いた。ユフィの唇があと1ミリ…になったところで、ユフィが気づく。
「あ、直った!」
どうやら、ヴィンセントの身体は元に戻ろうとしていた。
「良かったー!」
ユフィが安堵したのもつかの間、ヴィンセントが怒りだす。
「ユフィ、今私になにをしようとしたのだ?」
「何って。チューだよぉ。
だって、よくあるじゃん。呪われたお姫様が王子様のキスでって…。」
「…。私は姫というのか?
ふぅー。そんな事試すな…。
お前はそう言う事はもっと大事にしろ…。」
「え?意味わかんない」
「ああ。もういいから、早く戻るぞ」
「あ、ヴィンセント待ってようー」
ロケット村に着くと、ティファとエアリスが出迎えてくれた。
「遅かったじゃない。心配したわよ!」
「ふふ、イチャコラしたのかなー?」
ティファは真面目に心配してくれたが、エアリスはからかってきたが、ヴィンセントはそんなんではないと否定するだけだった。