七色英雄伝説

□第一章
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第1話:「僕に名前教えるの嫌?」「えぇ、とても。」前編


千代姫は小学校の頃からネットゲームを始めた。最初はターゲティングのあまり本格的な操作がいらないものばかりだったが、中学に入ってからはノンターゲティングの本格アクションMMORPGをやっては、何だか物足りなくて、飽きてしまい、また次のを探す。。。そんなことを繰り返していた。

そして、彼女が中学3年になったある日。世界のゲーム界で革命が起きる。


――――・・・VRMMORPGの本格始動


千代姫は、

(これだぁあ!!)

と思い。休日に両親にフルダイブマシン、アミュスフィアを懇願。

「お願いします!これからも成績をぜっっっったいに落とさないからぁあ!!」

ゲームをやっても成績が落ちることがなかった彼女のその言葉は、前例があるだけに説得力がある。

「仕方ないわねぁ・・・これからも成績を落とさないこと!良いわね?」

「ありがとう、お母さん!!」

と頷いてくれた母、奈々に抱き付いて喜ぶ千代姫。だが、父、家光の条件は違った。難しい顔をして腕を組み、静かに告げる。

「お前が高等部昇格試験で、30位以内に入ったら買ってやる。」

「え・・・?」

「ちょっと、あなた・・・」

楽しい空気はどこへやら。その厳しい条件に奈々は思わず反論した。

「それはいくら何でも厳しいんじゃない?」

だが、家光はそれをため息混じりに跳ね除けた。

「これくらいでいいんだよ。姫、お前が学校で手ぇ抜いてること気付いてないとでも思ってんのか?」

厳しい視線を受けて千代姫は目をそらし、ばつの悪そうな顔をする。

(しらを切れば良いのかもしれないけど、さすがに無理だろうな。「成績が良かった頃」が実際、あったんだから・・・)

そんなことを思いながら、家光の話を聞いた。

「別に特別悪い訳でもないし、将来に支障が出ないくらいの成績だってのはわかってる。理由は・・・まぁ、察しはつくが今は良いだろう。」

チラッと奈々に目配せをして言葉を濁す家光。そして、困まり顏で頬に片手を添える奈々と俯く千代姫。

小学生の頃、成績優秀スポーツ万能だった為にちょっとトラブルがあったのだ。それ以来、娘が良い成績を取らないように、目立たないようにしてきたのを両親は知っていた。ネットゲームを始めたのもちょうどその頃だった。

その時、ちょうど家光の仕事の関係で引っ越さなければならなくなったのは、不幸中の幸いと言えるだろう。

小声で「ごめんなさい」と心からの謝罪をする千代姫。親としては複雑なことをしているのはわかっていた。(だけど、もうあんなことに巻き込まれるのは、ごめんだ。)

それを見て家光は困ったように笑ってから、くしゃっと娘の頭を少し乱暴に撫でる。

「謝ることはねぇよ!ただ、あの試験の順位は番号で張り出されるんだろ?良い点数取ったってバレねんだから、入試(?)くらい本気出してもいいんじゃねえの?なあ?」

そう言って見てくる家光に、苦笑して頷く奈々。

「そうよ、姫ちゃん。良い点取った後は、好きにして良いから!」

「ただ、落とし過ぎるなよ?」

そう笑顔で言ってくる両親に、千代姫は満面の笑みを向ける。

「わかった!私、頑張るね!!」

そんな娘に笑顔になる両親。そして、家光は娘の笑顔に嬉しくなってドア顔で言ってしまうのだ。

「更にだな!お前が15位以内に入ったら2万課金してやるぞ!!」

それを聞いてびっくりして開いた口が塞がらない奈々と内心ニヤリとする千代姫。だが、それを表には出さずにパアっと花が咲いたように笑う。

「本当に!?後でなしにしない?」

「しないぞ〜♪」

「じゃあ、録音するね!もう一回言って!!」

と笑顔で言いながらスマホの録音機能をオンにする。

『ピッ』

「ぅおっほんっ!俺、家光は。娘、千代姫が高等部昇格試験で15位以内に入ったら5万課金してあげることをここに宣言にます!」

「ちょっ、増えてるよっ!?良いの、そんなに?」

「うぁっはっは!大盤振る舞いだぁあ!!」

「パパかっこいいっ!!男前っ!!」

「こら!二人共!!」

調子に乗る二人を奈々は怒ったが、当の二人はただただ笑うだけだった。


――――→半年後


3月17日 日曜日 午前7時過ぎ

自分の順位と番号を写真に収めた千代姫は、帰路につかず全力でとある人物から逃げていた。

(人と会うのが嫌で早朝に行って、万が一の為に男装もして・・・!!まさか、こんなことになるなんてっ!!)

