ヴィンセントとユフィの365日 本編編

□プロローグ 〜ファーストキスは突然に〜
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あれは忘れもしない12月20日のこと。
私の眠る神羅屋敷で事件は起こった。

そう、私は罪と罰のために棺桶で30年ほどの眠りに
ついていた。それが、突如開けられたのだ。

眩しい光が射してきた。光の中に1人の少女が立って
いた。神羅屋敷へ迷いこんで来たのだろうか?

「あ、先客いんのか。じゃ、こっちにしよー。」

そう言ってから、その少女は私の眠る棺桶の蓋を閉め、
すぐ隣の棺桶にその少女は入り込んだ。その後すぐに
上の階から降りてくる足音が聞こえた。

「ここか?」

再び、私の棺桶が開けられた。今度目の前に現れたのは、
イカツイ男達だった。しかし、男たちの目的の少女では
なかったことが分かると、男たちは隣の棺桶を開けよう
とした。私は咄嗟に銃を男達に放った。そして気絶をさ
せた。

「ちょっと?アンタ大丈夫?ってえ?アンタやったの?」

銃声に驚いた彼女が、隣の棺桶から飛び出て来た。

「大丈夫だ。急所は外してある。それにしても・・・。
君は一体?なぜ追われている?」

こんな若い少女を付け狙う男たちなど、ロクな奴らでは
ないだろう。おそらく、少女を人身売買とか如何わしい
ことを企んでる奴らに違いない。

「・・・へへっ。こいつらからマテリアとギル盗んだん
だ・・・。」

若い少女は、私の予想とはかけ離れたことを言った。
私の頭は真っ白になった。こんな若い少女が盗みをする
など・・・、一体何がそうさせているのか?よっぽどの
ことが、あるのだろうかと思った。

「盗みなどとは?・・・なぜ?」

「故郷のためだから。へへへ。助けてくれてありがとね。
アタシはユフィって言うの。名前聞かせてよ。」

もう名乗ることもないであろう名前を聞かれ、30年ぶり
に名乗った。

「私はヴィンセント・バレンタインだ。故郷のためとは?一体・・・」

「へー、カッコイイ名前だね!アンタも悪さして隠れて
たんじゃないの?」

「悪さ・・・。フッそうだな。私は取り返しのつかない
罪を犯したのだ。愛する女性、ルクレツィアを救えなか
った。だから、罰としてずっとここで眠りについている
のだ。」

この少女は故郷のためと言っていた。だから、盗みをし
ていたのも理由があるのだろう。だが・・・、私は・・・。

「ふーん。よくわかんないけど、その人を死なせたりし
たの?」

「そういうわけではないのだが・・・」

「ふーん。アンタってなんか暗いなあ。まあ、いいや。
ヴィンセント?この恩はいつか返すからね!」

ユフィは男たちが起きる前に、風のように立ち去って
行ってしまった。

恩を返すと言っていたが・・・、いや、もう二度と
来ないだろう。彼女にはふさわしい場所ではない。
もう二度と会うこともなかろう。


私は再び眠りについた。






あれから、数日後の12月24日。
再び上の階から降りてくる足音に気がついた。

「よっ。」

不意に私の棺桶は再び開けられた。

「ユフィ⁈」

目の前には、あの少女ユフィが立っていた。なぜ?
私は夢でも見ているのだろうか?

