短編

□特別な想い
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久しぶりに仕事が定時で終わった日。
一護に会おうと、私は現世に来ていた。
でも、一護は今日も学校から帰るのが遅く、私は黒崎家にお邪魔して遊子と話していた。
夏梨はサッカーらしい。
いつも元気だな。
そう思いながら遊子が見ている雑誌に目をやると、そこにはたくさんのチョコレート。
ああ、チョコレートと言えば一護が好きだな…。
それにしても、いつもコンビニで見るのとは違う、かわいい包装のされたチョコレートだ。



何気なくそれを見ていると、遊子が私の視線に気づいたのか、それを指さしながら言った。
「これ、バレンタインのチョコレート特集だよ。」
「ばれん、たいん…?」
私は、遊子の言葉に首をかしげた。
聞いたことの無い言葉だ…。
そんな私の反応でわかったのか、遊子に聞かれた。
「ルキアちゃんたちの世界にはないの? バレンタイン。」
「ああ。何のことかわからぬから、そのような習慣は無いと思うぞ。」
「そうなんだー。あのね、こっちでは、2月14日にはチョコレートを買ったり作ったりして、友達やお世話になっている人にあげるの。それから、女の子が好きな男の子にチョコレートを渡して告白する日でもあるんだよ。」
「こっ…、告白…?」



そのような言葉、いまだに聞き慣れん…。
まあ、一度一護から告白されて、私もそれを受け入れたからこうなっているわけだが…。やはり、気恥ずかしい言葉としか思えなかった。
そんなことを考えている私には気づいていないのだろう。
遊子が話を続けている。
「そういうのが本命チョコ、お友達にあげるのが友チョコ、仕事なんかで関係があるから、義理であげるのが義理チョコだよ。まあ、義理チョコっていうのはいい意味には聞こえないから、義理チョコだって渡すのはやめた方がいいんだけどね。お世話になった人にあげるのは世話チョコって言うんだって、この前テレビで言ってたよ。」
「ほう、面白いんだな。遊子はチョコレートを誰かに渡すのか?」
「お父さんとお兄ちゃん、それから学校の友達にあげる予定だよ。私は、毎年手作りにするの。」
「手作り…?」
「うん。私、お料理好きだから。買ってもいいけど、手作りだと喜ばれることもあるんだよ。」
「そうか、教えてくれてありがとな。遊子。」



私も日ごろお世話になっている人にチョコレートを贈ってみるか…。
せっかくなら、ソウル・ソサエティにはないような珍しい物を渡したい。
だから、私は次の休みに浦原のところでソウル・ソサエティの通貨を現世のものと換金してもらって、チョコレートを買いに来ることに決めた。
その日なら、まだバレンタインに間に合うはずだ…。
お世話になっていると言えば、兄様、浮竹隊長、それに虎徹三席に小椿三席、恋次。
現世の仲間にも渡したい…。
そして、黒崎家の人々に、一護。
遊子の話によると、同じチョコレートでも込める思いが違うのだな…。
兄様は甘いものが苦手と伺ったが、こういう行事なら受け取ってくださるかもしれない。
何となく楽しくなった私は、チョコレートを買いに来る日を楽しみにしていた。



ちょうどその時、一護が帰って来た。
「ただいまー。って、ルキア! 来てたのか。」
「ああ、邪魔しておるぞ。」
「ほんと、お前は突然だよな。」
「事前に連絡したからと言って、早く帰って来られるわけではあるまい。」
「んなことはねーよ。今日だって図書館で勉強していただけだから、帰ろうと思えば帰れたのに。」
そう、一護は受験生。
塾に勉強にと忙しいのだから、事前に連絡をして邪魔をするようなことはしたくない。
現世の人間にとっては、人生を左右する大きな行事だと聞くからな…。
それなのに、一護は私が来るというとこんな風に言ってくれるんだ。
だから、余計に邪魔をしてはいけないと思わされる。
部屋に戻る一護について、私は一護の部屋へと入る。
机に荷物を置く一護を見るともなく見ていると、一護に聞かれた。



「飯、食ってきたのか?」
「いや、仕事が終わってすぐに来たから何も食べてはおらぬ。」
「だったら、一緒に食べて行けよ。」
「でも、遊子に悪いだろう。」
そんな話をしているタイミングで、遊子が一護の部屋に入ってきた。
「ルキアちゃん。せっかくだから、晩ご飯食べて行って。」
「それは悪いから、私はもう少ししたら帰るよ。」
「私はルキアちゃんが食べてくれると嬉しいんだけどな。」
「遊子…。ありがとう、ではお言葉に甘えて。」
「やった!」
すると、私達の会話を聞いていた一護が、「てめーは遠慮しすぎなんだよ。公認で居候してたこともあるだろうが。いまさら気なんか遣うんじゃねーよ。」と言った。
「ありがとう、一護。」
「何言ってんだ、当然だろ。」



私は、黒崎家にお邪魔させてもらうようになってから、“ありがとう”という言葉を使う機会が多くなった気がする。
あたたかい人たち…。
一護が私のことを想ってくれることが、特別な事のように思えた。
だから、一護に渡すものだけは、手作りにしようと思う。
特別な想いを込めて…。
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