栗色の長髪をキャップとフードで隠して、顔をマスクで半分以上隠して、体系は大きめのパーカーと胸にはさらしを巻いてごまかし、足にはスニーカーを履き・・・結果的に結構怪しいけれど、自分だとバレなければそれでいいと思っていた彼女はあまり気にしなかった。別に暗い色でもないし・・・

視界の端に黒い影が映り、とっさにそれとは反対方向に曲が・・・ろうとするが、それはさっきの黒い影の正体により阻まれる。

横の塀から飛び降りたのであろうその学ランとトンファーが特徴的なその人物は、千代姫を見てニヤリと笑う。

「ワオ 君、足速いね。追いつくのに結構かかっちゃったよ。」

「・・・チッ」

本来なら、この整った顔立ちのつり目の少年に追いかけられていることを女子として喜ぶべきなのだろうが、状況が状況なのでそうも言っていられない。むしろイラついてしまうというのが千代姫の本音だ。

「君、そんなに僕に名前教えるの嫌なの?」

「えぇ、とても。なので、早々に諦めて頂けると嬉しいです。」

二人の間に険悪なムードが漂う。雲雀は目を細めて、威圧的に少女を見下ろす。無論、眠くて目が半分しか空いていないのと、わざと低く出している声を、さらにマスクのせいでくぐもっていて、女だとは気付いていないのだが。

「せっかく風紀委員にスカウトしているんだから、普通喜んで名前くらい名乗るものでしょ?」

「おっと、あの有名な風紀委員長の雲雀 恭弥殿はスカウトと脅迫の違いも知らないらしい。何とも嘆かわしいことですね。」

雲雀から少しづつ笑顔が消えていくにつれて、彼の周りには黒いオーラのようなものが見える。

「その減らず口、どうにかならないの?」

その殺気を漂わせながらいう言葉にわざとらしく肩を竦める茶髪フード。内心生唾を呑んでいることはもちろん秘密である。

「“減らず口”は減らないから“減らず口”なのですよ?」

そんなことも知らないんですか?と挑発的に鼻で笑ってみせると、殺気ダダ漏れで一言、

「咬み殺す」

そう低く呟かれたと同時にトンファーが千代姫の顔面目がけて飛んでくる。それを少しかがんで避けながら、雲雀が攻撃に使った手の手首を掴む。自身の体の小ささを生かして素早く相手の懐に入り、思い切り背負い投げをした千代姫。彼女はこれの為に相手を挑発し続けていたのだ。勢いよく突っ込んできたので、勢いよく投げ飛ばされる。

投げられるとは思っていなかったのか、そのまま投げられてしまった雲雀だったが、受け身を取りながら地面で一回転した後、相手の方に向き直りトンファーを構える。さっきよりも殺気がすごい。

「やってくれるね・・・っ!?」

殺気を出したは良いがそこにいるはずの相手がいない。

実は、千代姫は彼を投げ終わる瞬間に後ろにあった塀を乗り越えて身を隠したのだ。そして、その身を隠した家は自身の家。裏口から素早く入ったのだから、今更塀を乗り越えて敷地内に入ってきても誰もいないだろう。

「っっぶなかったぁ〜!でも、誘導成功!」

靴を脱ぎながら小声でもらす安堵の声。息を切らしながら自分の部屋へと上がりつつ、息苦しいさらしを解く。部屋に着くや否や急いで着替えた。万が一の為に、ここの家に「さっき雲雀と会った自分」がいないことの証明をしなければならない。

鏡を見て自分の姿を確認する。メガネ着用、髪はいつものようにサイドでまとめて、さっき着ていたのとは別の自分のサイズにあったパーカーに無地のスカート。靴下まで変えた。さらしを巻いていた自分を見た後だと、胸の主張がやたら強い気がする。

「・・・これ、縮まないかな?」

世界の女子の何割かを敵に回すようなことを呟いてから、今はそれどころではないと首をぶんぶんと振って、

「よし!」

意を決して大きく頷いた後、玄関まで降りて行く。台所を確認したが、奈々も家光もまだ起きていないようだ。深呼吸をしながら鍵を開けて、先程とは違うスニーカーを履いて外へ出ると・・・

「・・・ひっ!?」

「ぉっと・・・」

今まさにドアをノックしようとしていた雲雀の姿があった。


―――――――――→
つづく


・作者コメ

お気に召しましたでしょうか?(不安)
文字数結構限られてますねw
もっと短くしたかったのですが、この雲雀との出会いははずせませんでした!ごめんなさい!
ゲーム登場まで、今しばらくお待ちを!
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