短編

□帰り道
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「お前、本当にルキアだよな?」
「は…? どういう意味だ…?」
一護の突然の言葉の意味が、全くわからなかった。
「私は間違いなく朽木ルキアだが…、それがどうかしたのか?」
「いや、別に。」
「別に、ということはなかろう。気になるではないか!」
「いいんだよ、気にしなくて。」
「いいから教えろ!」
なぜあんなことを言ったのか白状しようとしない一護の腕を取り、ギュウッとねじり上げる私。



「うわっ! 痛えって! 離せ!」
「貴様がさっきの言葉の意味を言うなら離してやる。」
「わーったって! だから離せ!」
「最初からそう言えばいいのだ。」
「ったく…。お前は相変わらず無茶なヤツだよな。」
「悪かったな。」
「でも、これがお前の素、だろ?」
確かに、その通りだ。
でも、それがどうしたのだ…?



「それは、そういうことになると思うが…。それがどうした?」
「だって、お前…。ソウル・ソサエティにいる時って、普段のお前と全然違うだろうが。」
「昔はそうでもなかったが、今の私は拾われたとはいえ朽木家の一員だからな。朽木の家に恥をかかせるような真似はできぬ。それに、こう見えて副隊長だ。隊員たちの前では見本であるべき立場だからな。気を抜いているわけにもいくまい?」
「つまり、俺の前でだけ、ってことだよな?」
「まあ、そうなる、かな…。ああ、恋次は除いて、だが。」
「そこでアイツの名前を出すなっての。」
さっきまで機嫌良さそうだったのに急に不機嫌になった一護は、私を木の陰に引き摺りこむと噛みつくように口づけた。
「ん…、は…っ…。」
だんだん苦しくなって、思わず小さく声が漏れる。



唇を離した一護は、押しつけるように言った。
「お前が素でいていいのは俺の前でだけ。他のヤツらにそういうとこ、見せんじゃねーぞ。」
「それはつまり…。このような私は貴様だけが独占したいということか?」
「わかってんならいちいち言うな。」
「ふっ…、はは…!」
「てめー、笑うな!」
一護は、だんだん赤くなってきた。
かわいい奴め。
そんなことを口に出そうものなら、また怒りだすのだろうけど…。
だから、それは伏せておくことにした。
これも、多分私だけが知る一護だから…。



「いや、同じだ、と思ってな。」
「は…?」
「私も、感情を見せて怒ったり笑ったり、そんな風にする貴様を一人占めしたいのだ。」
「え…?」
「まあ、チャドや小島、浅野達の前でなら許してやる。でも、他の女の前でそんな風にしてみろ。縛道で動けなくしてやるから覚悟しておけ。」
ついでに髭も描き足してやるぞ?
挑戦的にそう付け加えて一護を見上げてやれば、同じく挑戦的な視線に射抜かれる。
「望むところだ。じゃあ、俺はお前が俺以外の男の前でおかしな真似をしたらどうしてやろうかな…。まあ、とりあえず、そんなことをした日には覚悟しておけよ。」
そんな、束縛ともとれる言葉と共に。
それが、心地いいなんて…。
私もおかしくなったものだな。



「一護、ここでは人目が気になる。早く帰るぞ。」
「ああ、帰ろうぜ。」
ここは、ソウル・ソサエティ。
いつ、誰の目があるともわからぬから…。
現世の駐在任務の報告のために行くと言えば、一護もついてきた。
浮竹隊長に報告書を提出し、口頭での報告も終えた後、朽木家に寄った。
その帰り道だった。
私の住む場所は、本来ソウル・ソサエティのはずなのに…。
私は、思っている。
一護の隣が、現世が、今は私の帰る場所だと…。
それを、一護も“帰ろう”と受け入れてくれる。



これから先、私は現世任務を終えて、ソウル・ソサエティに呼び戻されることがあるかもしれない。
それでも…。
ずっと隣にはいられない時が来たとしても。
一護と私は、きっと繋がっている。
それに、会いたければ、会いに来ればいいのだから。
そんな風に、求めてもいいと教えてくれた。
側にいていいと、思わせてくれた。



だから、私は我が侭になる。
もっともっと、と…。
一護の全てを、独占したいと…。
私の心が、求めている。
これだけの重さを持って気持ちをぶつけても、一護はいつだってそれを受け止めてくれるから…。
それ以上に、私にも気持ちをぶつけてくれるから…。
もう、きっと離れられない。
そんなことをふと思った、ソウル・ソサエティからの帰り道だった。



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