長編

□◎【完結】逢いたい
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その日から、俺はもっと周りを見て生活することにした。
今まで、ルキアに思いを向け過ぎて、俺はきっと周りを見ていなかった。
もっと、夢中になれる相手がいるんじゃねえか…。
穏やかに共に時を過ごせる相手を、見つけられるんじゃねえか…。
そう思った。
でも、失礼な話、誰を見てもピンとこなかった。
だから、自分から近づいていく気にはなれなくて…。
それなら、と誘われた時には断らずに付き合ってみた。
明るくて、話していて楽しいと思った女もいた。
でも、何かが違うんだ。



数人の女と、食事をしたり買い物に行ったりしてみた。
そのたびに俺は、白玉に舌鼓を打つアイツや。
ウサギに妙に反応するアイツを、ぼんやりと思い出してしまうんだ。
家でレポートと向き合っている時。
集中力が途切れると、浮かぶのはアイツが戦っている姿。
どんなに強い相手にだって、アイツは果敢に挑んでいた。
勉強なら、疲れたら休めばいい。
でも、死神が戦闘中に疲れたからと言って休んでいたら、虚は野放し状態だ。
それに、死神自身の命にもかかわる。
虚が出ている間は、何があっても戦うしかないんだ。



アイツらの生活は、常に命を張って、人間を護るためにある。
そんな中、何一つ文句を言うことなく、それを誇りだとこなしていたアイツ…。
だからこそ、アイツは学業で忙しい俺の邪魔をしたくなくて、共に戦うことを拒んだんだ。
俺を認めてねえとか、一緒に戦いたくねえとか、そういうことじゃなかった。
気高い、魂。
落ち着いて考えてみれば、そんなのは当たり前だったとわかる。
アイツと俺は、その魂を通じて関わり合ったんだ。
そんな深いつながりができる相手なんて…。
他に見つけられるわけがねえ。



あれから、1年近くかかって、俺はそう結論を出さざるをえなかった。
あの時、自分を誤魔化してはみたけれど…。
やっぱり、俺にはルキアしかいなかった。
本当は、俺だって心のどこかで気付いていた。
ルキアが、俺を心配して、ちゃんと医者になれるように大学を優先しろと考えてくれていたこと…。
それでも、アイツの隣で戦いたかったなんて、それは後からいくらでもできることで。
人間として生きていくには、職を得ることは避けて通れないことなのに…。
やっぱり、アイツの方が大人だった。
俺は、何もわかってない子どもだったんだ。



アイツは、まだ一人でいるのだろうか…?
誰かと付き合っているようなことは?
白哉の勧めで、政略結婚とかは…。
考えてみれば、この1年でルキアの身辺が大きく変化していても不思議ではなかった。
そう思っただけで、不安でいたたまれなくなる。
何となく、ルキアは変わらないんだと思っていたけど…。
そんなはずがない。
俺との付き合いを止めたんだから、アイツが何をしようと自由なんだ。
俺がどうこう言える問題じゃねえ…。
居てもたってもいられなくなって、久しぶりにソウル・ソサエティに行ってみようと決めた。



そこでも、俺はふと気付く。
いつからだったか…。
俺は、ルキアが現世に来てくれるのを当たり前だと思っていて。
自分からソウル・ソサエティに行くことを、全然しなくなっていた。  
俺は、アイツの置かれている現状を何も知ろうとしていなかったんじゃねえか。
長く付き合っているうちに、甘えてしまっていたのか…。
そう思ったら、一刻も早くルキアの顔が見たくなった。
それなのに…。
浦原さんのところに行くと、穿界門は通せないと言われた。
そして、封筒を渡されたんだ。



「アナタがここに来た時に渡すようにと、朽木サンから預かっていました。これを持って、お帰り下さい。」
それを受け取ると、ふわっと懐かしい霊圧が感じられた気がした。
それだけで、泣きたい気持ちになる…。
やっぱり、お前に逢いたい…。
とりあえず中身を確かめたくて、一度家に戻った。
とんでもなく特徴のある絵を描くくせに、手紙はすげえ流暢な筆文字でしたためられていた。



『貴様がこの手紙を読んでいるということは、迷っているのだろうな。
だが、一護の決心は何一つ間違ってなどいない。
貴様は、人間なのだ。
人間として、幸せに生きる権利がある。
私との別れを決めた時の自分の気持ちを、思い出せ。
そして、それに従って生きればよいのだ。

私だって知っているから、貴様の気持ちはよくわかるのだ。
逢いたい時に逢えない、寂しさと苦しさを…。
共に戦いたいと願う気持ちを…。
でも、それを受け入れることは貴様の未来を潰すこと。
私には、どうしてもできなかった。
私と付き合ったせいで、貴様にずっと苦しい思いをさせてきた。
そして、離れれば離れたで、こんな風に貴様を乱すことしかできぬ。

どうあっても、一護を傷つける結果しか招けない…。
それは、私の罪だ。
一護は、間違っていない。
あの時、願ったことを。
自分の手で、叶えるのだ。
どうか、幸せに生きてくれ。
こちらのことは、二度と思い出すな。
もう一度言う、一護は人間なのだ。
死神と関わることのない平和な世界を、精一杯生きるのだぞ。』
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