5D's

□真夜中のラブ・コール
1ページ/5ページ

そろそろ寝ようかと思ってなんとなしに携帯を見ると、メールの受信を知らせるランプがピカピカ光っていた。
遊星はあまり携帯をいじるほうではない。かなり長い間放置してしまっていたから、いつからメール受信を知らせていたのかわからない。
だけどもう夜中の1時も過ぎているし、内容によっては明日返信すればいいかなと考えながら携帯電話を開いた。

「……鬼柳?」

思わぬ送信者に、思わず声を上げてしまう。急いで内容を確認すれば、中身はまた予想外なことだった。

『今から電話大丈夫か?』

慌てて受信時間を確認する。表示されている時間は、今から約1時間前の、日付が変わって少し経ってからだ。
たかが1時間、されど1時間。
夏休みの最中とはいえ、起きているかは微妙な時間帯だ。メールが返って来ないと思ってもう寝てしまっているかもしれない。他に着信もメールも来ていないし、こちらに確認を取ってからということはさほど緊急の用事ではないのだろう、ということも推測される。
また明日の朝連絡して、必要であれば電話すればいい。
頭では冷静に考えてはいたが、遊星が取った行動といえばそんな冷静さとは掛け離れたものだった。
電話帳、鬼柳、発信。
寝ているかもしれないだろうとか、寝ていたら迷惑だろうとか、電話の発信音を聞きながらぐるぐるぐるぐる考える。だけれど、この時の遊星の中では寝ているところを起こすことよりも、連絡をとらないことのほうがとんでもなく鬼柳に負の感情を与えてしまう気がしてならなくなっていた。
3コールしたあたりで、発信音が途切れる。次いで聞こえたのは、割とはっきりとした発音の、もしもし、という言葉だった。

「鬼柳」

寝ていたわけではなさそうだ、とほっとしながら遊星は相手の名前を呼ぶ。

「すまない。メールに気が付かなかった」
「いや、いいよ別に。つか悪ィな、なんか、急に」

そんなこと、全然全然大丈夫だ。電話だからわからないのに、首を左右に振って同じことを繰り返す。全然、大丈夫だ。うん、全然大丈夫。

「言ってくれりゃあ、こっちから電話したのに」

メールで、という意味だろう。
いいやこちらが間をあけてしまったのだから、別にいいんだ。携帯の通話料金もまだ気にするほどじゃないしな。

「マジで?いいなぁ、俺先月携帯料金やばくってさー」

今月ももうヤベェの、とけたけたと笑いながら鬼柳が言う。学生にしてみれば深刻な問題なのにも関わらず、鬼柳は明るく、なんでもないふうな態度だった。
携帯料金に限らず、鬼柳という人間は自分の身にに起こった不幸な出来事を笑いながら流してしまうところがある。自業自得なことから不意な事故まで大小様々だが、こんなことがあってさ、と相談ではなく笑いながら言ってくる。
だから、鬼柳から深刻な相談を受けたことは一度もない。ないからこそ、今こうして鬼柳がいきなり用件も言わず電話をすることを要求してくることに違和感を覚えていた。鬼柳と話す前から、なんとなく、へんだなと思っていた。

「何かあったのか?」

聞いてみたが、歯切れの悪い返事しか寄越さない。
最終的には、

「なんとなく、遊星と話したくなっただけ」

となんとも嬉しい結論の言葉が……いや、今はそれどころじゃない。非常に嬉しいが、鬼柳が何かを思っての行動であることなんて明白なのだから浮かれている場合ではない、と緩む頬を無理矢理引き締めた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