5D's

□クロウの苦悩
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鬼柳は、だらしのない奴だ。

「おい、入るぞ」

クロウが鬼柳の部屋に入った時、目についたのはぐちゃぐちゃに荒れ果てた室内だった。
呆れ返って見渡していると、部屋の真ん中あたりに積み上げられている衣服に目がいき、ぎょっとする。ちゃんと言うならば、衣服の上にでろんと置かれている白い下着を発見したのだった。下着の上の部分、つまりブラジャーと呼ばれるそれが、なんのカムフラージュもされずにでーんとその存在感をアピールしていて、これで見るなというほうが無理である。
ちょっとの間だけ凝視した後はっとして、慌てて視線を天井に上げた。咳ばらいを一つして、あんなところに置いてあるのがワリィんだと自分で自分に言い訳をする。
再びそちらを見ようとする無意識の自分を叱咤して、散乱している衣服を蹴るようにして部屋の隅に追いやった。重なり合った洋服の下から何が出てくるかもわからないから、ぎゅっと目をつむって行い、終わったらなるべきそちらを見ないようにと体ごと背けて、目標物へとずかずか歩く。
簡易ベッドの上には鬼柳が眠っているはずだったが、違和感を感じでおやと思った。なんだか、毛布の膨らみが足らない気がする。
意を決して、おそらく頭があるほうの毛布を半分めくって起こそうとした、が、予想に反してそこに出てきたのは枕だけだった。

「あ?」

状況が掴めずにぽかんとしていると、背後から物音がした。
僅かな音だったが、間違いない。出所は鬼柳の部屋に備え付けられているシャワールームからだ。
アパートの廃屋というなかなかいい物件に、鬼柳は住み着いているのだった。

「鬼柳?」

シャワーを使っている気配はないから、おそらく着替え中とかそんなとこだろうと勝手に当たりをつけて話かけた。
予想は当たっていたようで、ドアの向こうから名を呼ばれる。

「クロウか?」
「おう。まだ寝てんじゃねーかと思ってな」
「遊星は?」
「アジト」

そういえば、朝に鬼柳を起こしに行くのはいつも遊星の役割だった。今日はなんでかタイミング的に自分が行くことになってしまって、文句を垂れながらこっちに来たのだ。

――にしても、きったねーな。

人の世話とかはよく焼くクセして、自分のことはだらしないらしい。カードとデュエルディスクは綺麗に収納されているが、その他のものは悲惨だった。色々なものが転がり過ぎていて、何がゴミかわからない状態だ。
溜息をつきつつ見渡していると、ドアの開く音がする。鬼柳が、シャワールームから出てきたのだろう。
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