短編2

□◎月を見上げて
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『今日は中秋の名月です。今年は8年ぶりに満月と重なるので、綺麗な月が楽しめるでしょう。』



朝のニュースの言葉を、何気なく聞いていた一護。
本当は、月見を口実に数日前にルキアを誘ってみたのだけど。
『すまぬ、浮竹隊長の調子が思わしくなくて、予定が立たないのだ。』
とメールが返ってきた。
来れない、とは言われなかった。
でも、忙しくしていたら…。
そう思うと、当日再び誘うのもためらわれた。
夜。
課題をしながら、ふと月を見上げる。
真ん丸な月が、冴えた光を放っていた。
月を見れば、余計にルキアを思い出す。
決して主張はしないのに、夜を明るく照らしてくれる存在。
ルキアに重なるような気がした。
(技も月白だしな。)



気付けば、手元の計算用紙に思わず落書きしていたうさぎ。
ルキアの描くうさぎよりも、リアリティに溢れていた。
(ってか、俺は何をしてんだ。)
自分らしくない行動に、思わずため息。
その時、遊子に呼ばれた。
「お兄ちゃん! お団子食べようよ。」
「おう、今行く。」
降りてみると、これでもかと皿に団子が並べられていた。
「ちょっと作り過ぎちゃったかなあ。」
「いや、いいんじゃねえ?」
「そうだぞ、遊子。みんなで楽しく食べれば、きっとあっという間だ。」
一心の言葉をみんな軽く受け流すのも、いつもの光景。
ただ、一護は心のどこかでふと(ルキアにも食わせてやりてえな…。)と思っていた。
団子といえば、だ。
(白玉じゃねえけどな。)



前に一緒に月見をした時に、遊子の作る団子を美味しそうに食べていたルキアの姿が思い出された。
夕食後なので、さすがに全部は食べきれなかった。
「なあ、遊子。残りは夜食にもらっていいか?」
「本当? お兄ちゃん。食べてくれるんなら嬉しいよ。」
「ああ、美味かったからな。後で食うわ。」
そんなことを言う一護を見て、夏梨はこっそりと笑っていた。
(嘘が下手っていうか、なんていうか。)
そもそも、遊子が団子を作り過ぎたのも、ルキアが来るかもしれないと思ったからだった。
今年は来られないと一護に聞いたけど、それでも何となく多めに作ってしまったのだった。
去年、ルキアがそれは美味しそうに食べていたのを思い出したから。
自分が作ったものを美味しそうに食べてもらえるのは、嬉しいものだ。



遊子もなんとなく察するものがあったらしい。
持ち運びに便利なように、ジッパー付きの保存袋に入れて一護に渡した。
一瞬、苦笑いをした一護だったが。
部屋に戻ると、死神化して浦原商店を訪れた。
穿界門を開けてもらうと、一護はソウル・ソサエティに向かう。
十三番隊の隊舎まで来てみれば、まだルキアは仕事中のようだった。
(やっぱ忙しくしてたんだな。まあ、団子を届けるくらいはいいだろ?)
一護は勝手知ったる隊舎内に入り込んで、ルキアの霊圧を頼りに居場所を探す。
どうやら、今日は隊舎に用意された自室にいるようだった。
まあ、霊圧でもうバレているのだろうし。
一護は当然のように部屋の戸を開けた。



「一護! どうしたのだ?」
やはり、驚きもせずルキアは答える。
「もう仕事は終わったのか?」
「ああ、明日の朝提出する分は先程終わった。だが、まだ仕事は山積みなのだ。少しでもできるように、今日は泊まろうかと思ってな。」
「そっか。これを届けに来た。。」
「ん? おお! 団子ではないか! 遊子が作ったのか?」
ルキアは嬉しそうに受け取った。
「ああ。今日は中秋の名月だしな。」
「そうであったな。まったく、私ときたら、風流のかけらもないな。」
「忙しいんなら仕方ねえだろ。」
「なあ、一護は忙しいのか?」
「いや、そうでもねえ。」
「ならば、少しで良いから一緒に月を見て行かぬか?」
「構わねえけど…。」



一護の答えを聞いたルキアは、部屋の障子を開けて窓から月が見えるようにした。
「うむ、ここからでもよく見えるな。」
「ああ。」
「少し待ってろ。」
出て行ったルキアは、お茶を持って戻ってきた。
皿に団子を並べて、ご満悦のルキア。
「さすが遊子が作った団子だな。美味しそうだ。一護ももちろん食べるのだろう?」
「そうだな。」
本当は、さっき食べたのだけど…。
ルキアと一緒に食べるのも悪くない。
そう思った一護は、再び団子に手を伸ばした。
「美味しいな!」
満面の笑みを浮かべるルキアに、今日来てよかったと一護はぼんやりと考えた。
月を見上げながら、一緒に団子を食べる。
そんな穏やかな時間が、妙に心地が良かった。


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