「今日はクリスマスイブだし、ボッチで寂しくしてると
思ったから、遊びに来ちゃったよ〜」

「ここは、遊びに来るような所では・・・」

「外ねえ、雪降って来たからホワイトクリスマスなんだ
ー。お金ないし野宿したら凍死だよ!だから、今日は泊
めてよー!ケーキとシャンパンならある♪」

お金がないから、タダで泊まりたいだけか?では、
お金はないのに何故ケーキやシャンパンがあるのだろう
か?
言っていることを理解するのに苦しむ。

「・・・・・。雨宿りなら勝手にしてかまわない。
止んだらすぐ出て行け。その間だけだ。」

やれやれと、私は棺桶での眠りに戻ろうとした。

「あーあ、棺桶の中に閉じ込もらないでよー。今日は
世の中のみんな恋人と過ごしてんだ。アタシもボッチ
でクリスマスは寂しいんだ。ね、ね、出ておいでよ。」

ユフィは強引に蓋を閉めるのを止め、私の腕を掴み、
私を引きずり起こそうとする。あまりの強引さに気が
ひけるが、仕方なく身体を起こす。

「随分と強引だな。全く君と言う人は・・・。」

「ねぇー、クリスマスプレゼントもあるよ!」

棺桶越しにユフィは突如、私に抱きついて来た。私は
突然のことに驚いて動けずにいた。頭が真っ白で何も
考えられず、時が止まる。

気がつくと、ふと私の唇に柔らかいものが当たった。
その瞬間、目の前にはユフィの顔があった。ユフィの
唇が私の唇に当てられたのだ。

「クリスマスプレゼントだよ。何もあげられるものない
から・・・」

ユフィは唇を離すと、腕を私の首に絡め、顔を赤らめて、
もじもじしながら言った。

「雰囲気、大事でしょう?」

まるで恋人のようだ。ユフィは恋人と過ごすクリスマス
が欲しいのか?

「ささ、カンパイしよ♪」

ユフィは私の話など聞かない。私が何故ここにいるのか、
どんな状況なのか。私の罪と罰など無視して、話を進め
てしまう。それは、私には困るということも・・・。

しかし、そういった私の話は一切聞かなかった。
仕方なく流され、棺桶から出てユフィの隣に座ると
ユフィはよろこんでくれた。シャンパンを紙コップに
入れ、乾杯すると、ケーキを切り分けてくれた。大人
しく貰って食べるととてつもなく甘い。甘いものは
苦手だが、従わないと面倒だ。
もしかしたら、これも神から与えられた罪と罰なのだろうか。

「フゥ〜あー。眠くなって来た」

気づくとユフィは眠りについた。私の棺桶で横になって・・・。
未成年だというのにアルコール入りの
シャンパンを飲んだのだから仕方あるまい。

外は雪みたいだ。今日は冷えるみたいだ。
既に私は罪を重ねている身だ。今更罪を増やした所で・・・。

私はマントを外してユフィにそっと掛けてあげた。
そして、私は棺桶に入り込んで、ユフィの隣で横になる。

先ほど私に口づけをした唇を見た。桜色のリップを
しているてとても艶っぽい。少女だと思っていた少女は、
少し背伸びをしているのかもしれないが、思っていた
より子供ではなく大人の女なのだろうか。

眠るユフィの身体が冷えないよう、私は震えながら
両手を伸ばし、ユフィを抱きしめた。彼女のことは
よく知らないが、一人旅をしてると言っていた。
甘えたい年頃でもあろう。

これは、私からのクリスマスプレゼントだ。
私は眠るユフィの唇を奪った。


いや、ずっと欲しかったんだ。
私もずっと欲しかったんだ。温かいぬくもりを。
ユフィを抱きしめてから、再び気づいてしまった。
抱きしめていると温かくて心地よいことを。
ずっとこんなささやかな幸せが欲しかったんだ。
ただ、それだけだったのだ・・・。

翌朝、起きるとユフィの姿はなかった。まるで、夢でも見ていたかのようだ。だが、マントを私に掛け直してくれていたのがわかる。

そして、飲みかけの紙コップだけが一つだけ残っていた。その紙コップを手に取り、残っていたシャンパンをほんの一口を口にした。

既に炭酸は抜け、ぬるい砂糖水になっていた。とても甘くて切なくなった。


その夜から、一層の孤独感、寂しさに苛まれていた。これも罪と罰なのだろうか。

目をつぶっていると、あの日のユフィとのことを思い出し
てしまうのだ。もう、二度と会えることなどないはずなの
に、私はユフィに逢いたいと思っていた。私にはそんな資
格もないといのに叶うことなどないはずなのに。これま
での罪と罰に加え、その寂しさを抱いて私は眠り続けた。

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