長編

□◎【完結】いつか隣に立つ日のために
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そうなのだ。
剣術や白打なんかはとても得意な恋次は、鬼道だけが苦手らしい。
いつか水を汲みに行っていた時に偶然出会った時も、他の人と練習しているようなことを言っていたな。
あの時は、思わず恋次を責めるようなことを口にしたが…。
正直に言えば、羨ましかったのだ。
どんどん先に進んで行く、恋次が。
学友と楽しそうに鬼道の練習ができる、恋次が。
そして、ますますあやつとの距離を実感するだけの結果になった。
嫌なことを思い出させてくれるものだな。
この男…。
そんなことを考えていると、突然言われた。



「なあ、朽木。お前、俺の練習に付き合ってくれねえ?」
「は? 私が、か…?」
「いいだろ? そのかわり、剣術や歩法の練習なら付き合えるからさ。」
「その前に、貴様はいったい誰なのだ…。貴様は私を知っているようだが。」
「あ、悪い。俺は、黒崎一護。お前の言うとおり、クラスは1組だ。」
うーん、と考え込む。
私は、いつまでも恋次の後ばかり追っていてはいけないのではないか。
追いつくんだ。
そしていつか、あやつの隣に並ぶのだ。
そのために、1組の者と鍛錬できるなど、願ったりかなったりではないか。
「わかった。よろしく頼む。」
「やった! じゃあ、さっそく今日の放課後、学院の裏の川原んとこで待ってる。」
「ああ。では、後でな。」
なんだか、不思議な時間だった。



放課後。
川原に行ってみれば、本当に黒崎がいた。
「悪い、待たせたか?」
「いや、そんなに待ってねえ。俺らのクラスの方が早く終わったみたいだしな。」
「で、どの鬼道を練習したいのだ?」
「ほんっと、基本的なことから聞きてえんだけど…。俺、どうしても力が一か所に集まらなくて分散しちまうんだよな…。お前、どうやって力を集めるイメージを固めてんのかと思ってさ。」
それは、私にとってはちょっとだけ困る質問だ。
なにせ、私も最初力の集め方が難しくて、いろいろ試してみた挙句かなり独特のやり方をした変な自信があるから…。
でも、それで役に立つのなら。



だから、前置きをしてから言った。
「笑うなよ…?」
「え…? あ、わかった。」
「最初の頃、死神として使う道具を見せてもらった中に、義魂丸があったであろう?」
「ああ、あったな。」
「あの中のチャッピーを、いつかどうしても持ちたくて。」
「そうなのか。」
関係ない話に聞こえるだろうに、黒崎は何も言うことなく聞いてくれた。
「私も最初はいろいろ考えても上手く行かなかったのだが、好きなものを思い浮かべて、それを使うために力を込める…というイメージでやったら、簡単に力が集まったのだ。つまり、私の場合は、チャッピーの入れ物の中に霊圧を送り込む感じだな。慣れると、そんなことを考えなくても集中すればすぐにできるようになったが。」
にしても…。
これは、かなり恥ずかしいことを言わされているのではないか…?



そう思った瞬間。
黒崎は、思った通りフッとだけど笑った。
「そうか、そうなんだな。」
「だから笑うなと言ったはずだ!」
「あ、悪い。いや、お前のやり方を笑ったわけじゃねえよ。俺はなんか、理屈ばっかり考えて、力を集めるっていう初歩的なイメージができてなかったんだ、ってわかった。ありがとな、朽木。ちょっと、やってみる。」
「そうか。」
「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ! 破道の三十一、赤火砲!」
ドン!
ちゃんと、打てている。
「本当に貴様、鬼道が苦手なのか…?」
思わずそう言ってしまった。



でも、黒崎は本当に嬉しそうに言った。
「ああ、今まで破道が打てたことすらなかったんだ。でも、今はできた。なんか、コツがわかった気がする。お前のおかげだ、朽木!」
「そうか、それはよかったな。」
やはり、特進クラスに居るだけあって、かなりの潜在能力なのだな…と思わされた。
「さっきのお前のやり方に習って、お前を入れ物にして力を集めるイメージでやってみたんだけど。」
「なんだと…?」
イメージの中とはいえ、私を勝手に使うな!
と言いたいところだが、黒崎が嬉しそうなのでいいことにする。



「な、朽木もやって見せてくれねえ?」
「わかった。君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ! 破道の三十一、赤火砲!」
ドオン!
私の放った赤火砲も、自分で思っていたよりも威力があったような気がした。
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