長編

□◎【完結】逢いたい
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恋次の言うことは当然過ぎて…。
俺は、返す言葉を失った。
「俺がお前に会っても平静を保てたのは、お前が二度とルキアに逢えないとわかっているからだ。ルキアがどれだけの苦しみを飲み込んで今を生きてるか、何も知らねえくせに! それ以上言いやがったら、たとえテメーでも許さねえ。ルキアの名を、二度と呼ぶんじゃねえ。思い出しもするな。アイツはもう、お前のもんでもなんでもねえんだ。十三番隊隊長、朽木ルキアだ。」
ルキアの背負った肩書は、あまりにも重かった。
そして、恋次の怒りの理由も、よくわかった。
当然だよな…。
恋次があんなに大切にしてる幼馴染を…、いや、それだけじゃねえ感情を抱いているであろう相手を…。



「お前に現状を知らせてやろうと思ってな。そうしたら、もう逢いたいだの言えるわけがねえだろ? じゃーな。もう、二度と俺とも会うことはねえだろう。」
恋次は、穿界門を開いて一人帰って行った。
ソウル・ソサエティは、二度と俺を受け入れねえ…。
受け入れることは、隊則違反扱いにされる状態になっていることを思い知らされ、俺は結局すごすごとアパートに戻るしかなかった。
結局、その後の俺の生活はかなり忙しくなった。
度重なる実習。
とてもじゃないけど、死神としての活動をしていられない時もあった。
ルキアの言う通りじゃねえか。
いつか、無理が出るって。
そんな結果に、ため息をつくことしかできなかった。



あれから、数年が経過して。
俺は無事医者になることができた。
まだ、駆け出しの研修医ではあるけれど…。
毎朝、カーテン越しに降り注ぐ光に、目を覚ます。
眩しさに目を細めて、仕方なく起き上がる。
こうやって、当たり前のように新しい日常は始まるけれど…。
俺はいまだに、ふとした景色の中にアイツを探してしまうんだ。
仕事帰りに見る、月の光で浮かび上がる公園。
どれが手だか頭だかまったくわからねえボールで、変な特訓をやらされたこととか。
アイツの仕事を手伝うと、約束したこと。
そんな光景が目に浮かぶ。



アイツがくれた力で、俺はいろんな経験をすることができて…。
生きることの喜びも、その裏にある苦しみも、教えられた気がする。
アイツは、俺がすることをいつでも見守ってくれていた。
でも、本当に俺が困っている時だけは…。
何も言わなくても、俺の前に現れた。
そして、時に怒鳴りつけられたり蹴り飛ばされたりしながらも…。
俺は、気づけば前を向く力をもらっていたんだ。
不敵なお前の笑みは、なぜか俺に自信を持たせてくれた。



お前は言ったよな。
『絶望では俺の足は止められない』
と…。
そうだ、その通りだ。
俺は、絶望なんてしてる場合じゃねえんだ。
お前と共に歩いた時間は、俺の中では消えてねえから…。
きっと、また巡り逢う。
そう信じて、俺はこの時間を生きるだけだ…。
  


  * * * * *



私は、酷い女だ。
一護の願いを、本当はわかっていたのだ。
私が与えた力のせいで、あやつは死神と人間という二つの顔を持つことになってしまった。
両方とも一護なのだから、いくら忙しくても一護が死神として虚と戦いたいと思う気持ちを、わかっていた。
だけど、それで大学とやらでの勉学が上手くいかなくなったとしたら…。
人間としての一護の人生は、捻じ曲げられてしまうのだ。
それだけは、させたくなかった。
だから、私は一護が戦おうとするのを止めてしまったのだ。
その上、浮竹隊長がいらっしゃらなくなったことでとても忙しくて。
一護に逢いに行きたいと思っても、難しかった。



一緒に戦えなくても、側にいることはしたかったのに、それもできなかったのだ。
もちろん、それで私自身も平気なわけがなかった。
逢いたい、声が聞きたい…。
布団に入ると、ついそんなことを思ってしまう毎日。
でも、寝るまでは忙しさにまぎれて考えなくて済む分、私は楽だったのだろう。
結局、一護から別れを告げられてしまった。
「もう、終わりにしよう。俺とお前は、住む世界が違いすぎるんだ。」
本当に、一護の言う通りなのだ。
生者と、死者。
時間の流れが速い現世、ゆっくりなソウル・ソサエティ。
重なる物など、何一つない。



私が一護の前に現れてしまったばかりに、一護を苦しませ悲しませ…。
それなのに、一護は私を選んでくれた。
付き合いたいと…。
そう言ってくれたのだ。
正直なところ、それを受け入れては駄目だということも私にはわかっていた。
でも、側にいたかった。
少しでも長く、一護の側にいたかった…。
その私の弱さが、一護を傷つけた。
私は、何と酷いことをしてしまったのだろう。
どんな理由があっても、どんなに一護に押されても、断るべきだった。
そうすれば、長い時間一護を苦しませずに済んだのだ。
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