黒崎夫婦の日常シリーズ

□勘違いの原因は?
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「頼む、一護、下ろしてくれ!」
「駄目に決まってんだろ。」
「私は隊長なんだぞ!? こんなの、隊士に見られたら示しがつかん!」
「関係ねえよ。今は就業時間じゃねえんだし。今のお前は十三番隊隊長朽木ルキアじゃなくて、俺の奥さんの黒崎ルキア、だろ?」
仕事の時と私的な時では、ルキアは名字を使い分けている。
現世でも仕事をするうえで便利だからと旧姓を名乗る女性はいるが、ルキアもそうだった。



言われたルキアは、耳まで赤くなって黙り込んだ。
でも…。
「わりいけど、コイツ引き取って帰るから。」
夜勤の十三番隊の隊士の側を通りかかった一護が、ルキアを小脇に抱えたままそう告げた時、再び暴れ始めた。
「待て、一護っ! 下ろせ! 離せっ! 恥ずかしいではないか! 私の立場はどうなる!?」
ぶらーん、と一護の腕にぶらさがっているルキアは全力で抗議するが、当然聞き届けてもらえるわけが無い。



「うるせえな、てめーがわりいんだろうが。大人しく連行されやがれ!」
「いーやーだー! こんな風にされなくても自分で歩けるわっ!」
「黙らねえんなら、そのうるさい口も塞いでやろうか?」
「うう…。莫迦一護…。」
「バカはどっちだ!」
賑やかに立ち去って行く死神代行と十三番隊隊長を、まだ働き始めて経歴の浅い十三番隊の隊士があっけに取られて見ていた。



普段の冷静沈着なルキアからは、まったく想像もできないその姿。
もっとも、先輩隊士はくすくす笑いながら見送っている。
ドタバタと賑やかだが、二人にとってはこれが平常運転。
傍目から見ればじゃれ合っているとしか思えないやり取りを、本人達は本気で繰り広げているのだった。
二人が帰った後。
「隊長って、黒崎代行の前だとあんな感じなんですか…?」
新人隊士の問いかけに、先輩隊士は頷いた。



「普段の隊長とは全然違うだろ? あれを知ってから、なんか隊長も実は親しみやすい人なんだってわかって、なんかホッとしたっていうか。普段はしっかりし過ぎるくらいしっかりしていて、立派な人だからな。六番隊の方の朽木隊長を連想させるものがあるよな、兄妹だけあって。」
「確かに、そうですね。その隊長が…、と思うと、何だか安心しますね。」
死神として働き始めたばかりでわからないことも多く、緊張しがちだったが…。
ルキアの新たな一面を知った新人隊士は、なんだか少し緊張がほぐれるような気がしたのだった。



さて、こちらは隊舎を出た一護とルキア。
穿界門を抜けて現世に戻ってきた二人。
一護は、相変わらずルキアをガッチリと抱えていた。
逃がすか、そんな気迫と共に。
ルキアをいったんアパートに連れ帰り、ソファに座らせると自分はその前に立って腕組みをし、厳しい目つきでルキアを見下ろす。



「事実を確かめもせずに勝手に旦那の浮気を疑った挙句に、家出までしたルキアにはどう償ってもらおうか…。」
「すまぬ、もう疑ったりはせぬから! 今回は見逃してくれ!」
「見逃すかよ。今日は覚悟しろよ。」
ソファの上で体を小さくするルキアに、一護は意地悪な笑みを浮かべてみせる。
「とりあえず、飯買って来て食うか…。腹が減っては何とやら、だしな。」
一護のその言葉に、ルキアは不穏なものを感じた。
ご飯を食べてから、というからには、簡単に済ませてくれるつもりが無いということだから…。
おそるおそる、聞いてみる。



「その後、どうするつもりなのだ…?」
「一晩かけてテメーを反省させる。」
「い…、嫌だっ! そんなの、無理だ!」
「無理、じゃねえ! 幸いにも、明日は俺も休み、お前も非番だしな。」
(幸い、なわけあるか! 不幸にも、だ。一護のたわけ…!)
二人の休みが重なることなんて、滅多にないと言ってもいい。
その貴重な休みを、こんなことでつぶされるのか…。
一晩中あれこれされては、明日きっと起きられないだろう…。



とはいえ、心の中で悪態をつきながらも、一護が怒っているのは当然ルキアにも理解できるわけで。
また、怒っても仕方ない…、と実は観念しているのも確かだった。
だから…。
「うう…、仕方あるまい…。夕飯に白玉をつけてくれたら、一護の言いなりになってやる。」
と妥協案を出してみた。
ルキアなりの、精一杯の譲歩。
意地っ張りだけどある意味素直なルキアの言葉に、一護はそれを受け入れることにした。
(ほんと、素直じゃねえな…。まあ、これがルキアなんだけど。)



「わかった、買ってやる。そのかわり、お前は今日一日俺の好きにされても文句は言えねえからな。」
「わかっておるわ! 煮るなり焼くなり好きにしろっ!」
顔を真っ赤に染めながら言い放つルキアが、かわいい。
でも、ここで甘い顔はできない。
一護は眉間に力を入れて笑いをこらえ、夕飯を買うためにルキアと共に家を出て行った。
さて、夕飯の後、ルキアがどうなったのか…。
それは、二人だけの秘密。
ただ、次の日にぐったりして昼過ぎまで起きられなかった二人の様子と、ルキアの体中に散らされた綺麗な赤い花びらが、昨夜の出来事を物語っていた…。


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