本編編
□パラレル小説
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私は愛する人を守れなかった。そして、肉体は改造され、魔物の住まう不老不死の身体となった。
これも愛する人を守り抜けなかったことの、罪と罰に違いない。ならば、私はこれからも永遠に終わらない、悪夢に苦しみ続けよう。
* *
あれから、どれくらいの時が経ったのだろうか?
私は光の届かない地下室で棺桶に入り込み、暗闇の中で長い間眠っていた。
そしてこの私、ヴィンセント・ヴァレンタインの棺桶は突如として開かれたのだ。
「あれ、先客いんのぉ・・・。ねえ、匿ってよ。」
突如、私の目の前に明るい光が射し込んだ。眩しい光の中にショートカットの少女が立っていた。
「隣なら空いてる?」
少女は独り言のように呟き、こちらの棺桶を閉めてから、隣の棺桶に潜りこんだのだ。
彼女が棺桶に潜んで、数秒。上の階から誰かが降りてくる音がした。そして、男たちの声が聞こえてきた。
ガタッ
私の棺桶を開けたのは、降りてきた男たち。イカツイ男たちだった。どうやら、先ほどの少女を狙っているようだったので、私はその男共に向けて、短銃クイックシルバーを発砲。もちろん急所は外してある。だが、男共は全員気絶して倒れ込んだ。
隣の棺桶がカタッと空いて、中に潜んでいた彼女は、緊迫した表情でこちらを見る。
「アンタ大丈夫?」
その少女は、大きな漆黒の瞳から涙を一筋こぼしていた。
「どうして泣いているんだ?」
「だって、アンタが殺されたんじゃないかと思って・・・。アンタが今死んでたら、アタシのせいじゃないか。」
よく見るとその少女はまだ幼い。彼女なりに私の身を案じてくれていたらしい。先ほど会ったばかりのこの私のことを・・・。
「私は大丈夫だ。それよりも、君は何故ここへ?」
私は、少女を怖がらせないよう、優しい口調を心掛けて話しをした。
すると少女は一部始終を話してくれた。
「私は、ユフィ。ユフィ・キサラギだよ。そいつらから、ギルとアイテムをぶんどった。それで追われた。いつもならチャチャッとやっつけてるんだけだね・・・。さすがに人数が多いから。」
ユフィと名乗った少女の表情は、先程とは一転して、口角が緩みはじめ緊張感の無いものになった。
私が聞いた話は、若い少女が盗みをはたらき、追われていた・・・。いつもなら・・・と、予想とは程遠い話だった。
「なぜ、君のような少女が盗みなど・・・。」
「だって、一人旅だからギルが底つきると不安で・・・。」
盗むなど到底理解は出来ないが、若い少女が一人旅をするなどということも、私には理解しがたい。
「よくわからないが、危険なことはやめなさい。ここも危険だから上まで送ろう。」
このような光の射さない場所は、このような少女が居ていい場所ではないから、早く連れ出してあげたかった。
私はユフィを連れて、もう二度と出ることはないと思って居た神羅屋敷の扉をくぐり門のところまで来た。
そして、彼女が門を出た所で私は再び暗闇の中へ戻ろうとした。するとユフィは私を呼び止めた。
「あの、助けてくれてありがとう。まだ名前聞いてなかったよね。アンタは?」
「私は・・・。ヴィンセント・ヴァレンタインだ。・・・もう二度と誰かに名乗ることも無いと思っていた・・・。」
「ねぇ、また戻るの?」
私が名乗るとユフィは尋ねて来た。
「闇で悪夢を見続けること、それは私の罪と罰なのだ。ここにはもう来てはいけない。」
他人から見ればあんな所で寝ている私のことなど、理解出来ないのは当然だろう。だが、こんな少女がこんな私を知る必要はない。いや、知ってはいけない。そして、二度と来るべきでないのだ。これでお別れだ。
そう思いユフィに背を向け、歩き出そうとすると、ふと私の手は掴まれた。
「・・・。ねぇ、アンタ暇なの?一緒に行こうよ。一人旅も飽きてきたしさ、アンタ強そうだし。」
・・・。理解不能。
この私に何を言っているのだ?この少女は?
「君は人の話を聞いているのか?」
「暗い話なんて聞きたくないね。そんな事より、一緒にマテリアハンターしよ。頼りになりそうだし」
この私が頼りになりそう?
