長編

□◎【完結】逢いたい
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最後の別れの時、一護が言ってくれた言葉…。
「ルキア、やっぱり俺は…!」
それは、もう一度やり直せないかと言ってくれる言葉だった。
本当は、受け入れたかった。
でも、それをすれば同じことを繰り返すだけ。
私は、一護の側にいてはいけない存在なのだから。
本来、現世にいるはずのない魂…。
私は、一護の最後の言葉を心の支えに、これからも生きて行こう。
だから、心からの願いを込めて伝えた。
「達者で暮らせ。かわいい彼女を見つけるのだぞ。そして、どうか、幸せに…。私が貴様に与えられなかったものを貴様に存分に与えてくれる存在が現れることを、遠くから祈っている。」



どうか、苦しむことなく幸せに生きてくれ。
貴様を側で支えてくれる、かわいい現世のおなごを見つけてくれ。
私には、もう願うことしかできないのだから。
ソウル・ソサエティに戻った翌日。
私は、仕事が終わるとすぐに一番隊の隊舎に出向いた。
そして、一護との関係が終わったこと、約束していた通り自分が隊長を引き受けることを京楽総隊長に伝えた。
「そうか…。辛かったね、ルキアちゃん。」
「いいえ、私は何ともありませんが…。あやつを苦しめてしまったことだけが悔やまれます。それで、無理を承知でお願いいたします。再び死神の力を無くすと、あやつはきっと…。だから、力だけは残しておいてやってほしいのです。」



すると、京楽総隊長に試すように聞かれた。
「本当に、いいの? 彼に力が残っていると、何かの拍子に顔を合わせることがあるかもしれないよ。そうなったとき、彼のその後の生活を知ってしまう可能性もあるんだ。」
もちろん、わかっている。
でも、たとえそれで自分が苦しむことになったとしても。
私がしたことに対するけじめ、そう思って私は受け入れて見せるから。
だから、大丈夫だと言った。
「はい。それでも…、構いません。私は大丈夫です。どうか、一護から力を奪わないでやってもらえませんか。」
「そっか…、ルキアちゃんがそう言うなら。わかった、そうするよ。」
「ご配慮、ありがとうございます。」



こんな例外を認めてもらえるなど…。
一護の功績が大きかったおかげだろう。
これで、きっとあやつは絶望を再び覚えることなく生きていけることだろう。
それでいい。
一護が幸せなら、それで…。
私は、念のために浦原商店に出向き、ソウル・ソサエティの決定だから決して一護に穿界門を使わせないようにと頼み、合わせて手紙を置いてきた。
優しいあやつのことだ。
いつしか、私のことを心配してしまうかもしれぬ。
もう、貴様は解放されていいのだ…。
そんな思いを込めて、一護が万が一浦原商店に来た時には渡してもらうよう頼んだ。
まあ、その機会が無いのが一番だが。



それだけの準備を整えた私は、もう心を乱すまいとひたすら隊長としての仕事に明け暮れた。
覚えることは山ほどある。
幸いにも我が隊には頼れる三席がいるのだから、隊舎での仕事という面ではそれほど問題はなかった。
でも、出たことのない隊首会への参加や、今までは隊長の代理ではあっても副隊長という官位にあったから手を出すことのなかった仕事も回って来るようになった。
早く、一人前にならなければ。
私は、いつだって人の後を追っている気がする。
霊術院の同期で副隊長になった隊士の中では、副隊長になったのは私が最後だった。
決して実力があるわけではないから、その分努力は欠かせない。
私は、目の前のことを一生懸命こなすことに全てを賭けた。



あれから、1年以上が経過した。
久しぶりに現世任務を頼まれたと言っていた恋次が、帰って来て私のところに寄った。
もう勤務時間は終わっているので、恋次も構わず十三番隊の隊舎に入って来ていた。
そこで、私は気付いてしまった…。
ほんの少しだけど、恋次から一護の霊圧が感じられたんだ。
恋次は、一護と会ったのか?
何のために…。
あやつは、死神などという存在を忘れて、幸せに生きていればいいのだ。
それを…。
いや、死神の力を残してほしいと頼んだのは、私だ。
もしかしたら、恋次の任務の時に力を借りるようなことがあったのかもしれぬ。



恋次は、他愛もない話をして帰って行った。
ということは、やはり大したことではなかったのだろう。
そういえば、恋次がこんな風にここに寄るようになったのは、私が一護と付き合うのを止めたころからだったな…。
おそらく、恋次は気を遣ってくれているのだ。
恋次にまで気を遣わせるとは、情けない…。
ぼんやりと考えていた私は、まだ広げたままの書類に目を戻して続きを仕上げることにした。
それから、数日後。
また、恋次が十三番隊に寄った。



自分用にたい焼き、私には白玉を持って。
そして、私を待ちながらたい焼きをほおばっていたが、食べ終えてしばらくしてから言う。
「なあ、ルキア。今日、一緒に飯食って帰らねえか?」
「ああ、構わぬぞ。朽木の家には遅くなると連絡を入れてあるから、行こう。」
仕事が長引くから、帰るのが遅くなると伝えてあった。
本当は、今日はもう少し仕事をしたかったのだが。
恋次をかなり待たせたこともあって、これ以上待たせるのも悪いと思ったから、片付けて隊舎を出ることにした。
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