短編

□霞む世界
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『卍解』
ルキアの、静かだけど凛とした声が聞こえた。
『白霞罰』
ルキアの黒い死覇装が、綺麗な黒髪が、真っ白に変わっていく。
辺り一面が一気に凍りつく。
敵は、完全に凍りついて崩れ去った。
そして…。
ルキア自身も完全に凍っていた。
生気の無い、真っ白な姿。
袖白雪の刀身さえ、透けて見えた。
死覇装の形すら変わって、背中を飾るリボンが綺麗だった。
死神相手に言うのもおかしな話かもしれねーけど…。
天女がいたなら、こんな感じかとさえ思わせる美しさだった。




目の前で、ゆっくりとルキアが卍解を解いていく。
威力もすさまじく、見た目も美しい、そんな卍解。
ルキアに似合うと思った。
だけど、俺は…。
それを素直にすごいとは、どうしても思えなかった…。
ルキア自身をも凍りつかせ、解くのにも時間がかかる。
万が一、これが通じない相手がいたら…。
ルキアの命が危ねえ。
そう、思ってしまったから…。




    *******




ソウル・ソサエティでの大掛かりな戦いを終えて、数日。
残党が重霊地である空座町に紛れ込んでいることを確認したのは、技術開発局だったとルキアは言っていた。
でも、準備時間が短いので、大勢の死神を展開し、現世に影響を与えずに済むようにするほどの準備はできない。
そこで、副隊長であるルキアと恋次の二人が派遣された。
俺と合流し空座町を守るように、それが今回の任務らしかった。
「あいつらの残党か…。厄介だな。」
「のんびり構えている暇はなさそうだ。さっそくお出ましだぞ。」
よく見れば、相手は10人ばかり。
「よっしゃ、行くか。」
恋次の合図で、俺達は相手と向かい合った。




「舞え、袖白雪!」
「咆えろ、蛇尾丸!」
「斬月!」
現世への影響を考慮して、いきなり卍解するのは避ける作戦だった。
俺とルキアは背中合わせ、恋次は斬魂刀の性質上、少し離れたところで刀を振るう。
ルキアが、斬りかかって来た敵の刀を交わし、逆に斬りかかる。
だけど、太刀傷は与えられても、致命傷にはならない。
「月牙天衝!」
俺の月牙も、表面的にしか相手に傷を与えられない。
「蛇尾丸!」
恋次が戦っている相手も、致命的な傷は受けていないようだった。
やはり手ごわい相手だ…。




「現世だから、遠慮しようかと思ったが…。卍解するしかないな。」
背中側から、ルキアの声が聞こえた。
「私が先に行く。」
「ルキア、だったら俺が…!」
「私が先の方が都合がいいんだ。恋次…! 卍解する。後は頼んだぞ!」
ルキアは、恋次に向かって声を張り上げた。
「任せろ!」
遠くから、恋次の返事も聞こえてきた。
「待てよ、恋次! どうしてルキアからなんだ? それなら俺が…!」
「いや、ルキアが先だ。一護、巻き込まれねーように離れてろよ。」
ルキアの卍解を知っている恋次に言われ、俺はよくわからないままルキアから距離を取った。




「卍解!」
ルキアの、静かだけど凛とした声が聞こえた。
「白霞罰」
ルキアの姿が、そして周りが、一気に白くなった。
ルキアの卍解の威力は、圧倒的だった。
10人ばかりいた相手のうち、攻撃が及ぶ範囲にいたらしい7人の敵を、あっという間に氷漬けにしてしまったんだ。
凍りついた敵は、崩れ去った。
だけど…。
ルキア自身も凍りついて、動かなかった。




「卍解! 双王蛇尾丸!」
それを見た恋次が、すかさず卍解して、残りの敵を狙う。
「卍解! 天鎖斬月!」
俺もすぐさま卍解して、仲間の敵(かたき)とばかりにルキアに襲いかかろうとしていたやつらを叩きのめした。
あっという間に片がつく。
ルキアは、ゆっくりと卍解を解いて行った。
氷がはがれ落ちるようにしながら、ルキアの姿はいつもの黒い死覇装に戻って行った。
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