中編

□吸血王子に狙われています
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−−−☆千代姫視点

・午後9時

「姫〜!4番テーブルのポテトサラダとオムライス完成したから持って行って!」

「はーい!」

木を基調とした優しい雰囲気のカフェの店内に、元気な声が響く。決して大きくはないこのお店。こぢんまりしていると言っても過言ではない。千代姫は、後ろで束ねた癖っ毛をなびかせてパタパタと忙しなく足音を鳴らしながら、母である奈々に言われた通りに料理を運ぶ。

父である家光が以前やっていた仕事を「家族との時間を過ごしたい」という理由で辞めて、はや数か月。もちろんそうしたのはこのお店ができて、しばらく経ってから。お店が上手くいかないと家庭が回らないから、という理由からである。

心配などしていなかったものの、想像以上に繁盛している。今では外にちょっとした列ができるほどの人気店だ。

家光がバリスタ、奈々がシェフ、千代姫がホールと言うのが基本になっている。キャッシャーは手が空いた家光か千代姫の担当だ。今では近所のビアンキという美女が厨房で奈々の手伝いをしてくれている。お店の定休日以外、ほぼ毎日の忙しい時間にシフトを入れてくれている優しいお姉さんだ。その他にも千代姫の同級生がアルバイトとしてお店を手伝いに来てくれる。本当にありがたい・・・

始めこそよく躓いたり、オーダーを間違えたりしていた千代姫だが、今ではいい感じにこなせる。たまにドジを踏むけれど。。。

常連からは、それも魅力の一つだと言われ、店内はいつも和やかな空気に包まれている。

ただ一つ、繁盛しているからこそ発生する問題が。。。

コーヒーを淹れている家光に、隣でチョコレートパフェを作っている千代姫が小声で話しかける。

「ねぇ、お父さん」

「何だ?」

目だけ一瞬こちらに向けて答える家光。それを確認して続ける。

「バイト、まだ入らないの?ビアンキさんや京子ちゃんとハルちゃん、獄寺君が入ってくれて助かってるけど、後の3人と私は学校が始まったら今みたいに頻繁に来れないよ?平日の昼のシフトは論外だし。こういうビアンキさんと私以外、誰も来れない日もあるし。。。」

ため息まじりにそう肩を落とす娘に、父が悩むように唸る。首をちょっと傾げてから家光は言う。

「ちゃんと話はつけたはずなんだよ。知り合いの息子が来るはずなんだ。お前より2つ年上のやつがな?」

唸りながらそう言う父に、娘はため息を重ねる。

「騙されたんじゃない?それかその息子がすっぽかしてるか。。。」

家光はムムッと眉をしかめる。

「あいつは人を騙せるような奴じゃないから、息子が。。。?イヤァ、でもお前のむk、k、ぅ、だしなあ。。。」

ブツブツと言う父親に片眉を上げる。最後の部分が聞き取れなかったし、なんだか重要なことのような気がする。

「私のなんて?」

「ん。あ、いや、なな何でもないぞぉ!?」

「ふーん・・・まあ、いいや。パフェできたし、また後でね。」

ものすごく怪しかったが、今はそれを気にする時ではないだろうと判断して、パフェとスプーンを乗せた後、慎重にお盆に乗せる。

「お、おう!落とすなよ?」

そう言って意地悪く笑う父に、

「べ〜っだ!」

と舌を出して返す娘。
そんな光景を微笑ましく店内の客が見ていたそんな時、ドアが開いたことを知らせる可愛らしい「チリンチリン♪」と言うベルの音が店内に響く。

「「いらっしゃいませ〜!!」」

それを合図にここで働いているみんなが一斉に元気の良い明るい声でお客様を出迎える。

千代姫はパフェを運んだ後、パタパタとお盆を持ったまま先ほど来たお客様の元へ笑顔で向かう。

「お待たせしました。いらっしゃいませ。1名様、でよろしいですか?」

少しだけ首を傾げて尋ねる。顔は笑顔を作っていたが、内心は引きつっていた。それもそのはず、このお一人様、店に入る前から「人外」の気配がダダ漏れであった。

この人、隠す気無いのかな?気配的には上級かそれ以上。。。んーむむむ。。。何も起きませんように!

長い前髪で顔が見えないその男はしばらく千代姫を見下ろしていたが、シシッと笑って首を振る。

「いや、俺客じゃ無いんだよね。親父に日本に来たらとりあえずここに行けって言われてさ。1ヶ月も経ってるけど。。。沢田家光ってやつ、ここにいる?」

しばらくキョトンと相手を見上げていた千代姫。

親父に言われて→ここに行け(カフェ・サワダ)→1ヶ月経ってる→家光(父)を探してる→→→新しいバイト!?

そんな式がものの数秒で成立した千代姫は、何か一言言ってやりたかったが堪える。だって、この人なんか怖いし。。。

「はい、沢田家光はここの店長です。今、彼は手が離せないので、少々お待ちください。あ、こちらへどうぞ!」

そう笑顔で言って、空いているボックス席へと案内する。案内している間、後頭部に感じる視線が痛い。

私何かやっちゃったかな?うぅぅ〜、怖いよぉ〜> <。

と、内心ビビるが顔には出さないように頑張る。席に着いて、手で場所を指しながら振り返る。

「こちらにおかけ下さい。お待ち頂いている間、お水、で。も。。。!?」

金髪の少年を見あげようとしたら、相手の顔が目の前にある。驚きで固まってしまった千代姫を余所に、少年は千代姫の首筋に顔を寄せる。。。

ーーーーーー

続く!
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