私が何も言えないでいると、ユフィは私の手を掴んでいるユフィの手に力を入れ、私を強く引っ張る。それに引っ張られ私は再び神羅屋敷の門の外に出ることになった。
「行こ!」
「お、おい。」
私は拒否をしたのだが、ユフィは手を引くのをやめてくれなかった。
* *
結局、あのまま私は強引なユフィに引っ張られるがまま、着いて来てしまった。
あれから、彼女の後をついていくと、森をうろうろしながらモンスターを倒し、ギルやマテリアを強奪。そして、通りすがる山賊やらからアイテムやマテリアも強奪。
戦闘に於いては、身軽だからかなりの速さでモンスターを仕留めていた。その動きようは、華麗なものだった。
そして今夜は森の中で野宿となった・・・。
ずっと黙って着いて行っていたのだが、若い女性の割に行動の無計画さ、無防備さには黙っていられなくなった。
「若い女性が野宿はどうかと思うのだが・・・。」
「だってお金無いもん!」
「だが・・・。」
「じゃあ、アンタお金出してくれんの?」
「そ、それは・・・。」
「なら、仕方ないじゃん。危険だと思うなら、アンタが守ってよ。何のために連れて来たと思ってんの?」
「・・・。私は断ったはずだが・・・。」
「え、結局着いて来てるんだから説得力ないよ。」
「・・・。」
私が何を言っても、私はユフィに押し切られるままだった。
しかし、何故このような少女が泥棒同然のひとり旅をしているのだろうか。せめて理由だけでも聞ければ、面倒だが協力してやれないこともないかと思い、私はユフィに尋ねてみた。
「ユフィ、きみはなぜひとり旅を?」
「故郷を救いたいんだ。」
ユフィは先程までよりも、低いトーンの声だった。そして、その漆黒の瞳を真っ直ぐに私に向けていた。その表情からは、強い意志を感じたのだ。
「故郷とは?」
「ヘヘッ、それはヒミツ♪」
ユフィはまた、緊張感のない表情に戻りヒミツと言った。だが、ユフィのもつ大きな武器。これは珍しい武器だ。かつて何処かで見たことがある。
「ね、子守唄歌ってよ。」
私がユフィの持つ武器を眺め、思い出そうとしていると、ユフィは突然ワガママを言いだした。
「子守唄?」
「そ、お母さんが歌ってくれるようなやつ。」
「・・・。私は子守唄を知らないな・・・。」
「え?」
「私の母親は、私が物心つく前に死んでしまったから、母親のことすら知らないんだ。」
「うそ。・・・ごめん。」
「あ、いや謝らなくていい。」
「じゃあ、今日はアタシが歌ってあげる。」
ユフィは私の隣に座ると、子守唄というものを歌い始めた。けして上手くはないが、温もりを感じる歌い方だった。
そして、ユフィは立ち上がり、私の顔をユフィの胸に埋もれるようにして、私を抱きしめた。
ユフィに抱きしめられているととても温かくて、私は夢を見はじめたように、母親を思いだした。
「・・・。母さん。」
ユフィは私を抱きしめる腕に力を入れた。なぜだろう、とても温かくて落ち着くのだ。こんな私がこうしていることが、間違っていると解っていても・・・。
気づくと私は眠りにつき、ユフィの隣で朝を迎えた。
「おはよう。」
ユフィは、とびきりの笑顔で私に挨拶をしてくれた。なぜだろう、空は曇り空なのに、明るくて眩しくて。
「じゃ、行こうか。」
「ユフィ、せめて、野宿にならないよう、少しギルも稼ごう。」
「うん。」
ユフィは再び私の手を取り、私を引っ張り連れ出して行ってくれた。いけないことだが、完全に私は流されていた。
**
ユフィと行動を共にするようになり、数日。突如、ユフィはゴールドソーサーに行ってみたい。と言いはじめた。
それでギルを稼ぐため、モンスターを倒す数を増やしギルを稼いだ。手持ちを減らさないため、結局、夜は野宿だった。
そして、ユフィは夜毎私に子守唄を歌い、抱きしめてくれる。そうすると不思議とぐっすり眠れるのだ。
しかしユフィは女性だ。これでいいのだろうか?どうも危なっかしい。
それに、ここのところ野宿ばかりのはずだが、ユフィに抱かれていても、ユフィは汗臭くない。むしろいつもいい匂いがしている。この匂いも何故だか落ち着くのだ。
「ユフィ、その・・・。野宿ばかりで大丈夫か?そろそろ風呂に入らないといろいろマズくないか?」
「え?お風呂なら、あんた寝てる間にそこら辺の池とか川行ってるよ。」
「初耳だ。しかも、こっそり別行動とは。」
「じゃあ、ヴィンセントも一緒にお風呂行く?」
「いや、そういうことじゃ・・・。」
「ヴィンセントこそお風呂入ってないでしょ?タオルも石けんも貸してあげる。行こ。」
「い、行こう。っておい・・・。」
ユフィは一体どういうつもりなのか。ユフィはためらいも見せずに、この私の手を引き、私を一緒に連れて行こうとする。
一緒に風呂に行くという事は・・・
「アタシこっちで着替えるから、アンタはそっちね。」
泉の近くに来ると、それぞれの茂みで着替えをするという。結局一緒に風呂に入るというならば意味などないのでは・・・
「準備OK?」
ユフィは私が衣服を脱いで居た、茂みを覗く。よく見るとユフィは水着姿だった。
「み、水着?」
「うん。一応ね。モンスター出たら困るし。」
「そ、そうか。」
それでも、ユフィの水着は背伸びし過ぎて少しは過激だ。過激な黄色のビキニ姿だ。
太陽の照らす角度によっては、全裸に見えなくもないが・・・。
「あ、もしかして、全裸だと思った?」
悪戯な笑いを浮かべ、からかっているようだ。
「そのような事はない。」
とりあえず、否定はしたものの、私は目のやり場に困っている事は、自覚していた。目をそらしていると、ふとまた腕を掴まれ引っ張られた。
森の中の泉の傍らで、水着姿の女とタオルを腰に羽織っただけの男が二人きり・・・。
否応なしにも、余計な感情を思い出しそうで怖くなる。
それなのに私に対して、ユフィは手を差し伸べてくれる。それは、嫌なことではなかった。
そして結局、私は気持ちとは裏腹にユフィに手を引かれるままについていく。
泉に入ると冷たいが30年ぶりのことで気分も悪くならず、ゆっくりと肩まで浸かる。
ユフィは泉に入ると私から離れ、楽しそうに泳ぎ始めた。
「ヴィンセント、お風呂久しぶりでしょう?せっけん、土に還るタイプのだからエコなんだ。使っていいからね!」
「あ、ああ。」
ユフィに言われるがまま、私はユフィのせっけんを借りて身体を洗った。このような、当たり前のことからも私は遠ざかっていたのだ。
「どう?気持ちいいけどさ、やっぱりお風呂はあったかいのがいいよね」
「では、明日は宿へ行こうか」
「そうだね」