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□逆転生活2[一護]
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阿近さんから面白い物があると呼び出された恋次は、薄暗い十二番隊の研究室の前に居た。ドアをノックし中に入ると、これまた薄暗い部屋の奥に机に向かっている人物を見つけた。
「阿近さん。面白い物って何ですか?」
「…来たか、阿散井。」
ニヤニヤした顔をして俺の前にまた礼の綺麗な紙に包まれた飴を見せられた。
「…………。」
「何だよその顔は。さっさと受け取れ。」
俺がなかなか受け取らなかったのが気に食わなかった様で、阿近さんはその飴を俺に向かって放物線を描く様に軽く投げた。
「阿近さん。もうこれはいらないッスよ…。だいたい体が入れ替わるなんて全然いい事無いじゃないッスか。」
「そんな事言っていいのか?最近西園寺がいろんな男から誘われてるって、知ってるか?
…その顔だと知らねぇみてーだな。」
「何で阿近さんがそんな事知ってるんスか?」
俺は戸惑いを隠せなかった。
「あ?西園寺が話してるの聞いただけだ。」
聞いたって…俺と会ってもそんな事一言も言った事ないぞ?何だよ困った事があったら俺に一番に相談するって言ってたのによ…。俺の不機嫌な顔を見ると
「そこでだ…阿散井がまた西園寺と入れ替わってその男どもにビシっと言ってやりゃいいだろ?これで問題解決だ。」
「なるほど…けど菜桜は体が入れ替わるのはもう嫌だって言ってましたよ?嫌がってるのを無理やり飴食わせてキスするのは…」
するとニヤッと笑った阿近さんが俺に近づき
「俺だってバカじゃねぇさ…今回また品種改良して、飴食って変わりたい奴の名前を言えばすぐ代わる様にしたんだよ。
だから西園寺を眠らせてお前が飴食って西園寺の名前を言えば楽勝だろ?
そんでこれが眠り薬な。」
そう言うと眠り薬を俺に渡して来た。
「…準備、早いッスね…。」
「当たり前だろうが。俺を誰だと思ってるんだ?それから阿散井、後で実験結果の報告も忘れんなよ。
俺はこれからまた別件で仕事があるんだ…だからさっさと行って来い。」
自分の言いたい事だけ言うと俺を部屋から追い出した。
「…ったく…。ただこの飴試したいだけだろが…。
けど、もし本当に菜桜に近づく奴らがいたら気が気じゃねぇな…。いっちょやるか。」
俺は飴と薬を握り締め菜桜の所へ向かった。
六番隊に戻るとちょうど朽木隊長に会った。今から隊首会があると執務室を出て行った。これはチャンスだと俺は書類の手伝いをして欲しいと口実を作り菜桜を呼び出した。
『ねぇ恋次。書類ってどこにあるの?』
キョロキョロと部屋を見渡していた。
「それより、何か喉乾いたな…」
わざとらしく菜桜に聞こえる様に言ってみた。
『んじゃお茶にしようか?あっ、さっき配達行ったときお菓子貰ったんだ。恋次にもおすそ分けしてあげるね。』
「おぅ…」
菜桜はニコニコと給湯室に向かった。
『はい恋次。』
俺はお茶を貰うと一気に飲み干した。
『……恋次…熱く、ないの?』
ちょっと引き気味で恋次に尋ねると
「こ、こんくらい、何ともねぇぜ…それより、もう一杯、頼む。」
顔を真っ赤にした恋次が湯呑を差し出した。
『…うん、ちょっと待っててね。』
湯呑を渡すと菜桜が給湯室に向かった。俺はひりひりした舌を我慢しながら眠り薬を取りだし菜桜の湯呑に入れた。
戻って来た菜桜から湯呑を受け取り、お茶を飲むふりをしながら菜桜がお茶を飲むのを待った。
執務室には俺とぐっすり眠っている菜桜。ちゃんと寝ているか揺さぶってみても起きる気配がない。
「寝たか…。すげー罪悪感があるがこれも菜桜の為…だよな。」
俺は自分に言い聞かせ阿近さんから貰った飴を食べた。後は名前を言えばいいんだよな。
息を吸って名前を呼ぼうとしたその時
「おぅ恋次!!」
ノックも無しにいきなり誰かが執務室へ入って来た。
「い、一護!!………!!!やべっ!!」
俺は自分の口を押えたが……すでに遅かった。
目を開けると、そこには中身が入れ替わった俺が立っていた。
それを知らない一護は、自分の姿をした恋次に恐る恐る近づき
「?…お、俺!?……おい!!どうなってんだ?俺が何で二人もいんだよ!!」
急に一護が恋次に掴みかかってきた。恋次は盛大なため息を付き
[おい!!一護!!何でお前がここにいんだよ!!入るときノックしろって言ってるだろうが!!]
「はぁ〜?そんなのどうでもいいだろ!!
つうか、何で俺が二人…?何だ?俺…いつの間に髪伸びたんだ?…死覇装?……恋…次?
おい!!何で俺が恋次になってんだよ!!」
[おい!!一護!!まず俺の質問に答えろ!!]
「質問だ?その前にちゃんと説明しろよ!!」
[んだと?俺が先に質問してんだ。先に答えるのが筋ってもんだろが!!]
「あ?それより先に、テメーがこの状況を説明しよろ!!」
俺(一護)と一護(恋次)が取っ組み合いで言い合いをしていると
『もう!!うるさ〜い!!二人とも何言い合ってんの?』
菜桜が仁王立ちして立っていた。
[…菜桜。]
『あれ?黒崎君?来てたの?』
中身が俺の一護に向かって菜桜が笑顔で話しかけてきた。
「え?…俺…こっちなんだけど…。」
中身が一護の恋次に向かって
『恋次?何言ってんの?頭でも打ったんじゃない?』
そう言うと菜桜の手が中身が一護の恋次に触れた。
[おぃ!!何照れてんだよ!!]
「う、うるせーよ!!照れてねぇ!!」
俺たちの話を聞いていた菜桜が話を遮った。
『ねぇ…二人とも、何か変だよ?』
疑いの目で俺たちを見た菜桜。中身が俺の一護は
[そ、そんな事ねぇーよな?…あっ!!そういや恋次に用があったんだ。悪ぃんだけどちょっと恋次借りてくな。]
『う、うん…あれ?恋次ったら、書類の手伝いいいのかな?』
一人残された菜桜は二人の背中を見送り呆然と立ち尽くしていた。