5D's

□真夜中のラブ・コール
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「遊星さ、今日何してた?」
「ずっと家にいた」

本当に何もないのか聞こうと思っていたのに、投げられた世間話にうっかり返してしまった。こうなっては、話は逸れていくばかりだろう。分かっていて、鬼柳は意図的に逸らしたのかもしれない。

「まーた機械いじって1日過ごしてたんだろ。この不健康男子め」
「いや、今日は」

ちら、と無意識に部屋のドアに視線をやった。

「親父が帰って来たんだ」
「親父さん、ってあの?科学者だっけ。そういうのにも夏休みあんの」
「多分」

実際、遊星には父親の仕事について詳しいことはよくわかっていなかった。モーメントという永久機関について研究しているらしいとか、そのチームのチーフらしいとか、そのせいで滅多に家に帰ってこないとか分かることはその程度だ。
そんな父親が帰ってきた。前回帰ってきたのはいつだったか、もしかしたら一ヶ月以上前かもしれない。やけにテンションが高くて、今日は家で一緒に過ごすぞ!とニコニコ笑いながら言われた。

「すげぇな、それ」
「特に用事もなかったから、別にいいんだが」

テンションが高いことを除けば、久々に会った父親と共にいることは苦ではない。
朝食も一緒に食べて、その後はだらだらと過ごしていた。父親の仕事場での笑い話を聞いたり、何故か母親との馴れ初めを聞かされたりしたが、主に喋っていたのは遊星だと思う。学校での出来事とか夏休みに何をしていたのかとか、そういうことを散々聞かれた。多分、普段一緒に過ごせない分の穴埋めのようなものなのだろう。これは昔からそうで、たまに帰宅した時の父は遊星の近状をあらかた聞いて仕事へと戻っていくのだ。

「喋りまくってる遊星ってなんか想像つかねーなぁ」

一日質問責めにあって大変だったと溜息をつくと、そんな言葉が返ってくる。

「親父の質問に答えていただけだ」
「ああ、なんかそっちのほうがお前っぽいかもな」

遊星が自分のことべらべら喋りだしたら、俺ぁまず救急車を呼ぶね、と鬼柳は笑う。
そこまでだろうか、と遊星は首を捻った。そこまで自分は喋らない奴だろうか。

「でもさ、久々の親子水入らずだったんだろ。よかったじゃん」
「まぁ」

結局、父親の質問責めに答えたり、デュエルをしようという提案に乗って卓上デュエルを適当にやってみたり、そんなふうにしていたら一日が終わっていた。
夕飯は宅配ピザを頼んで、テレビを見ながらゆっくり食べた。ちょうどその時にやっていたのが心霊番組で、そういう類の写真が紹介されるコーナーではまるで間違い探しのように幽霊らしきものを見つけてはしゃいでいる父がいた。投稿された写真がこれです、どこに写り込んでいるかお分かりでしょうか、ああ見てみて遊星ここだよここ、この右下になんかいる――
そんなことを繰り返すものだから遊星も一緒になって探すようになって、最終的にはどちらが早く見つけられるか、なんて趣旨が180℃変わったゲームになっていた。
そんなに長いコーナーではなかったものの、この番組を見ている中では一番の盛り上がりだった。見つける度に、うわぁとか、これはすごいねとか、父の大袈裟なリアクションがあったからかもしれない。この父親は、科学者のクセして超常現象をありのままに受け止めるのだ。本当に信じているのかは、遊星にはわからないけれど。
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