5D's

□真夜中のラブ・コール
3ページ/5ページ

そういえば、とふと思う。
あの番組は、夏休みスペシャルと銘打って夕食の時間帯に二時間くらい枠を取っていた。不動家で大いな盛り上がりを見せた心霊写真紹介コーナーの他にも、視聴者から投稿された話を再現VTRで流したり、スタジオで出演者が体験した不可思議な話をしていたり、最近にしては実に充実したラインナップの心霊番組だった。遊星は夕食を食べ終わった後は片付けをして、父親とデュエルに興じてしまったためにテレビは興味の対象からは見事にはずれ、最後までしっかりは見なかったものの、リビングにつけっぱなしのそれからは番組の最後までそういうものを流しつづけていたように思う。この手の番組によくある、ラストは感動の心霊体験談、とかでは終わらせていなかったような気がする。つまり、最後の最後まで怖そうな雰囲気で持ち切りだったのだ。
そして、この番組は地上波だから誰でも見られる。テレビをつけてちょっとチャンネルを回せばすぐに遭遇出来てしまうはずだ。

「鬼柳」

電話の向こうで、ここ最近起こった出来事を楽しそうに喋る鬼柳の話が一段落ついたところで、遊星は話題を変えるふうに名前を呼んだ。変えるというよりは、戻すつもりだったのだが。

「うん?」
「鬼柳は、今日」

携帯を持ち直す。

「見たのか」

あれを。
遊星の言葉には、主語が足らないことが多いらしい。らしいというのは、この場にはいない幼なじみ二人によく言われるから、なんとなくぼんやり自覚している程度だった。
だけど、今のは流石に唐突だった。なるほど、言われる意味がわかった気がする。
しかし鬼柳はいつもそんな遊星と普通に会話が出来ていて、何が、とか何の話だ、とか言われることは全くない。今だって、言ってすぐには反応が返ってこなかったが、しばらく待つと「うん」と小さな声で肯定の言葉が返ってきた。

「見た」
「そうか」
「見ちゃった」

やっぱり。

「大丈夫かなーって思ったんだよ。最近そういうの見てなかったし、久々に見たら意外にいけんじゃねって思って」
「最後まで見たのか」
「うんにゃ、途中でやめた」

それが賢明な判断だろう。
けれど、途中まで見てしまったのではどちらにしろあまり意味はなく、鬼柳にとっては見た時間よりも見たという事実のほうがよっぽど大きいのだから、五分だろうが十分だろうが、見たことに変わりはない。

「最近あんまりやってないから油断してたんだよなぁ〜。ああもう、なんで見ちゃったんだろうな〜!」

電話口から聞こえる後悔の叫びを聞きながら、遊星は必死に慰めるための言葉を探していた。
鬼柳は、数時間前に遊星が見ていたのと同じテレビ番組を見ていた。だけれど遊星と違って、家に一人でいることが多い鬼柳は今日もきっとそうだったのだろう。夕飯を食べながらテレビのチャンネルを回して、お気楽なバラエティ番組でも見ようと思っていたところに不幸にも「それ」が目に入ってしまって、不幸にも鬼柳の興味を引き付けてしまって、不幸にも鬼柳はその気持ちに負けてしまった。
ああいう番組は先が気になるように出来ている。ちょこっと見て、これこの先どうなるんだろうなんて思ったが最後ずるずると見続けてしまう。きっと鬼柳もそうだったに違いない。
テレビのリモコンを左手に持って、右手に持った箸もそのままに見入ってしまったのだ。唾を飲み込んで、時折せわしなく背後を確認しながらも、負けず嫌い精神が変に沸き上がった鬼柳は挑戦するつもりで苦手な心霊番組と向き合った。
そう、苦手な。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