長編

□◎【完結】逢いたい
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【1話】





春になり、桜が鮮やかに咲き誇る。
辺り一面ピンク色で、心が知らず弾むはずのこの時期…。
この時期になると、嬉しそうに花びらを見上げて歩いていたアイツ。
そのせいで前を歩く人にぶつかりそうになって、慌てて手を引いてやったこともあったよな…。
この景色が好きだと言っていた。
心が温かくなる気がするから、と…。
まあ、某隊長の技に通じる花だから、というもう一つの理由はどうでもよかったけど。
その道を、俺は今一人で歩いている。
俺が、狂わせた。
一時のことしか見ず、先のことを見ることができなかった、俺が…。



俺は、死神の力を持っていることを誇りに思っていた。
アイツが、分けてくれた力。
親父から、そしておふくろからも受け継いだ力。
だから、いろんなものを護りたかったんだ。
たとえ、大学に通っている間であっても。
俺は、学生であるのと同時に死神代行でもある。
そう思っていたから、レポートや実習なんかで忙しくても、講義のない時間に虚が出た時には倒しに向かっていた。
でも、遊びに来るたびにルキアはそれを止めた。
俺は、それが不満でたまらなかった。



『貴様は今大学生なのであろう? 高校よりもずっと忙しく、また成績も将来に大きく影響すると聞く。だから、無理をするな。そのために我らがいるのだから。』
ルキアの言い分は、確かに正しかった。
でも、ルキアの言葉はなぜか、死神としての俺を認めてもらえていないような気持ちにさせた。
ルキアは、自分は死神だから大丈夫だと言ったけど…。
好きな女を一人で戦いに出して平気な男が、どこにいるってんだよ。
それとも、俺は行かなくてもいいと言われるほど頼りないってことかよ…。
おかしな考えを、捨てることができなかった。



そもそも、逢える時間自体とても少なくなっていた。
ルキアは、忙しそうで。
俺も、大学で外せない実習や講義があるから自由がきかない。
正直に言ってしまえば、寂しい。
でも、久しぶりに逢っても、ルキアは平然としていた。
アイツは、仕事が充実しているから俺に逢えなくても平気なのか…。
それで、余計にすれ違ってしまった気がした。
だから、また久しぶりに遊びに来たルキアに、俺は言った。
「もう、終わりにしよう。俺とお前は、住む世界が違いすぎるんだ。」
と…。



すると、ルキアは穏やかに微笑んで答えた。
「そうか、一護がそう願うのなら、そうしよう。そもそも、それが自然なことだ。今までがおかしかったのだからな。」
ルキアは、ずっと笑っていた。
それを見て、また余計なことを思う。
コイツは、そこまで俺のことが好きじゃなかったんだろうか…。
笑って、別れられるほどに。
だから、思わず聞いてしまった。
「ルキアは、それでいいのか…?」
すると、ルキアは突然俯いた。
「莫迦者…。」
少しして聞こえてきたルキアの声は、震えていて。
さっきまでのはただの強がりだと、俺に教えてくれた。



「最後に貴様に見せるのは笑った顔がいい、そう思って頑張ったのだ。それを貴様は、台無しにするのだな…。酷い男だ…。でも、それより酷いのは私だ。貴様を、どうあっても傷つけることしかできなかった。すまなかった…。」
「ルキア…。」
そんな言葉を聞けば、思わずルキアを引き寄せたくなった。
でも、伸ばした手はルキアに触れることはなかった。
瞬歩で、ルキアがサッと俺から距離を取ったから。
「私に触れるな。もう、私と貴様の間には、何の関係もないのだから…。」



その言葉を聞いて、突如別れが実感されて…。
無理だ、どんなに長い時間逢えなくても、共に戦えなくても、やっぱりルキアと離れるのは無理だ…。
そんな勝手なことを思った。
「ルキア、やっぱり俺は…!」
「達者で暮らせ。かわいい彼女を見つけるのだぞ。そして、どうか、幸せに…。私が貴様に与えられなかったものを貴様に存分に与えてくれる存在が現れることを、遠くから祈っている。」
俺の言葉を遮って矢継ぎ早にそう言ったルキアは、何とかルキアを引き止めようと伸ばした俺の手をすり抜けて、出て行った。
追いかけなければ!
焦った俺が死神化して外に出た時には、すでに穿界門が消えるところだった。



ルキア…!
もう、逢えねえのか…?
自分が言い出したことなのに…。
恐ろしいほどの喪失感を覚えた。
それから、落ち着いて考えようと意識する。
そして、俺は結論を出した。
ルキアが去って行くのを目の当たりにしたのだから、動揺しないわけがねえんだ。
長い間一緒にいたんだ、情も移っているのだろう。
いずれ、忘れられる時が来るはずだ。
そもそも、俺は人間で死神じゃねえんだ。
だったら…。
行動するしかねえ。
それが、無理矢理自分を納得させるための考えだということに、俺は後から気付くことになる…。
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