長編

□◎【完結】逢いたい
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ルキアの言葉には、揺るぎがなかった。
届かないと実感すればするほど、あの日の自分に対する後悔と怒りが浮かび上がった。
手紙を読んで、あらためてわかった。
逢えないことに、俺がやきもきしていた時…。
ルキアも同じような寂しさを抱えながら、それでも俺のことをずっと想ってくれていた…。
“逢いたい時に逢えない、寂しさと苦しさ”
同じようにそれを覚えていたのに、俺はアイツとの別れを選んだ。
アイツは、俺が寂しさを覚えなくて済むようにと、自分の寂しさは棚に上げて身を引いた。



共に戦うことを許してくれなかったのは、俺の将来がかかっているから。
俺は、目先のことしか考えていなかった。
アイツの愛は、確かに俺を包んでくれてたのに…。
俺は、それに気付けなかったんだ。
それを知って、どうにかしなければ…と思った。
こうなったら、現世任務に就いている死神を捕まえて、穿界門を通らせてもらおう。
そんな風に考えてから、1か月。
俺は、馴染んだ霊圧を感じて、そっちに向かった。
一番、願いを聞いてくれそうな相手だと思ったんだ。
でも、それは甘かった…。



「恋次!」
「一護か…。虚が出てるわけでもねえのに、なんで死神化なんてしてんだよ。お前は学生だろ? 早く帰れよ。」
恋次の言い方には、どことなく棘があった。
でも…。
今は、恋次に頼むしかねえんだ。
「帰らねえ。恋次、頼みがあるんだ。俺を、ソウル・ソサエティに連れて行ってくれ。」
望みをかけて言った言葉は、はっきりと拒否された。
「悪いが、無理だ。お前をあっちに受け入れることは、隊則違反になっちまう。お前がルキアと別れた時点で、お前とソウル・ソサエティの繋がりも無くなった。当然だろ? そんなの。」
当然…。
その言葉が、突き刺さった。



「でも、俺は死神代行だ…。」
何とか食い下がる。
すると、恋次はため息をついた。
「お前に死神の力が残されているのは、ルキアの最後のお前への気持ちなんだ。力を無くした時、お前が苦しんだことを知っているルキアが、二度とお前を苦しめたくないから力だけは残してやってくれと嘆願したからな。そうでなきゃ、お前の力も消される予定だったんだ。お前がその立場でいられるのは、ルキアのおかげなんだ。」
なんだって…!?
ルキアが、そんなことを…。
そんな風に言われれば、ますます逢いたくなった。
「もう一度…、ルキアに逢わせてくれ…。俺が行くのが無理なら、ルキアにこっちに来てもらうことはできねえのか?」
「無理だな。アイツは、隊長になった。おいそれと現世に来られるような立場じゃなくなったんだよ。」



思ってもみなかったことだった。
「隊長…?」
「ああ、そうだ。アイツがお前と付き合うにあたって、一つ総隊長から条件が出されてたんだ。人間と関わることは、特例中の特例だからな。だから、この先、いつのタイミングでもいいから、一護かルキアのどちらかが十三番隊の隊長になること、ってな。」
「俺はそんなの知らねえぞ?」
「じゃあ、ルキアがあえて言って無かったんだろうな。」
ルキアが俺にそれを言わなかった理由が、何となくわかった気がした。
たぶん、だけど…。
それを言えば、俺が責任を感じて別れたい時に言いにくくなる、とでも思ったのだろう。



それに、その話を聞いて、俺は自分がどれだけルキアの置かれている状況をわかっていなかったかに気づかされた。
そうだ、ルキアの隊は隊長を失ってたんだ…。
となると、ルキアが滅茶苦茶忙しくても、納得のいく話だった。
俺は、それも考えることなく、ただルキアが来てくれないと思っていただけだった。
「それを聞いたアイツは、総隊長に言ったんだそうだ。もし、ずっと自分とお前が上手くいくのなら、隊長にふさわしいのは一護の方だ、って。だから一護がソウル・ソサエティに来るまで、隊長の仕事はするけど官位は副隊長のままでいい、ってな。そのかわり、上手くいかなくなった時には、自分が隊長を引き受けるって…。」



アイツ…。
ありえねえほどの馬鹿野郎じゃねえか…!
どうして、俺の都合ばっか考えてんだよ。
ルキア…。
アイツとわかり合えなかったのは、俺が子ども過ぎたから…。
人間を護るために、どれだけ死神が忙しく働いてんのか。
命を、掛けているのか。
それを知っていたくせに、俺はただ一緒に戦えないから、逢えないから、そんな理由でルキアを振りほどいた…。
「わかるだろ? ルキアが隊長を引き受けた意味。もう、遅いんだよ。それに、たとえ立場上こっちに来られたとしても、二度と来るわけがねえだろ? そんなことくらい、お前が一番わかってんじゃねえのかよ。」



ああ、わかってるさ。
嫌というほどな…。
もう、方法はないのか。
俺には、どうすることもできないのだろうか…。
「なあ、恋次…。俺がこっちで生き終わってそっちに行った時…。その時には、ルキアに逢えるんだろうか…?」
「悪いが、無理だな。人間は、魂葬されれば記憶は全て失う。いくら死神代行のお前でも、例外はねえよ。まあ、お前がルキアと付き合い続けてたんなら、おそらく方法を考えてもらえたんだろうけどな。今となっては、無理だ。それに、たとえ逢えたとしても…。俺が許さねえ。ルキアを傷つけておきながら、また逢いたいだと!? いいかげんにしろよ。んな調子のいいこと、誰が認めるかってんだ。」
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