短編
□野良な日常
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※人間たちにはただの猫に見えていますが、扱いは獣人のそれです!
野良1匹目 六道 骸
午前、沢田家の屋根の上でフワフワの長いしっぽを揺らしながら、ボーっと雲を見上げる野良ネコが一匹。
栗色の癖毛にチョコ色の、光の当たり具合によっては琥珀色に見える瞳を持つ猫。その猫、名を綱吉という。他の猫からはツナと呼ばれている。
「お、あの雲!魚っぽい!」
と、一匹テンションを上げる綱吉。そして、鳴り響くお腹の音。ため息をこぼし、耳としっぽを力なく下げる。
「あーあ、お腹「空いたんですか?」
ビクッと耳としっぽ+を立てて、急いで振り返る。気配もなく後ろから言葉を被せてきたのは、黒なのに紫色のような毛並みと赤と青のオッドアイを持つ珍しい猫、骸だった。
「骸!!気配もなく後ろに立つなよ!」
「くふふっ・・・これは申し訳ない。では、お詫びにこれを差し上げましょう。」
そう整った顔で笑顔を作りながら渡してきたのは・・・
「・・・ビスケット?」
「クフフ。えぇ、そうですよ。」
魚の形のビスケットだった。しかも結構大きい。それを綱吉は目を輝かせながら見る。
「差し上げましょうって、いいの?これもらっても!」
目線はビスケットから離さず、そう聞く綱吉をクフッと笑って手を取る。
「いいんですよ。この間のイワシのお礼です。」
そうして取った手にビスケットを握らせる。
そう、綱吉は数日前に寿司屋のおっちゃんからイワシをたくさんもらったので、友達猫におすそ分けしたのだ。そして、骸もその内の一匹だった。
「おー!イワシがビスケットになって返ってきた〜!!」
嬉しすぎて思わずビスケットを天に掲げて喜ぶ綱吉を、微笑ましげに目を細めて見つめる骸。ひとしきり喜んだ後、満面の笑みでそんな骸を振り返る。骸がドキッとしたのは言うまでもない。
「ありがとう、骸!!大事に食べるよ!!」
そう言い終わったタイミングでお腹が鳴る。2匹とも一瞬固まるが、骸が吹き出した。そして恥ずかしくてワタワタする綱吉。
「こっ、これから!大事に食べるっ!!」
「クハハッ!!えぇ、フフフ、そうしてください。」
ムーっと口をとがらせて、そっぽを向く。赤くなった頬をリスのように膨らませて、両手でビスケットを食べる綱吉の姿は何とも愛らしい。
「・・・あなたは本当に可愛らしいですね。」
思わずボソリとそう口に出した骸の言葉を、綱吉は聞いてしまった。赤面しながら相手を振り返る。
自分の言ったことをいまいち把握していなかった骸は、少し遅れて赤面する。
「え。あ、いや・・・今のは、そのですね・・・」
「あぁー、うん・・・えぇっと・・・」
珍しく焦る骸につられて焦ってしまう。目を泳がせているうちに、自分の手が持っているものが目に入る。そしてそれを骸の方に勢いよくつき出す。
「ビッ、ビスケット!」
「はっはい、ビスケットですね!?」
つられて大きな声を出す骸。この2匹のやり取りを見ている者がいたらさぞ楽しい思いをしているのだろう・・・
綱吉は一つ深呼吸をして、自然と上目遣いになりながら恥ずかしそうに目をそらす。
「一緒に、食べよう・・・!!」
「・・・はい?」
相手の言ったことが唐突過ぎていまいち把握ができず、思わずキョトンとしてしまう。
「じ、自分の分もあるんだろ?別々に食べるのもなんか、変だしっ!!」
「まぁ、はい。。。」
確かに、と頷く。しばらくの間、沈黙が続いたが、2匹が顔を見合わせると、同時に吹き出した。
「あぁ〜あ。おっかしいの!」
「クフフ。えぇ、本当に。」
「骸のせいだよ〜!」
「はて、何のことでしょう?」
「えー!何それ!!なんかズルい!」
仲良く言い合いをしながら、2匹並んでビスケットを頬張る。
もぐもぐと食べながら、空を見上げる綱吉。そして、唐突に一つの雲を指さす。
「あ!あれ、パイナップルみたいだ!!」
それを聞いて空を見上げる骸。
「本当ですね。クフフ、何だか親近感がわきます」
キョトンと首をかしげて骸を見る。栗色の耳は片方下がっている。
「え、なんで?」
「ふむ・・・なんででしょう?」
首をかしげる骸を見て、更に首をかしげる綱吉。だが、2匹は同じタイミングで肩をすくめて、食べることを再開したのだった。
・・・今日も並盛町の野良ネコ達は平和です。