中編
□吸血王子に狙われています
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―――☆ベル視点
「あぁぁああぁぁああああぁぁぁ・・・暇すぎるぜ、ジャッポーネ・・・」
今、ベルフェゴールがいるのは彼が借りている高級アパートの最上階部屋(この辺りでいっちゃん高いやつ)のリビングだ。ソファに身を投げてただボーっと過ごす日々。
外に散歩に出ても良いけど、今明るいし。俺、吸血鬼だから太陽光嫌いなんだよね。夜行性だし・・・時差ボケまじ治んね〜。
ん?焼け死なないのかって?吸血鬼が本当にそんなに弱かったらヴァンパイアハンターなんていらねえだろ?マジウケる。
それに俺、純血王子だし?そんなんで死なねぇよ?(解説おつ!)
そもそも、何故ベルがこんなところにいるかというと・・・
―――・一週間前
薄暗い廊下を歩いていると、左斜め後ろから殺気を感じた瞬間、ベルフェゴールは上体を後ろに下げる。すると鼻の先スレスレでナイフが通り抜け、近くの壁に刺さった。それを目だけで確認して笑う。
「ぁっぶねぇ〜♪」
「チッ」
余裕たっぷりの笑みを舌打ちした男に向かって投げかける。
「へっったくそだなぁ?ジル〜♪そんなんじゃ、オレに当たんないぜ?」
ベルの双子であるジルが物陰から音もなく姿を現す。口元は貼り付けたように笑ったまま動かない。
「シィシィシィッ♪あんなんただの挨拶じゃん?あわよくば当たって欲しかったけどな。」
「まあ、俺王子だし?」
肩を竦めてそう言うベル。他にもなんか言ってやりたいけど、今日は何だか機嫌が良いからやめておこう。こんなやつの為に酸素を使うのがもったいない。そんな彼が面白くないのか、少しだけ口角が下がる。はん、ザマァ。と思わず顔がニヤける。
「んで?俺に挨拶とかキモイんだけど。なんか用?ないなら消えろや。」
「・・・あ゛ぁ?」
二人をお互いの殺気が包み込む。こういう空気はベルの大好物だった。二人がほぼ同時にナイフを構えた瞬間―――
「はいは〜い。そこまででぇ〜す。」
気の抜けた声と共に俺とジルの間に現れたのはベルの側近、フランだった。
「邪魔すんな、くそガエル。」
「シィシィシィ、調子乗んなよ?」
純血の吸血鬼二人にすごまれても表情一つ変えないフラン。本当にコイツ面白くねえ。と心の中で舌打ちする。
「はいはい。ベル王子、お父上がお呼びですよ〜?ラジエル王子に伝言頼んでたはずなんですけど。。。」
フランはジルの方を気だるげに見る。
「なに?くそガエルちゃん、言いたいことあんの?」
「えぇ、伝言一つまともに伝えられないだなんて、使えねー王子だなと思ってぇ〜っておっとぉぉお〜」
フランが言い終わるか終わらないかの瞬間、ジルがフランに斬りかかるが、フランに当たる様子はない。そんな光景を鼻で笑ってから、父親のいる部屋へと足を運ぶ。
父親の部屋のドアを3回ノックする。
「親父?俺、ベルだけど。」
「あぁ、入れ。」
許可が出たので入り、後ろ手にドアを閉める。
「何の用?」
「ベルフェゴールよ。お前、日本に行け。」
「・・・は?」
この時の彼の顏はさぞ間抜け面だっただろう。唐突過ぎて話が見えなかったのだから、無理もないが。。。
「ちょっと待てよ。何で?」
「お前は世界を知らなさすぎる。たまには国外に足を運んで、こことの違いを学ぶべきだ。」
「え、いやd――」
真っ当から断ろうとしたが、ベルの反論は無残に不発に終わる。父親に遮られてしまった。
「お前のことは向こうには話してある。きっとお前にとって興味深い出会いになることだろう。」
「ちょっと待て。話してあるってどういう・・・?」
ベルの父親は珍しく少しだけ微笑んで、「お前のことをよろしく頼んでおいた。」「行けばわかる。」とだけしか言ってくれなかった。
―――・回想終了
お供もメイドもつけずに他国に追いやられるとは思っていなかったものの、生活費は腐るほどもらっていたので生活に支障が出る事はまずなさそうだった。
ベルはあの後、ジルはどうするのか聞いたが、ジルはジルで違う国に飛ばされるらしい。でもまあ、アイツの顏を見なくて済むのはうれしいことだ。と嬉しそうに鼻を鳴らす。
そして、ふと思い出したことがあった。そういえば、親父は「カフェ・サワダ」ってとこに行けって言ってたな・・・こっちついてから1ヶ月経ってるけど、まあいいか。今日晩にでも行こう。
そんなことを思っていたベルフェゴールだったが、彼はこの晩、もっと早く行かなかったことを後悔することとなる。そんなことを、この時の彼は知る由もなかった・・・
―――・午後八時
陽も完全に落ちたし、いざ外へ。これくらいの時間なら、まだカフェは開いているはず。そんなことを思いながら夜道を歩いていく。他のアパートの住人とすれ違った時にカフェ・サワダの場所は聞いておいたので、見つからないことはないだろう。
さて、何が俺を待ってるのかな?シシシッ♪ 楽しみだ。。。
そんなことを思いながら夜の闇に身を溶け込ませた。